第十九話 旅立ちの朝
翌朝。魚津宿場町の空は薄曇り。旅籠の前で、伽耶・六・おもとの三人は支度を整えていた。
見送りに出てきた説子が、不安げに口を開く。
「次は……いつ戻ってくるの?」
「半年ばかりで戻れると思います」
六が淡々と答えると、背後で天音が小さく呟いた。
「……半年……」
三人は顔を見合わせたが、天音には旅の目的を話していない。策が確実でない以上、希望だけを与えて裏切るわけにはいかないからだ。
「天音ちゃん、必ず帰ってくるから! それまで絶対に元気でいてね!」
伽耶は明るく笑みを作り、力いっぱい声をかける。
天音は黙って頷いたが、その瞳は揺れていた。
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「まずは通行手形ですね……」
街道へ歩き出して間もなく、六が切り出した。
「ねぇ六さん。ホントに半年もかかるの?」
伽耶が振り返る。
「はい。往復となればそのくらいは」
「そんなに時間かけて……大丈夫かな」
「他に策があれば良いのですが……。私の知る限り、この近くには仲間になってくれそうな方はおりません」
六の言葉に伽耶はうなだれる。
おもとは難しそうな顔をして黙っていた。
「……仕方ないか。天音ちゃんのためだもんね」
伽耶が小さくつぶやく。
「それまで天音さんの父上が無事でいることを、祈るしかありませんね」
「天音ちゃんのことも心配。また一人で山に行かなきゃいいけど……」
伽耶がそう言った時だった。
おもとが突然、歩みを止めた。
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「言うべきか迷ったんだが……思い当たる奴が一人おる」
「えっ!?」
伽耶と六は揃って目を丸くした。
「……あやつとは昔から因縁があってな。仲間になってくれるかどうかは……」
おもとは口ごもる。
「その方はどこに?」
六が目を細める。
「あっちじゃ」
おもとは迷いなく指を差した。――肥前とは逆方向。
「ここからすぐ近くの山におる」
「すぐって……どれくらい?」伽耶が聞く。
「まぁ、一日もあれば着く」
「えぇ!!なんで今まで言わなかったのよ!!」
伽耶が叫ぶ。
「半年歩く覚悟したのに……」
頭を抱える伽耶の横で、六は静かに腕を組んだ。
「……私の策とは、大きく違ってきましたね。本当にすぐ近くに、ですか?」
六の視線は険しく、ただならぬ気配を感じ取っていた。
「ん……ただ本当に仲間になってくれるかはわからんぞ。できれば会いたくない奴でもある……」
「どんな因縁が?」
六は俯いているおもとの顔を覗き込む。
「んー……あまり話したくないが……説子のためだしのう」
「そうですね。ここから一日の場所なら、行って見ましょうか。案内して頂けますか?」
「……わかった」
おもとはしぶしぶ了解した。
「因縁って……何??あんまりいい響きではないけど……」
伽耶は心配そうだ。
「まぁ……それは、道すがら話す」
おもとは俯いたまま歩き始めた。




