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第十三話 天音の証言:前編

一年前ひととせまえ、お父が畑に行ったきり帰ってこなくなったんです」

 声は小さく震えていた。けれど、話すうちに抑えていた感情が次第にあふれ出していく。


「村の人は皆“餓鬼に喰われた”って言いました。畑に残ってたのはくわかごだけ。だからって……どうしてそれで決めつけられるんですか! 骨も、布の切れ端も、お母のお札も、何も残ってなかったのに!」

 堪えていた怒りが、机を叩くように言葉へ乗った。


「私は信じられなかった。絶対におかしいって思った。だから……毎日のように畑の周りを探しました……」

 握った拳が白くなる。

「でも、何も見つからなくて。皆は“無駄だ”って言う。でも……それでもやめられなかったんです」


 やがて天音は、声を落として続けた。

「ある日、山の麓に足を向けたら……急に体が重くなって、気持ち悪くなって、足が前に進まなくなったんです。怖くて、引き返しました。でも……どうしてもその場所が気になって。何度も通った。何度も、何度も……」


 小さな沈黙。

 天音は両手を胸の前に持ち上げる。

「ある時、“なんでだろう”って思って……手をかざしたら、急に楽になったんです。嘘みたいに、息ができるようになって。……それで、入れたんです。山の中に」


 そこで彼女の声は、震えながらもさらに力を増した。

「山を進んで行ったら海が見えてきました。そこには……人間がいました。足に枷をつけられて、鬼に怒鳴られながら、木を切らされてた。丸太を運ばされてた。牢屋みたいな小屋もあって……人が、獣みたいに押し込められてたんです……」


 伽耶は息を呑み、おもとでさえ一瞬だけ手を止めた。


「怖くて……逃げました。声も出せずに走って逃げて……。でも、胸の奥で思ったんです。――もしかしたらお父も、あそこにいるんじゃないかって」

 視線が揺れる。唇を噛み、肩が小刻みに震える。


「でも誰にも言えなかった。弱い私の代わりに、命を懸けて戦ってくれる人なんて……いるはずがないから」

 最後の言葉は、喉が詰まったようにかすれて消えた。


 そうして天音は、何ヶ月もその悩みをひとり抱え続けていた。

 昼は笑顔で宿を手伝い、夜は胸の奥が重く沈む。その繰り返し。


 そんな折に現れたのが伽耶たちだった。

 説子が夜、二階の部屋で「おもと」の話をしているのを、廊下の影で盗み聞きした天音は、胸を大きく揺さぶられた。

 熊すら退けるという妖なら――もしかしたら。


 悩んで、悩んで、また悩んで。

 そして今日、ようやく決意したのだ。

 この人たちにだけは、打ち明けてみようと。

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