第四十二話 次なる目的地
道端に腰を下ろし、一行は小さな会議を開いていた。
「時を割いて行くほどの猛者か?」
おもとが腕を組んで渋い顔をする。
「はい。ただし、味方になってくれればですが」
コマは淡々と答える。
「……敵になることもあるってことかい」
ハクが片眉を上げた。
「……それはどうでしょう」
コマが微笑する。
「コマにそんな知り合いがいたなんて……聞いたことなかった」
ロッテが目を細めて睨むと、コマは少し困ったように笑った。
「ごめんなさい。百年以上前のことだったから」
「ひゃ、百年!?」
伽耶は目を剥いた。
「それ、戦力っていうの……」
「伽耶さん、妖は歳を取りませんから」
六が静かに補う。
「あ、そうだったっけ……」
ハクが割り込むように話す。
「まぁ、魚津に戻るのが、多く見ても二、三日伸びるだけか」
「そうですね。何もなければ」
六がうなずく。
「またわけのわからん事させられて、時を無駄にされなければ良いがな」
「おい! それ、私のことか!?」
おもとが皮肉たっぷりに話すと、ロッテが声を上げる。
六は伽耶に視線を向けた。
「伽耶さん、少し寄り道になりますが行ってみますか? それとも、この面々で魚津に戻りますか?」
伽耶はしばらく考え、答えた。
「んー、じゃあ行ってみようか。もしこれで戦力が増えたら助かるし……ダメ元で!」
「だめもと??」
全員が揃って首をかしげる。
「え?ジェネレーションギャップ!?」
伽耶の声が虚空に消えた。
⸻
阿波国へ向かうことを決めた一行。
「まずは道を確認せねばなりませんね」
六が言うと、
「街道はわかりますのでご安心を」
コマが応じる。
だがハクがきっぱりと口を挟んだ。
「街道は行かないよ。山を越える」
「え? 本当に鳥にでもなれるのですか?」
コマが思わず声を上げる。
「ハクは狐に化けられる。山を走って行ける」
おもとが当然のように言った。
「方角さえ教えてもらえれば行ける」
ハクは自信満々だった。
しかし六は腕を組み、渋い顔を見せる。
「……無闇に走って、川や崖に当たれば時を取られます。魚津から来た時は街道沿いの山だったので安心できましたが……」
「じゃあ、これ使える?」
伽耶が通学用バッグから一冊の冊子を取り出し、六に手渡した。
六が表紙を開いた瞬間、手が止まる。
「……これは……!」
色鮮やかな山並み、川筋、細かい地名まで克明に記された地図。
六は思わず声を失った。
「な、なんじゃあ!?」「絵に色がついておる!」「こんな細かい……!」
おもと、ハク、ロッテが六の肩越しに身を寄せ、口々に叫ぶ。
六も目を丸くしていた。
「……伽耶さん、これは……地図……なのでしょうか」
「そうだよ。高校の地理の授業で使う地図帳」
「こう……こ?」
ハクが聞き返す。
「……地図帳、これはすごい」
六が地図帳に見入りながら言った。
「これを見れば山々の位置も分かるので、さらに早く到達できそうです。伽耶さん、これを少し借りても良いですか?」
「どうぞどうぞ。私、ほとんど使わないし」
⸻
街道を逸れて山へ入る前、伽耶は歩きながらコマに声を掛けた。
「コマさん、ありがとう」
「え? 突然どうされました?」
「えと、あの手紙読んだのに来てくれるとは思ってなくて……」
「ああ、これですね」
コマは懐から一通の紙を取り出した。
「いやぁ! 出さなくていいから!」
伽耶が真っ赤になる。
「ごめんなさいね。でも、正直……よくわからなかったんです」
コマの言葉にロッテが首を突っ込む。
「何の印かわからんものもあるし、呪いか何かに見えて気味が悪かった」
「ええ!? どういうこと!?」
おもともひったくるように覗き込み、鼻で笑った。
「なんじゃあ? 落書きか?」
「本当だ。気味が悪い……」
ハクまでが言い放つ。
「え? ちょっと! なんで!?」
伽耶は半泣きになった。
その様子を見て、コマがふっと笑った。
「文字はよくわかりませんでしたが……気持ちは伝わってきましたよ」
伽耶は思わず顔を赤くして、弓を抱きしめるように俯いた。
六が紙を手に取り、静かに見つめる。
「なるほど……これはさっきの冊子に似た書きぶりですね。伽耶さんが暮らしていた現世の書き方でしょう」
「ええ!? そんなに違うの!?」
伽耶は唖然とした。
「それより……よくこんなに細く書けるな。どんな筆じゃ」
おもとが目を細める。
「え、シャーペンだけど」
「しゃーぺん?」
伽耶は筆箱からシャーペンを取り出して見せた。
「いや、だから……これで書いたの」
「なんじゃそれはぁ!」
おもとの叫びが山中に響いた。
伽耶「いや、だから……シャーペン」
その様子を見てコマが怪しく笑う。
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コマさんへ
昨日はごめんね。
みんなを困らせちゃったかなって思ってます><
でも、私はまだ強くないから
どうしても迷ってばかりで……。
一緒に行けなくて、ごめんなさい(泣)
ロッテちゃんと仲良くしてね♡
いつかまた会えたらいいな、って思ってます。
じゃあ、体に気をつけて!
バイバイ☆
伽耶
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