表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/59

第二十五話 魚津へ帰還

 夕方、三人はようやく魚津宿場町へと戻ってきた。

 山道を抜けた途端、潮の匂いと魚を焼く香りが鼻をつく。威勢のいい客引きの声が響き渡り、駕籠がすれ違うたびに埃が舞い上がった。


(ああ……人の声だ……町の匂いだ……)

 伽耶は胸をなでおろす。山での血なまぐさい記憶が、少し遠ざかっていくように思えた。


「はぁ……ようやく戻ったか……」

 おもとは肩を回し、強がるように言う。だが六の目には、まだ彼女の表情の隙に落ち込みが残っているのが見えていた。


 説子の札宿に辿り着くと、暖簾を押し上げた瞬間、宿の奥から声が飛んできた。

「ちょっと! 半月くらいの旅って言ってなかった!? 旅、早っ!!」

 説子が呆れたように笑いながら、腰に手を当てて三人を迎えた。



 しばらく休んだ後、六は宿の二階で改めて口を開いた。

「肥前国に渡るには船が最も早いでしょう。しかし……」

「わかるー、船酔いきついよね」

 伽耶がうなずく。

「いいえ。必要なのは通行手形です。船は街道より改め(取締り)が厳しい場合があります」

 六の言葉に伽耶は小さく肩を落とした。

「……じゃあ、歩くしかないってこと?」

「ええ。足腰の強い馬が見つかれば良いのですが」

 伽耶は黙り込み、やがて立ち上がった。

「……おもとちゃんの様子、見てくる」

 そう言って階下へ向かった。


 六の真面目な話は、今の伽耶にとって苦しかった。

 天音を助けることが正しいのか。昨日見た戦いよりもっと恐ろしい事になるのは自分でもわかる。自分のエゴで六やおもとが傷ついて行くのが容易に想像できる。

 これが現実。そう受け入れているつもり。でも心の葛藤は収まらない。そんな時に、六の論理的な話を聞く心の余裕がなかった。



 一階に降りると、広間には説子しかいなかった。

「おもとちゃん? ああ、さっき向こうに散歩に出たよ」


 夜になり、伽耶は町の外れまで足を運んだ。

「そういえば初めて六さんに会った時、夜は出歩くなって言われたなぁ……」


 月明かりに照らされた道端に、小柄な影が座り込んでいる。おもとだった。


「……悔しいのぅ……」

 小さな声が夜気に溶ける。

(……なんて都合の良いやつ!)ハクに言われた言葉がおもとの頭の中で何度も繰り返される。


 伽耶は何も言わずに隣に腰を下ろす。しばらく沈黙が流れた後、おもとが呟いた。

「お前は……怖くないのか?」

 伽耶は少し俯きながら答える。

「怖いよ……すごく怖い。でも……一緒にいると、不思議と大丈夫な気がする」

 おもとは鼻で笑った。

「……阿呆め」

 けれどその声は、ほんの少しだけ柔らかかった。



「これほどの人間を見るのは久しぶりだなぁ」

 突然、背後から声がした。伽耶とおもとは一斉に振り向く。

 闇の中に立っていたのは、ハクだった。


「ハク……! なんでここに!?」

 おもとの声が強張る。伽耶は反射的におもとにしがみついた。


「あたしがどこに行こうが、あたしの勝手さ」

 ハクは薄く笑った。

「匂いを嗅いでついてきたな?」

 おもとが睨む。

 だがハクは答えず、ただ二人を見据えていた。



 その夜、三人は宿へ戻った。

 広間で六が立ち上がり、ハクを見つけて目を細める。

「……なぜここに?」

「肥前国に行くって言ってたよね」

 ハクは腕を組んで言う。


「確かに。ですが、手形の用意がまだ……」

 六が言いかけると、ハクが遮った。

「長旅だな。……あたしもついてってやるよ」

 三人の声が重なる。

「えっ!?」


「礼はしないとね。封印を解いてくれたんだから」

 ハクはさらりと告げた。


「で……でも、そんな……」伽耶は思わず声を漏らす。怖さがまだ拭えない。正直、来てほしくない。ただ、怖い。


「明日、また来るから」

 それだけ言うと、ハクは宿を出て夜の町に消えていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ