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第二十一話 おもとと狐

 轟音とともに九尾の狐が飛びかかる。

 おもとは真横に跳び、狐の牙をかわした。


 続けざまに噛みつき。

 ガッ、ガッ!

 そのたびにおもとの小さな体が翻る。狐の巨体が通るたび、地面が削れ、破片が飛び散った。

大地に響く低い唸り声と、焦げたような匂いが鼻を刺す。



 狐がおもとに向かって突進する。

 おもとが飛び退くと、狐は勢い余って社を粉々に砕いた。


「……化け物……」伽耶は膝が震える。理解が追いつかない。ただ呆然と見つめるしかなかった。


 狐の尾が大きく広がり、赤紫色の火の玉が九つ浮かび、一斉におもとへ襲いかかる。


 おもとは枝を蹴って宙を舞い、岩を蹴り、身をひねり――すべてを紙一重で避けきった。

 着地と同時に息をつく。


 おもとが顔を上げたその瞬間、真正面には巨大な口。


「……!」


 牙に噛まれ、おもとの体は裂け――真っ二つに引き裂かれた。


「――――っ!」

 伽耶は口元を押さえ、声すら出せない。足がすくみ、ただ震える。


 だが切り裂かれた体は、煙のように消えていった。

「……え?消えた……?」

伽耶が眼を見開く。



 その時、おもとが狐の後ろに現れる。狐が振り向いた瞬間、おもとが空中から狐の首元めがけて後ろ回し蹴りを叩き込んだ。


 狐が仰け反る。

 一拍遅れて狐の首元から無数の黒い爪の波がとばしり、狐の巨体を掻きむしる。


 血を流しながら、なおも突進してくる狐。

 おもとも走り出す。


 おもとは蹴りを放つ――だが口で捕まれた。牙が足を挟み、そのまま振り回され、砕けた社の中へ叩きつけられる。


 ガラガラと崩れる瓦礫。

 おもとの体はその下に埋もれた。


 沈黙。

 狐が警戒しながら横歩きで近づく。


 ――その時。

 瓦礫を弾き飛ばし、おもとが飛び出した。右手の拳が狐へ。


 ガッ!

 狐はおもとの右腕を噛み砕こうと押さえ込む。だが、すかさずおもとの左の拳が下顎を打ち上げた。


 顎が跳ね上がり、牙が右腕を離す。

 直後、黒い爪の波が顎を裂き、血が飛び散った。


 おもとの右腕からも血が流れる。下顎に打ち込んだ時、狐の牙が更に深く刺さったため、深手を負ってしまう。しかし構わず走り出す。


 おもとが狐の前足めがけて滑り込み、前足を蹴り倒す。一拍遅れてさらに爪の波が狐の前足を抉った。


 狐は苦悶の声をあげ、前屈みに崩れ落ちる。


 おもとはすかさず右足で地面を思いきり踏みつけた。

 沈黙の一瞬――その後、地面から黒い爪が無数に噴き出し、土と共に波のようにうねった地面が狐に向かって突っ込む。


 ドォォン――!

 狐の巨体が土煙に包まれ、姿を失った。


 伽耶は目を見開く。

(何も見えない……)


 少しずつ土煙が薄れていく。

 だがそこには――狐の影は見えない。


 ようやく土煙が薄れて来ると、人影が浮かんできた。

 ほとんどの土煙が消えると、そこには白い着物に紫の花柄。日本人形のような髪。おもとと同じくらいの年頃の少女が立っていた。


 首や手から血が滴り、さきほどの狐と同じ傷を負っている。


「……ずいぶん腕が落ちたなぁ、ハク」

 血に濡れた腕を抱えながら、おもとが吐き捨てる。


「動くのも久しぶりだからね」

 少女――ハクは冷たく笑った。

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