第十六話 真実編(前編)
説子と天音は台所で忙しくしており、ここには伽耶と六とおもとの三人だけ。
昼間の「切場」で見た光景が頭から離れず、部屋の空気は重苦しい。
布団に入っていた伽耶が、ぽつりと漏らした。
「どうすればいいんだろ……」
「あーあ。久しぶりに暴れたかったのう」
布団の上に座っていたおもとが、あくび混じりに呟く。
六は机で書物を読み続けている。伽耶の声にもおもとの愚痴にも反応しない。
沈黙が続く。
「……なんで何も言わないのさ!」
しびれを切らした伽耶が声を荒げる。
「何もしないならさ、なんで見に行ったの?」
「伽耶さんが見に行きたそうだったからですよ」
六は書物から目を離さないまま淡々と答えた。
「それは……おもとちゃんが言ったからで……!」
「ワシのせいにするな、阿呆」
おもとは布団にごろりと寝転がる。
重苦しい沈黙。伽耶は唇を噛み、やがて絞り出すように言った。
「……思い出しちゃったんだよ。きっと私の家族も、今頃……私を探してるんだろうなって」
目に涙が滲む。
「天音ちゃんのお父さんは、手が届く所にいるのに……私の家族はさ……」
伽耶は涙声で問いかける。
「六さんはどうして、すぐに助けられる天音ちゃんのお父さんを無視して、どこにいるかもわからない酒呑童子を優先するの?」
「見るだけの約束でしたから」
六の答えは冷たいほどに機械的だった。
「だからなんでさっきからそればっかり……!」
バン!、と六が書物を強く閉じた。
静かな部屋に音が響き、伽耶がびくりと体を震わせる。
六は真っ直ぐ伽耶を見据えて言った。
「つまり伽耶さんは、確かな証拠もないまま、私たちだけでなく――天音さんの命まで賭けろと仰るのですか?」
「え……どういう事……?」
伽耶の声はかすれる。
「だからワシだけでやれると言うとる」
おもとが寝転がったまま口を挟む。
六は首を横に振る。
「それをすれば、戦になる恐れがあるのです」
伽耶は言葉を失った。
六の冷徹な眼差しに、部屋の空気が張り詰める――。




