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第三話 見知らぬ町並み

 そこに広がっていたのは、時代劇でしか見たことのないような町並みだった。

 土の道がどこまでも伸び、両脇には木造の家々。格子戸からは炊きたての米の香りが漂い、遠くでは荷車を引く男たちの掛け声が響いている。

 馬の蹄が石を打ち、行き交う人々の着物が風に揺れる。そのすべてが、私の知っている世界とはかけ離れていた。


「……嘘、でしょ……」



 通りを歩く人々が、私を見て足を止める。

 当然だ。私は制服姿のまま、通学用バッグを肩にかけ、ローファーを履いている。現代の女子高生——浮きまくっている。


「なあ、母ちゃん、あの人……」

「しっ、見ちゃいけません」


 子どもの声が背中を刺す。笑われるよりも、怖がられているような感じ。頬が熱くなった。けれど羞恥よりも先に、胸を突いたのは圧倒的な「場違い感」だった。


「伽耶さん、大丈夫ですか」

 隣で六が静かに問いかける。私は小さくうなずいたが、足は震えていた。


 道の脇に小さな茶屋があり、暖簾のれんをくぐる人々の姿を目で追う。木札に書かれた値段は「十文」「十五文」——見慣れない単位に頭が追いつかず、思わず目を白黒させてしまうと、六がそっと耳打ちした。


「伽耶さん、あれがぜにです」


「銭……? お金……?」

 聞き返した私の声が、かすかに震えた。


 現実味が一気に迫り、背筋に冷たいものが走った。


 通りを進むにつれ、行商人のかけ声、炭の匂い、竹籠を背負う農夫。目に飛び込んでくるものすべてが新鮮すぎて、頭が追いつかない。

 けれど同時に、耳の奥で「ここは夢だ」「現実じゃない」と叫ぶ声も消えなかった。


 私はその声を振り払うように、自分の頬をぺちんと叩いた。

「痛ったぁ……!」

 思わず声を上げると、六が目を瞬かせる。


「伽耶さん……何をなさっているのですか?」

「あ、いやっ……なんでもないです! ちょっと……夢かと思って……」

 恥ずかしさで顔が熱くなる。六は小さく笑って首を振った。


「夢なら痛みは残りませんよ」


 六は、全てを説明しない。ただ寄り添うように歩いてくれる。その距離感が、不思議と心強かった。


 私は制服のスカートを握りしめながら、再び前を向いた。

 馬のいななき、子どもの笑い声、風に揺れる暖簾。五感すべてを突き刺す「生の気配」に、私はただ呆然と立ち尽くしていた。

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