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 もちろんマチルダのそんな内心をロイドが知るはずもない。不意に沸き起こった歓声に彼の注意が逸れた。

 マチルダも釣られてそちらへ目をやると、何やら色々と見世物をやっているらしい。手品師が鳩を舞わせているのを見るに、何もないところから鳩が出てくる手品が行われていたのだろう。

 その横には玉乗りがいるし、さらにその横では人形芝居が行われているし、なんとなく人波に押されて歩きながら話すうちに移動していたようだ。

 せっかくなら何か見ていこうか。声をかけようとロイドを振り仰いだマチルダは、彼が険しい表情になっているのに気づいて驚いた。

 彼の視線を辿ると、占い師が水晶玉を前に客の未来を占っているところだった。フードで顔が隠れているし、声もあまり聞こえない。知り合いというわけではなさそうだが……

(……ロイド様がこんなにあからさまに嫌悪感を表情に出すのって珍しいかも……)

 それこそマチルダに対して、自分はまじないごとが大嫌いだと言い放った時くらいだ。高位貴族ゆえか、彼はあまり個人的な好悪の感情を表に出さない。礼を失するというのもあるだろうし、弱みを見せないという意味もあるだろう。

 その割にマチルダのことは色々とからかったりしてくるが、好悪というより、むしろよけいに本心を見えなくしている気がする。

 それはともかく、占い師のことだ。

「……ロイド様? お顔が怖いのですが」

「……あ? ……ああ、すまない」

 短く謝り、ロイドはこの場を離れようとした。別に反対する理由は無いから引き留めずについていくが、それはそれとして、この態度はどういうことだろうか。

「…………ロイド様?」

 マチルダは圧力をかけた。逸らされたままの視線を捉えようとする。

「仲睦まじい恋人として、隠し事なんてなさいませんよね? 私にあれほど突っ込んでおいて、それはないですよね?」

「君のそれ、わざとか!?」

「?」

 マチルダは首を傾げた。ロイドは「言葉の選び方……」と頭を抱えている。わけがわからない。

 あれほど突っ込みを入れてマチルダの初恋話をあれこれ聞き出しておきながら、自分はだんまりなんて、そうは問屋が卸さない。

 ロイドは折れた様子で、溜息をついて話し始めた。

「……まあ、そのうち君も知ることになるだろうし、隠せるものでもないから話しておく」

 マチルダは頷き、口を挟まずに聞いた。なんでもロイドの母親が怪しげな占い師を贔屓にしており、占いやまじないに傾倒していたのだという。果てには実生活に影響が出るほどになり、家族の行動をも制限したり、知識のない領地経営に口を出そうとしたり、行動が目に余るようになって結局離婚に至ったのだそうだ。

「……それは……」

 マチルダは言葉が見つからない。彼がまじないを憎んでいたのは、そうした過去の経験があったからなのだ。

 ロイドは重い口調で言った。

「そうした迷信は人を狂わせる。しかも迷信は……力を持つことさえある。でたらめなまじないが魔の力を帯び、人の心の隙間に忍び込み……現実的な力をふるうことさえある。無害な迷信なんて無いんだ。そこにあるのは、有害な実際の力か、まだ力を持つに至っていない虚構。そのどちらかだ」

 しかも、とロイドは言葉を続けた。

「その中には本物もいる。君ほどではないが多少なりとも魔法の力を持つ者もいる。ついでに、野心のある者もいる……侯爵家の力を目当てに寄ってくるような」

「……それは……確かに、厄介ですね……」

 実際にそうした者が侯爵家の権力を狙ってきたことがありそうな口ぶりだ。もしかすると、占い師に傾倒していた母親を通じて、そうした者が寄ってきたのかもしれない。それはまじないにもいい思い出がないわけだ。

 しかもマチルダは、彼に思いを寄せる女性たちにもまじないを施してきている。ロイドの心を変えるようなものではないが、お近づきになれるようにとかけたまじないがロイドにとっては鬱陶しく厄介なものであった可能性は否めない。

 実母は占い師に傾倒し、自身には「宮廷のキューピッド」によるまじないのために煩わしいことが増え……それは怒りたくもなるだろう。実際にマチルダの魔女の力を目にして、対処しないといけないと苛立ったりもしただろう。

(うーん……事情を聞いてしまうと申し訳なくなってきてしまうわ……)

 最初はただただ失礼で傲慢で顔と家柄だけの者だと思ってきたが、彼は彼で色々と抱えていたのだ。

 彼の立場を考えれば、マチルダに対する態度はかなり抑制的で融通の利いたものである気がする。

 王国を脅かしかねない魔女の力。それに監視者として関わらざるを得ない立場。個人的な事情で関わりたくないなどと我儘が言えるはずもなく……

(……それなのに、これだけわざとらしく甘い態度を取ってくるのって色々おかしいわね!?)

 ロイドがマチルダに一目惚れをしたなどという有り得そうもない事情がない限り、絶対なにか意図があってのものだと思うのだが。

「あの……」

 何をどう言ったらいいか分からないままにマチルダが口を開きかける。そこへロイドが待ったをかけた。

 彼は唐突に話を変えた。

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