バレた
今回はイソップ寓話集の前書き、後書きはありません。
今日も濃厚チョコステッキを買いに来た。今日は川端もいる。嫌いじゃないとはっきり言ったことにより、信頼度が高くなったのだろう。
―今日の放課後―
川端「今日、ついて行っていい?」
何か申し訳なさそうに言った。
鳩本「いいよ。」
川端が話しかけてくれて少し嬉しかった。
何?!なんだこれは?
『濃厚チョコステッキパイナップル味』
新作だと?!いや、いけない。僕はこの通常のチョコの濃厚さにハマったのだ。ここで新たに目にするパイナップル味に浮気するわけにはいかない。
ノーマルチョコ「ありがとう!葵くん!私がそんなに好きなのね!」
パインチョコ「いや、私の方がフルーティな味がするのだよ。きっと私を選ぶわ。」
ノーマルチョコ「何?私たちの三カ月間を否定したいの?葵くんが今更パインちゃんを選ぶわけないじゃない?!」
パインチョコ「はあ?!工場の人に謝んなさい!」
ノーマルチョコ「この、ぽっと出が!」
鳩本「両方買お。」
川端「パイナップル味、私も気になる。」
パイナップル味のチョコは食べたことがある。どうも好みではなかった。しかし、濃厚チョコステッキとも美味しいお菓子だとどうなるのか。
姫崎「お客さん、よく来て下さるからまたくじ引けますよ。」
ナマケモノキーホルダーは家に置いてある。かばんに飾ってコンビニに来るのは少し恥ずかしい。
鳩本「川端が引いたら?」
川端「いや、はとのやし。」
鳩本「いいよ。引いて。」
川端「じ、じゃあ!もう一個溜まったら一緒に引こう。」
鳩本「そうか。」
ノブオ君は自分のテリトリーを持つのに飽きたらしい。何かを大切にするって難しい。
さて、パイナップル味さんよ、君はどんな味だ。川端と目を合わせ袋を開いた。袋からは濃厚なパイナップルの匂い。
川端「うげっ、私無理。」
川端は匂いに敏感なのか?開いた瞬間、というか開く直前で少し嫌な顔はしていた。
さあパイナップル味よ、僕の印象を良いものへ塗り替えろ。
三割口に入れた。結論、「あまり好みではない。」
川端「公園、飽きない?」
鳩本「飽きるというより習慣だから自然と来ちゃう感じ?」
川端「私、飽きた。」
ついて来たいって言ったのは川端だろ。
川端「というわけで、私の話聞いて。」
鳩本「なんじゃ。」
メッセージで川端から送られてきたセリフを言った。
川端「私の名前、川端瑞樹やん?」
鳩本「ほん。」
川端「書いてみるとわかるんやけどさ。端瑞ばたみずってほぼ同じ漢字が続くの。」
鳩本「確かに?」
川端「嫌。」
鳩本「それだけ?」
川端「それだけ。」
中身がない。たこ抜きたこ焼き、いちご無しショートケーキだ。
すると、誰かさんのボールが転がってきた。
女の子「お兄ちゃんたち、いつもなにしてるの?」
なんということだ。子ども側から覚えられてしまった。そういえば僕も小さいころに謎なことはたくさんあった。小学校のグラウンドに立ち入り禁止のエリアがあったり、お母さんといつも話している女性が誰なのかわからなかったり。謎な側に立てたのは嬉しくないわけでもない。
鳩本「くつろいでるだけだよ。」
女の子「くつろ…なんて?」
川端「はと。難しい言葉はわからへん。」
川端「この人はね、お菓子を食べたいって言って公園で子どもをじろじろ見てる変態だよ。」
鳩本「違う!」
女の子「変態…はわかる。」
わからなくていいの!
鳩本「公園が好きなんだ。座って休んでるだけ。」
伝わったか?
女の子「向こうでドッヂボールしよ。」
ついには遊びに誘われてしまった。
鳩本「ごめん、ドッヂボールは…。」
川端「お!いいね、ドッヂボール!」
やばい。こっちのスイッチが入った。腕をぶん回している。まさか川端、この子相手に本気の勝負しようとしてないか?
鳩本「ダメや。」
川端「いいやん。やらせてや。」
この子が泣くか、川端が不機嫌になるか。どちらがよりめんどいか。天秤はこの子が泣く方に傾いた。
鳩本「ダメや。」
川端「なんで?」
鳩本「なんでも。」
女の子「ねぇ。」
鳩本「ごめん、お兄ちゃんたちこの後用事があるんだ…。」
女の子「いつか遊んでね。」
悲劇は免れた。川端は予定通り不機嫌になった。
―週末、何故か再び僕の部屋に川端と吉良さんがいる。
鳩本「何かな?」
川端は何も言わず、何かを置いた。
川端「トランプ。」
吉良「ババ抜き大会開催!パフパフ!」
吉良さん…。
トランプは新品らしい。川端はシャッフルが上手くできると言いやって見せた。だがご想像の通り、盛大にぶちまけた。
川端「嘘じゃない!」
嘘だろ。
シャッフルは吉良さんが行い、カードは均等に配られた。ババは僕のところにある。右回し、川端が僕のカードを取る。
川端から引く。
川端「へっへ。どれにしようか〜。」
なかなか取らない。
鳩本「一手目くらい早く引いて。」
川端「せっかち関西人め。」
そして思い切り引いた。
鳩本「あ。」
ババが取られた。川端を見るとものすごい変顔をしていた。上唇を下唇で隠し目を見開いている。少しは隠す努力をしろ。
吉良「ババ貰ったね。」
ほーらバレた。
吉良「はーいじゃあ引きまー…」
眉間に力が入り、口がピクピクしている。これは…
吉良「こんなのありかよ!」
認めたー!
しばらくババを渡し合い、次は川端が引く番だ。
川端「そろった。」
何?!ということは…。
川端「引、い、て?」
吉良さんがとても悔しそうに最後の一枚を引いた。まさか川端が一番にあがりとは予想しなかった。
川端「よっしゃー!」
ここからは吉良さんとのタイマンになる。カードを引いていけば必ず2:1になる。僕がババを持った。
川端「よっ!男同士!へこたれるな!頑張れ!」
よしここからは心理戦…。え?男同士…?
鳩本「え?」
吉良「かかったな!それ!」
カードを取られた。
吉良「ほらキタ!あがり!」
負けた。男…?
吉良「瑞樹ちゃん、別に言わなくて良かったのに。」
川端「へ?何が?」
二人の中では当然のように話している。
鳩本「男…?」
吉良「そうやで。可愛かろ?」
鳩本「はあ…。」
川端「惚れたか?」
ぎゅる…
吉良「あ…またトイレ借りていいですか?」
鳩本「どぞ…。」
男子だっただけだ。吉良さんには変わりない。
川端「ゲームある?」
鳩本「カートなら。」
吉良さんが長い闘いから戻ってきた。
吉良「カートやん!」無視…?
川端が何気に強い。だがしかし、ここで一位に躍り出る!レース終盤なので抜かされることはないだろう。
川端「あー、負けるー。」
何?!後ろから赤甲羅…!棒読みが腹立つ!
川端「あれ〜?なんか勝った〜?」
吉良「次私も入れて。」
鳩本「お菓子取ってくる。」
吉良「あ、私も行く。」
吉良さんが台所についてきた。母は録画したドラマを見ている。
母「こんにちは。」
吉良「どうも…。」
お菓子は何がいいだろう?悩む。吉良さんが来ていて良かった。
鳩本「どれに…」
吉良「びっくりした?」
ここは正直に。
鳩本「びっくりした。」
吉良「…。」
鳩本「あの!これはまさかという意味で、女の子にしか見えないというやつ…?」
吉良「ごめんね。ありがとう。しょっぱいのがいい。」
口を滑らしそうなのでこれ以上何も触れないでおこう。
夕方、二人は帰った。
母「女の子ばっか連れて来るのね。」
鳩本「…関係ないやろ。」
先程の吉良さんのセリフが気になっている。
吉良『また、学校で。』
学校ではあまり気に掛けていなかったので姿は見ていない。どんな格好だっていい。気にしてしまうのが良くない。
僕の名前は翠だ。母親に教えられた。
母「翠。ゼリー、買ってきたでー。」
翠「やったー!」
幼少の頃はあまり覚えていないけれど、母はよくぶどう味のゼリーを買ってくれた。ゼリーは何味でも好きだけど、特にぶどう味のゼリーが好きだった。理由?そんなものはない。
日曜の朝にアニメが放送されていた。よく見ていた。女の子向けだと知ったのは数年後のことだった。
母「ラブリービーム!」
翠「違う!ラッブリー、ビーム!」
母「グハッ。なんてパワーだ…。」
まだ何も知らない僕に対してラブリービームを放ってきた。母は優しい人だ。
七五三の写真を見て僕は母に尋ねた。
翠「これ何?」
母「これはね、袴って言うの。七五三で男の子が着るものなんやで。」
翠「へえ。」
とある日の夕方、晩御飯中にニュース番組を見ていると振り袖を着ている綺麗な女性が映った。
テレビの女性「京都といえばね。」
リポーター「いやー、ほんとお綺麗ですね。」
ぼーっと眺めていた。きれい…。
母「こら!こぼしてる!」
翠「あー。」
母「ちゃんとご飯に集中して食べなさい。」
日曜、今日放送されたアニメですごく印象的なシーンがあったので人形でそのシーンを再現していた。
「きゃっ!なんてつよいの?!」
「こうなったら、あれをつかうのよ!」
「そうね、あれならいちげきだわ!」
ぴかーん!きらきら、すたっ。
「ウルトララッブリー、ビーム!」
ビューン!
「ナンダソノワザハ?!」
非常にかっこいいシーンだ。再現も上手くいった。
遠くで両親が何か話している。よく聞こえない。
母「もうすぐ、翠の誕生日やろう?」
父「ああそうだな。」
母「あれ、今日行ってしまおうかと思って。」
父「ああ!確かにちょうどいい。」
大人は話している言葉が難しい。落ち着いているし、面白くない。
母が近づいてきた。
母「翠、今からお出かけしよっか。」
翠「何するの?」
母「可愛い翠の写真を撮ってもらうの。」
僕の写真?写真ならいつも携帯?で撮っている。
車に乗ってどこかへ向かった。車の中はアニメの主題歌が流れている。
翠「ずきゅんとおしおき♪ラブリービーム♪」
車が止まり、外へ出た。なぜか見覚えがあった。建物に入ると、いろんな服が置いてあった。
母「あれ、前教えた七五三っていうやつ。」
は…なんとかって言っていたのを覚えている。母が大人と話した後、部屋に連れていかれた。そこには着物がたくさんあった。
写真屋「サイズはこれくらいですね。」
は…なんとかを身体に押し当てられた。ふと、振り袖が目に入った。あ、テレビで見たやつ。
翠「ねぇねお母さん。あっちがいい。」
もちろん母は驚いた。だが、しゃがんで僕に訊いた。
母「なんであれがいいの?」
翠「テレビで見た。着たい。あれで写真撮る。」
ワクワクでたまらなかった。テレビで見た服が目の前にある。
母「ちょっと待っててもらえますか?」
母は部屋を出ていった。ガラス越しに父と話している様子が見える。大人は隠し事ばかりだ。戻ってきた。
母「じゃあ振り袖にしよっか。お願いします。」
翠「やったー。」
本当に嬉しかった。写真は今でも部屋に飾ってある。
また、母が大人と話した後外に出た。
母「お昼、何食べたい?」
翠「うどん!」
母「じゃあうどんにしよう!」
車に乗り、うどん屋へ向かった。前食べたうどんが美味かった。
父「翠。どうやった?」
翠「うん!テレビの服着れた!楽しかった!」
父は母と目を合わせて言った。
父「そりゃ良かった!」