第十話 説子との再会
「説子さんが待ちわびていますよ」
六が柔らかな声で言う。
「……会いたい」
おもとは小声で独白した。
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おもとを伴い、ようやく山を下りた伽耶と六の三人は説子の宿へと戻ってきた。
下山する前に、おもとは大切に仕舞っていたワンピースに袖を通していた。二十年前、説子からもらったものだという。今まで着なかったのは「大事にしていたから」――それだけで、おもとの胸の内が伝わってくるようだった。
戸口をくぐった瞬間、説子は目を見開いた。
「……おもとちゃん!」
駆け寄るや否や、子を抱きしめる母のようにおもとをぎゅっと抱きしめる。
おもとは恥ずかしそうに眉をひそめたが、その瞬間だけ、ほんのわずかに目尻が緩んだ。抗わずにそのまま抱擁を受け入れる。
「ずっと会いたかったんだよ……」
説子は涙を流す。そしておもとを抱きしめたまま伽耶たちを見た。
「二人が連れてきてくれたんだね!ありがとう!ありがとう!」
しばらくして二人は落ち着き、懐かしげに言葉を交わす。説子は途切れなく思い出を語り、おもとは小さく相槌を打つだけ。それでも、二人の間には確かな絆があった。
やがて二階の部屋に戻った伽耶は、ずっと気になっていたことを口にした。
「ねえ六さん。なんで用心棒になってって言わなかったの?」
六は穏やかに笑みを浮かべた。
「突然“力を貸せ”と言って、はいそうですかと付いてはきませんよ。まずは説子さんに会わせること。それでおもとさんの心を和らげる必要があったのです」
「……え、六さんって策士キャラだったの?」
伽耶は思わず内心でつぶやく。冷静なだけじゃなく、人の心まで読んで動くなんて――やっぱり底が知れない。
下で談笑を続けていたおもとだったが、ふいに階段を上がってきた。
部屋に入るなり、じっと二人を見据える。
「おい。お前ら……何か企んでおるな?」
「え、ちょ、何のこと!?」伽耶は慌てて返す。
「説子と会えたのは嬉しい。だが説子はずっと喋っておるし、聞くのが疲れた! それにお前らだけでこそこそ話している! 怪しすぎる!」
ぷんぷんに怒っているのに、どこか可愛らしい。
「やばい……怒ってるけど可愛い……」伽耶が小声でつぶやく。
「静かに」六は真顔で伽耶を制した。
「戦いになれば一瞬で我々は消し炭です。弓の用意を」
「え、えぇぇ!? そういう流れ!?」
六はまっすぐにおもとを見つめ、静かに告げた。
「おもとさん。どうか、私どもの仲間になってください。伽耶さんを現世へ帰すための旅路――あなたの助力が必要なのです」
おもとは無表情のまま、黙り込んだ。十秒、二十秒……。
「……お団子とか……おにぎりとか……美味しい物がたくさん食べられるよ……」
沈黙に耐えきれなくなった伽耶が、意味不明な言葉を口走る。
重苦しい沈黙の中、突如――ぐぅぅぅ、とおもとのお腹が鳴った。
「……団子ぉ……?」
小声で呟いた瞬間、おもとは伽耶に凄まじい勢いで迫る。
「……団子……食えるのか?」
「え、ああ、まぁ……でも仲間になってもらわ……」
「いいよ」
伽耶が言い終わる前におもとが即答した。
「……へ?」
「では、団子を買いに行きましょうか」
六がクスッと笑い、さらりと言う。
「ちょ、そんな軽いノリで仲間増えるの!? 契約とかないの!?」
伽耶は全力でツッコんだが、六の余裕ある笑みを見て、確信せざるを得なかった。
――こうして、おもとは仲間に加わることになったのだった。




