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第十四話 父親
茶屋の長腰掛に、湯気の立つ茶と手つかずの団子。
天音は真っ直ぐ六を見て言った。
「切場で……父と同じ柄の着物を着た人を見たんです」
声は必死だった。けれど六は静かに答える。
「……見間違いの可能性はありませんか?」
おもとは団子をかじったまま、じっと天音を見つめる。何も言わないが、その無表情がかえって重たい。
「でも……もし本当にそうだったら?」
伽耶は心臓をぎゅっと掴まれたように思った。根拠はない。けど放っておけない気がして、胸がざわつく。
不意に、おもとが口を開いた。
「見に行くだけなら、行っても良いが?」
「えっ!? なんで急に!?」伽耶が思わず素っ頓狂な声をあげる。
「だって、こやつが行きたそうにしておるから」
おもとは団子の串で伽耶を突きながら指さす。
「いや、行きたいって訳じゃないけど……その……もし本当だったら、なんか嫌じゃん」
伽耶は耳まで赤くしながら言い返す。
六は少し考え、やがて頷いた。
「伽耶さんがそう言うなら……行くだけ行ってみましょうか。ただし、見るだけですよ」
「……ありがとうございます!」
天音が深く頭を下げる。
こうして一行は茶屋を後にし、天音の案内で山道へ向かった。
「結局また山かよ……。絶対、明日も筋肉痛だろこれ」
伽耶は心の中でツッコみながら、重たい足を前に進めた。




