【第五話】そんな罠があるか
王子付きメイドになって、そこそこ日が経った。
その日、リュシアン王子に連れられた先は、政務室。
中には、見るからに高級そうな服を着た貴族たちがずらり。
(ひええ……いつもと空気が違う……)
できるだけ小さくなりながら、王子の後ろをついていく。
そのときだった。
「フィオナ、そこに座れ」
「えっ」
突然の指示に、思考がフリーズする。
政務室の椅子なんて、絶対高い。
椅子に座っただけで「壊したから弁償な」と言われる未来が見える。
(いや、待てよ……?)
必死で頭を回す。
(これはテスト?
『忠実な使用人なら、椅子など座らず、立ったまま王を支えるべし』みたいな……!)
理解した。これは忠誠心の試練である。
正解を導き出した私は即座に、深く頭を下げた。
「お気遣いありがとうございます!私は立ったままで結構です!!」
……と言った瞬間。
「座れ」
「!?」
リュシアン王子は微動だにせず、重く、短く命じた。
それは、もう、
「次に断ったら領地ごと消すぞ」
くらいの迫力だった。
(……あれ?もしかしてこれ、
断ったら椅子代どころか命の請求されるやつ?)
思考が急旋回していく中、私は震える手で椅子を引き、
ほとんど気絶寸前で腰を下ろした。
座った瞬間、
周囲からざわざわとした視線を浴びる。
(見ないで、お願い見ないで……!
私は空気、ただの空気です……!)
が、リュシアン王子は、なぜか満足げだった。
「よし、それでいい」
その声音に、ちょっとだけ心臓が跳ねる。
(……もしかして私、今、王子のお気に入りっぽく見えてる?
違う。
『座れと言われたら座る、命令には逆らうな』っていう、使用人教育です。たぶん)
またしても、誰にも求められてない深読みをしながら、
私はガチガチに固まっていた。
──続く。