間章 眠れぬ夜
藁を枕に横になったけれど、目は冴えるばかりだった。
焚き火はすでに小さくなり、橙色の火の粉が夜気に溶けていく。六さんは静かな寝息を立てている。
私は寝返りを打ち、草鞋を脱いだ足を擦り合わせる。まだ慣れない藁の感触が、じんじんと残って痛い。
圏外のスマホはポケットの奥に沈んだまま。役に立たないのに、触れていないと落ち着かない。
耳を澄ますと、虫の声が重なり合い、遠くからフクロウの鳴き声も混じって聞こえてきた。夜の山って、こんなに騒がしいんだ……。家の近所の夜はもっと静かだった。
火がはぜる音に、心臓がびくんと跳ねる。
怖い。やっぱり怖い。
だって明日会うのは――猫又。化け猫。
「絶対やばいやつだよね……」
六さんが用意してくれた布団代わりの外套にくるまりながら、声にならない声で呟く。
けど六さんは迷わなかった。私を現世に帰すために、必要な存在だと信じているみたいだ。私にもこんな決断力があればな……
私は膝を抱えて、夜空を見上げた。星がびっくりするくらい近い。手を伸ばしたら掴めそうなくらい。
胸がぎゅっと締めつけられる。家族に会いたい。弟の声が恋しい。母の唐揚げをもう一度食べたい。
でも、今の私は六さんと一緒にいる。逃げられない。きっと、もう進むしか道はない。
目を閉じる。瞼の裏に化け猫の影がちらついて、すぐにまた目を開けてしまった。
「……眠れない……」
呟いた声は夜の闇に吸い込まれていく。
眠れぬまま、夜は容赦なく更けていった。




