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川の鳩の日常  作者: 水玉そら
デート(仮)
6/25

変で何が悪い

 昼休み、昼食を食べながら、というか土曜からずっと思っていることがある。来週が憂鬱でならない。まぁでも、あの二人は偏見とかなさそうだし。僕もまぁメイクした後は中性的だったし、似合ってたし…。

 それにしても吉良さん、メイク上手だったな。美容系にでも進むのか?

 一旦伏せて寝よう。金曜に考えればいいことだ。


《タマ。今日も可愛いな。この前は道を教えてくれてありがとう。助かったよ。

にゃー。

 ははっ。そうか猫は顎の下を触られると気持ちいいのか。今日は川端がおらんからこっそりチーズを持ってきたで。

 ―って、あれ?タマは放し飼いやめたんじゃ…?》


鳩本「ん…。」

 誰かいる。結構深く寝てしまった。何分だ?

鳩本「川端。」

 前の席に座っている川端が顎の下を触ってきた。

川端「よしよし~。」

鳩本「やめろ!」

 声に出てた?寝言?

鳩本「いつから?」

川端「たぶん寝たな~って思ったときからずっと。チーズは隠さずに食べさせてほしかったな。」

 川端は僕と仲良くしたいのだと勝手に解釈しているがどこまでの話なのかわからない。今の吉良さんのポジションだと思っている。ていうかそうであって欲しい。あまり高校時代に踏み込んだことはしたくない。ただ安全に日々を平穏に過ごす。それが僕の信念だ。

川端「ねぇ。」

鳩本「何?」

 しばらく沈黙が続いた。じっと目の奥を見てくる。

川端「はとはさぁ~。男女の友情って成立すると思う?」

 舐めまわすように言った。なんだこいつ。キャラを固定させろ。影響されすぎだろ。

鳩本「川端が僕にその質問をするかね?」

 ムフ~と笑った。ほんとに腹が立つ。

川端「どう?」

鳩本「人による。全て人それぞれだ。」

川端「はとは?」

 机の木目、天井の穴を見ながらじっくり考えて言った。

鳩本「成立する。」

川端「ほ~。」

鳩本「現状、今日までの僕たちがそれを示してる。」

 かっこよく決まったかな?次の授業の準備しよ。ロッカーに教科書を取りに行った。



 いつものコンビニ。今日は川端はいない。濃厚チョコステッキの隣に川端が持っていたチーズがあった。タマは元気だろうか。

『またいつでもタマに会いにきていいからね。』

行くか。

 チーズも持ってレジへ向かった。姫崎さんは…いなかった。


 表札に田無の文字。インターホンに触れた瞬間ためらった。

『まっさか本当に来てくれるなんて思ってなかったわ。』

 また急に訪問したら迷惑か?しかも一人で。川端がいれば圧で押し切れるけど。

 すると、文子さんが家から出てきた。

文子「絶対。豆腐は絶対。」

 声が出なかった。文子さん側から気づいてくれた。

文子「あら、えっとどっちやったかしら?」

鳩本「あ、葵です。」

文子「そっちか~。タマに会いにきてくれたの?」

鳩本「は、はい。でも…」

文子「そうなのスーパー。豆腐切らしてたの忘れてて。」

鳩本「そ、そうですか。」

文子「そうや!お留守番しててくれへん?主人もいなくてタマ寂しそうやったから。」

鳩本「え?いいんですか?」

文子「もちろん!でも最長五時までやで。それまでに帰るけど。」

 「そんじゃよろしく」みたいにスーパーへ向かった。

 玄関のドアを開けるとタマがいた。

にゃー?

 わかりやすく語尾が上がった。そりゃ不思議だろう。我が家で僕の気配がしたら。

 猫には届かないくらい高い机と椅子。爪とぎにタマ専用スペース。猫じゃらし。餌は既に食べたらしい。洗面に皿があった。

鳩本「猫じゃらし借りまーす。」

 一人で呟いた。僕が猫じゃらしをとるやいなや、タマは猫じゃらしに飛びついた。午後なのに元気いっぱいだ。僕もこの経験は初めてなのでとても楽しい。飛び跳ね疲れたのか、猫じゃらしには興味をなくした。申し訳程度に引っかいてくる。タマに気をつかわせてしまった。

 膝を叩いて呼んできたのでついていった。そこにはボールの入った箱があった。

にゃー。

鳩本「しかたないな。」

 疲れていなかったのか。まだボールで遊ぶらしい。ボールを部屋の端からなげる。犬ではないので軽く。新品の鈴を鳴らし、ボールを取りに行く。面白いことにタマはボールを噛んで投げてくる。二個に増やしてみた。

いにゃ~お。

鳩本「二個は嫌か。ごめん。」

 一個を投げ、もう一個を咥えて持ってきた。あぐらをかいている足に乗って寝た。さすがに疲れたか。タマがあくびをした。つられて僕もあくびをした。あくびはつられやすいらしい。アニメやドラマなどの映像にもつられたりなんだり…


文子「ただいま。今戻りましたよっと。」

 あれ?アオイくんはどこだ?探した。タマもいない。タマの部屋にいた。と思えば、タマとアオイくんは寝ていた。可愛い。猫じゃらしにボールも使ったらしい。こっそり写真に撮った。

文子「五時までね。」



 ―おい川端瑞樹。お前は何がしたい?何がしたい?わからない。わからない。わかれない。

 とりあえず、明日も学校に行ってはととお話して。で。で。キラスイと話して。その先に何がある?はとって誰なんだ?絶対私のことなんか嫌いだ。こんな変な私なんか。そうだ、私は変なんだ。おかしいんだ。いやおかしくない。いやおかしい。気持ち悪い。別に気持ち悪いとかじゃ。

「なぁ、あいつまたブチギレたらしいで。」

「ペットボトル投げつけて。」

「うっわ最悪。」

「お前のこと誰も好きじゃねぇよ。」

「キメェんだよ。」

「異常者が!」


川端「はっ…!」

 夢?心臓が強く鳴ってる。なんで今、中学…。一旦起き上がり深呼吸した。

川端「すぅー、はぁー。水飲も。」

 夜中の台所は何か特別感がある。

 コップ。あれ。ない。ない。あった。洗ったばかりで渇いてない。直接飲も。

 蛇口をひねると勢いよく水が出た。皿にはねて服にかかった。

ブハッ!

川端「おもらし盛大バージョン。なんつって。」

はぁ。

川端「あれ?なんで?」

 突然涙が溢れてきた。なんで。別に今日何もなかったのに。声だけは出すな。声だけは。



めざましくん「ロクジゴジュウゴフン。ロクジゴジュウゴフン。」

 ロペは毎日放送しているのに面白さが保たれている。脚本家の人はすごいな。

 今日は気分がいい。なぜかというと、目覚まし時計より早く起きることができたからだ。目覚まし時計が鳴る瞬間を狙ってボタンを押した。二音目まで鳴らさせなかった。

 校門に川端がいた。僕を見つけた途端近寄ってきた。

川端「私のこと、嫌い?」

鳩本「え?またそれ?好きも嫌いもないって。」

 川端が前に立ちはだかり、胸ぐらを掴んで言った。

川端「嫌いか…って訊いてんねん。」

鳩本「おい、皆見てるって。」

川端「ごめん。」

 大丈夫か?今日、だいぶ情緒不安定だぞ。


 授業中もやけに静かだ。真剣にノートを書いている。いつもなら肘ついてだるそうにしている。まぁいいことだ。もしくはまた僕の興味を引こうとしているのか?

 こっそりメッセージを送った。


[手を挙げてB階段のトイレに行く。しばらくしたら川端も来て。]既読


鳩本「先生。トイレ行ってきてもいいですか?」

教師「はいはい。」

 しばらくして川端が来た。声を出さずに女子トイレに入った。

ピコン


『なんじゃ』


 そういえば極秘連絡ツールだった。僕も男子の個室トイレに入った。


『なんじゃ』

[また何か僕を試そうとしてる?]

『してない』

『もう一度きく。私のこと嫌い?』


 答えてなかったか?


『なんじゃ』

[また何か僕を試そうとしてる?]

『してない』

『もう一度きく。嫌い?』

[好きでも嫌いでもない]


 女子トイレの扉の開く音がした。


 それから川端は僕に話しかけなくなった。僕も川端に話しかけなかった。いや、話しかけられなかった。



 週末、吉良さんが家にやってきた。メイクしながら言われた。

吉良「最近瑞樹ちゃん全然元気じゃないんやけど。なんかあった?」

鳩本「僕もよくわかんないっていうか。」

吉良「なんか失言してへん?」

鳩本「してないと思いたいけど。」

 完璧に女装した。練習のときより良い。吉良さんが気合いを入れてきた。

 約束の時間なので外に出る。玄関を開けるのが怖すぎる。ドアノブを握ったまま動かせなかった。

吉良「駅の直前までついていこか?」

鳩本「ありがとう。心強すぎる。」

 デートプラン?は川端が考えているらしい。今この格好で顔あわせるのはかなり気まずい。

鳩本「変じゃない?」

吉良「大丈夫。可愛いよ〜、葵ちゃん。」

 さすが川端の親友。自分の名前が憎い。

吉良「じゃあ、がんばって。」

 吉良さんがいなくなってしまった。寂しい。


 駅についた。川端は…いた。男装うまっ。ちょっと顔の良い男だった。

鳩本「待った?」

川端「いや、全然。」

 意識的なのか声が若干低い。手を出してきた。

鳩本「え?つながないよ?」

川端「ケッ。」

 まずい。何が地雷かわからないから慎重にならないと。今日は手くらい繋いでやるか。

 黙って手を出した。川端が僕を見た。

鳩本「今日だけ。」

 川端の表情が少し明るくなった。


 大阪梅田駅は広い。キラキラしている照明は何度見ても感動する。

川端「ヘっぷ。行く。」

 川端について行った。MVで見た観覧車が見えた。

川端「服、キツくない?」

鳩本「あ、ああ。大丈夫。あの、あんまり声出したくないんやけど。」

川端「裏声。」

鳩本「むりむり。」


 街頭インタビューとかやってないか?映りたくない。今だけは。

川端「赤くじら。でっかー。」

鳩本「子くじらもいる。」

 エスカレーターを上がると服屋や靴屋がたくさん見える。何か買うのか?男の格好では無理では?さらに上がっていく。

川端「ゲーセン。」

鳩本「ゲーセン。」

 ゴリゴリの男性向けのゲームセンターだ。クレーンゲームがたくさんある。

川端「俺の好きなやつあるかな?」

 一人称が俺とは踏み切ったな。確かに女子だけでは来づらいか?

川端「来季のアニメのやつ、もうある!」

鳩本「おお、覇権候補の。」

 アニオタらしい。

川端「このぬいぐるみ欲し…ゴホン。お前に取ってやる。」

 本音ダダ漏れだぞ。

川端「クソ!この両替機新札使えねぇのかよ。古くせぇ。」

 こいつは女子からはモテん。

鳩本「あっちに使えそうなのあったよ。」

 できるだけ高い声にしたけどキモすぎる。しんどいのでやめよう。

鳩本「千円までにしといたほうがいいよ。全部溶けるよ。」

川端「わかってる。この後もあるし。」

 百円十枚を握りしめ、台へ向かった。目標はシンプルに胴体を掴んで落とすだけ。アームにはゴム製の滑り止めが付いているがぬいぐるみは大きい。

川端「千円入れるのは決まっている。ならば五百円入れて六回に増やした方が得だ。」

鳩本「お好きにどうぞ。」

 六回を終え、今いい感じに穴に近づいている。体勢を整えればあと六回の内に落とせる。

 さらに六回を終え、今手元に…ぬいぐるみはない。千円を無駄にした。

川端「あとちょっと、チョンってすれば落ちんだろ。やってられっか。」

鳩本「あなたがやるって決めたんだよー。」


 次は映画らしい。作品は老若男女問わず見れるものだ。ちょうど見たかった作品なのでよかった。

 男性客とすれ違った。後ろから何か聞こえてきた。

男性「リア充が。爆発しろ。」

 聞こえてるよー。ああいうのって聞こえてるもんなんだな。気をつけよ。

川端「テメェが爆発しろ。ブス。」

 口を塞ぎ、売店へ集中させた。

鳩本「ほら、あれ何かな?」


 上映後は身体が硬くなるので慎重に立つ。スマホのライトで目を起こして…

鳩本「うわぁ!」

 川端が倒れた。

川端「ごめん、大丈夫?…じゃない!」

鳩本「え?何?」

川端「早く、服で隠して!」

 自分の骨格がわかるくらい服が裏返っていた。

鳩本「あー!」

 口を塞ぎ、服を戻した。

 最悪。劇場内の数人にバレた。その数人はおそらく僕をヤバいやつだと思うだろう。

鳩本「ヤバい。すぐ外に出よう。」


 外に出ても恥ずかしさが抜けない。

川端「大丈夫。ちゃんと着てたら、その…可愛いから。」

鳩本「それもそれで嫌だ。」

川端「あっこ。たこ焼き。」

 指をさした先には大きいたこ焼きのオブジェがあった。匂いも漂ってくる。

鳩本「よし。お昼はあの店だ。」

 川端がハフハフしながら食べている。口に入れそうで入れない。冷ませ。

鳩本「そういう時はたこ焼きに穴を開けるのがいい。熱が逃げやすい。」

 やってみせた。

川端「ほー。さすが、プロ関西人。」

鳩本「川端もやろ。」

 川端がたこ焼きを持ち上げ、ふーふー冷ました。それを僕に差し出した。

川端「あーー。」

鳩本「ごめん。それだけはやらん。」

 するとまた不機嫌な顔に戻った。無理やり爪楊枝を近づけてきた。逃げられない。口を開けずにはいられなかった。

 激熱のたこ焼きが口の中で暴れている。

川端「おいし?」

 それどころじゃない!


 探検がしたいとのことなので、周辺をぶらぶら歩く。

川端「見て。あそこ、顔がある。」

鳩本「ほんとだ。でかい。」

 近くに行くと魚が泳いでいる水槽があった。魚の種類は豊富だ。

川端「ウツボ。」

鳩本「もっと綺麗なもの見たら?」

川端「ウツボに失礼なヤツめ。」


 やることを一通り終えた。早く帰りたい。早く吉良さんに連絡しないと。横断歩道待ちだ。


[今から帰ります]

{え?何?}

[いや帰るから駅で待ってて]

{自分でメイクくらい落とせるやろ}


川端「あ、次の学校にその服持ってきてや。」

 事後処理は僕一人でしてということか?何でこいつらを友だちにしたのか。


男1「うっわ、きっも。こいつ男。」

男2「隣のヤツも女じゃね?」

男1「よくやるよな。」

 気にしない。僕はアシだ。

 隣では拳を握りしめて我慢している川端がいた。偉い。

男1「いやさ、俺の中学のときにもキモいヤツおってさ。マジで誰も近寄ってなかった。」

男2「わかるわー。俺のクラスにもいたわー。そういうヤツ全員死ねばいいのに。」

 川端の右足が動いた。早く青になれ!

男1「やっべ、聞かれるって。何されっかわからんで。」

男2「うー、こっわ。」

 左足が動いた。

川端「ずりぃんだよ!テメェら!」

鳩本「おい!耐えろ!」

 口を塞いだ。リミッターが外れた。

川端「テメェらみてぇな普通のヤツらが安全圏からグチグチうるせえんだよ!」

鳩本「落ち着け!」

川端「お前らはいいよな!やること成すことみんなから否定されなくて!」

男1「そういうとこだよ。マジでキメェ。」

 黙ってろ!

 信号が青になった。都会の街には僕らを気に留める人なんか、これっぽっちもいない。皆無視して通り過ぎていく。中には声には出さないが軽蔑している人もいるだろう。ここまで目立ちたくなかったな。

川端「おい!待て!ごらああ!」

 抑えた。見えなくなるまで必死に抑えた。

 信号が赤になった。

鳩本「もういない。無駄だ。」

川端「なんで邪魔する?アイツらに言って…」

鳩本「言わなくていい。言ったやろ、アシ。しなった方がいいって。」

 落ち着いた。次の信号までまた長いぞ。

川端「か…観覧車乗る…の忘れてた。」

 泣いている。よほど言われたくないことだったのか。

鳩本「行こ。」


 入場料八百円。この観覧車は大阪中を見渡せると有名だ。楽しみだが…。

「足下お気をつけてください。」

 ドアが閉じたが川端は何も言わない。ここはあえて訊かないでおこう。言いたくないかもしれない。

鳩本「ほら、楽しもう。」

川端「ん…。」

 まだ景色は見えない。

 川端がもたれかかってきた。角度を変え、顔を埋めた。

川端「私のこと嫌いなんやろ?」

鳩本「…」

 本当はわかっている。でもプライドが邪魔する。

鳩本「ほら大阪駅。でかぁ。」

 さらに強く握られた。

 頂上付近まで来た。さすがに川端にも景色を見てもらいたい。

鳩本「嫌いじゃない。」

川端「合わせて言ってる。」

 むかつくヤツだ。本当にそこだけは変わらない。

鳩本「嫌いなヤツに女装してまで付き合わんやろ!」

 川端を無理やり起こした。

鳩本「何があったか知らんけど、僕は川端が嫌いじゃない。とりあえず景色見ろ。」

川端「ごめん。」

 なんとか持ち直した。疲れる友だちを持ってしまった。

鳩本「あっち大阪城。」

川端「ちっちゃ。」

川端「さっきの水槽も。」

 やはり元気な顔が一番良い。

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