【第四話】その笑顔が一番怖い
私は新たな任務を拝命していた。
「これからは、業務中も水分補給を欠かすな」
と、リュシアン王子がきっぱり言ったのだ。
「えっ……えっ……?」
私は混乱した。
というか、メイドの業務内容に「水分補給義務」なんて聞いたことがない。
「は、はい……水筒でも持ち歩けばいいでしょうか?」
「それでもいいが、こちらで用意したものを優先しろ」
そう言って、リュシアン王子は控え室のテーブルを指差した。
そこには——
高級ホテル並みに整ったティーセット、
魔法で温度管理されたフルーツウォーター、
そして、煌めく氷まで完備された銀製の水差し。
(……え、なにこれ?)
私は思わず絶句した。
「すぐに飲めるよう、執事らに手配させた」
王子は当然のように言う。
いや、当然じゃない。
全然、当然じゃない。
私の仕事を奪わないでほしい。
(……使用人の水分補給に王宮のリソースを使っていいの?)
私は喉を鳴らしながら、脳内でまたもや恐れていた。
あとでいくら請求されるのか。
恐怖で震える指先を見られたのか、リュシアン王子はひと言だけつけ加えた。
「費用はすべて、俺の個人負担だ」
「——えっ!?」
私は変な声を出してしまった。
「いいから飲め。命令だ」
王子はあくまで静かに、だが逆らえない圧で命じた。
(め、命令って言われたら、もう従うしかない……)
こうして私は、
「水分補給義務」というよくわからない新業務を追加されることとなった。
一方、リュシアン王子は——
なぜか少し、嬉しそうだった。
(なに?もしかして、私を動物か何かだと思ってる……?)
そんな疑念がよぎったが、言えるはずもない。
こうして今日も、
私フィオナ・ウィンスレットは、
恐怖に怯えながら高級フルーツウォーターを飲み干すのであった。
──続く。