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川の鳩の日常  作者: 水玉そら
デート(仮)
5/25

いらっしゃい

 部屋でゴロついていると、川端から連絡があった。そういえば連絡先を交換していた。忘れるくらい何も進展がなかった。

 1ヶ月ほど前、公園で川端が新しく買ったスマホケースについて自慢してきた。

川端「ほい。」

鳩本「何?」

川端「センスいいやろ。」

鳩本「新しいやつ?いいやん。」

 ピンクの縁が波型になっていて首から下げられるようになっている。紐も縞模様のピンクだ。

川端「もっと褒めろ。」

鳩本「可愛い系がいいんやね。てっきりこの前私服見ちゃったからその時の印象とは違う。」

川端「褒めたの?」

鳩本「褒めたよ。」


 その流れで連絡先を交換した。交換のしかたも無理やりだった。

川端「RAIN教えて。」

鳩本「急やね。それまたなんで?」

川端「なんでもええやろ!」

鳩本「怒らんでも交換するって。」


 確認で送ったナマケモノのスタンプがこちらを見てくる。


 内容は…


『はとんち行きたい。今週末』


 勝手につけたあだ名はもう恥ずかしくないらしい。それにしても本当に急だ。川端は僕の家の場所を知らないし、どうするのか?


『はとんち行きたい。今週末』

[家の場所知らんやろ]

『住所送って。スマホに落とせば地図読めんくても大丈夫』


 僕は家に来ることを許可した覚えはない。しかし今から断るのもめんどくさいし、土日は暇なのでよしとしよう。


[土曜やったら来ていいよ]

『やった』

『スマホとはいえ地図やから遅れるので辛抱強く待っててください』



 金曜の学校。川端に昨日のメッセージのことを訊こう。席にはいない。廊下のロッカーを覗き込んで座り込んでいた。いらいらしている。

鳩本「川端。」

 話しかけた瞬間こちらを睨みつけた。

川端「貴様。ロッカーが下にあってしゃがんでいる私でパンチラを狙うとは、変態め。」

鳩本「パンチラ狙ってるやつは本人に話しかけないと思いますが?」

川端「取れ。」

鳩本「は?」

川端「いっぱい教科書が乗っかってて取れん。」

 仕方がないので取ってやることにした。頼み方はもうツッコまない。

鳩本「そういえば、昨日のRAIN…」

川端「話すな。あれは極秘や。」

 話すなと言われて息が詰まってしまった。極秘。つまりメッセージでは僕にしか言えないことを送ってくるのか。



 翌日土曜。予定時刻に迫ってきた。母は長めの用があるといい外出している。僕の母もだるかった。


 昨日金曜夕方、母に川端が来ることを伝えておかなければと話しかけた。

葵「明日、ウチに友だち来る。」

母「え?早めに言っといてよ。男の子?」

葵「いや女子。」

母「女の子?そういう年頃か。よかったね、明日お母さんウチいなくて。」

葵「は?ただの友だちやし。」

母「あんら、そう?」


 嬉しそうにしている母は憎たらしかった。

 時間になっても来ない。フッ、辛抱強く待つか。

 土曜のお昼の番組はいつも4チャンネルだ。トミーズのお二人はいつも面白い。後輩芸人にボロクソ言われる健さん最高。

ピーンポーン

 やっと来た。相当迷ったな。

鳩本「はーい。」

 扉を開けると1人多かった。

川端「よ。はと。」

女子「初めてまして。」

 女子が増えた。髪をショートカットにした川端とその女子が目を合わせた。なんだ?僕んちで何をする気だ。とりあえず自分の部屋にあげた。

川端「はとの匂い。」

吉良「初めまして、吉良って言います。隣のクラスの。」

川端「親友。キラスイ。」

吉良「下の名前、翠やから。」

 自己紹介された。

吉良「ほら、早く言いなって。」

川端「鳩本葵。言うぞ。」

 何ぃ?深刻な話か?家族の誰かが亡くなったか?怖いぞ。抱えきれんぞ。

川端「男の子になりたいです!」

鳩本「ほー。」

 一拍置いて返事した。

鳩本「それは何かい?心は男…みたいな?」

 川端は黙り込んだ。え?マジのやつ?傷つけたか?

吉良「あ、あ、えっと…。違う!」

鳩本「違うの?!」

吉良「黙ってたらわからんやろ!」

 川端は僕のベッドに突っ伏した。どういう感情なんだ。

吉良「なんか男の側になってみたいとか言うの。みんなから女の子みたいじゃないって言われるって。」

鳩本「それならそちらでできることでは?」

 すると川端が飛び起きて胸ぐらを掴んで壁に押された。

川端「はと…!女の子に興味ない?」

 話が見えない。興奮している川端と謎に突然現れた川端の親友。わからない。なぜ二人は僕の部屋にいる?

吉良「こら!瑞樹ちゃん!鳩本くん怖がってる!」

 吉良さんが川端を離した。お茶と冷えピタを頼まれたので取りに行った。

 この際僕も落ち着こう。まず起こっていることを整理しよう。川端は極秘の案件だといい今日吉良さんと共に家に来た。要件は男になりたいということだ。しかし心が男というわけでもない。不明な点は吉良さんがウチへ来たこととさっきの話に僕が関係しているのかということだ。

 よし、整理できた。お茶と冷えピタを持っていこう。

吉良「落ち着け!深呼吸やぁ。そうやぁ。」

鳩本「はい、持ってきたよ。」

 だいぶ頭に血が上ったようだ。額に冷えピタを貼り、お茶を飲んで一旦は落ち着いた。さて、話を聞こうかと思ったら吉良さんのお腹が鳴った。

吉良「すみません。トイレ貸してもらえないでしょうか?お腹下しやすくて。」

鳩本「それは、もちろんどうぞ。」

 体質なので仕方ない。

 川端を見ると寝ようとしていた。起こそう。いやっ、待て。起こしてまたああなるとめんどい。ここは寝かせておこう。

川端「変態。」

 一瞬覗きこんだので言ったのだろう。おのれ、立場をわかっているのか?


 長い。今ウチのトイレで格闘していることだろう。と思ったら戻ってきた。

吉良「ほんとすみません。」

鳩本「いやぁ、お構いなく。」

 それでは本題を聞こうではないか。どんとこい。

吉良「鳩本さん。女装していただけないでしょうか。」

 声も出なかった。初対面パワーワードランキングの上位に食い込んできた。

吉良「顔のパーツも骨格もなかなかいける…。」

 この間僕の頭の中で「女装していただけないでしょうか。」が何万回と再生された。隣では川端がグースカ寝ている。カオスとはまさにこれだ。

吉良「瑞樹ちゃんの話だと瑞樹ちゃんが男子で鳩本さんが女子になってお出かけをしたいらしいです。」

 なんで僕がそんなことをしないといけないんだ。嫌に決まっているだろう。

鳩本「あ…あの…無理です。やりません。そもそもなんでそんなことしたいんですか。って吉良さんに言っても仕方ないか。」

 川端は起きない。起こそうか。この話は本人から聞かなければ。

吉良「良く寝てる。鳩本さんの匂いが好きなのかも。」

 起こしにくい。ふと、膝の上で寝ていた川端を思い出した。いやあれは関係ないだろ。

吉良「瑞樹ちゃんウチの家のリビングの匂いはあんまり好きじゃないらしいの。寝るまでこの部屋が好きなんて。もしかしたらデートのお誘いかもですよ。」

 男子側にまわってデートとは。

鳩本「デートなら「普通」にしたいんだけど…」

 口にして気づいた。「デート」なのか?川端に限ってそんなはずはな…いこともないか?

吉良「私、メイク得意なんで任せてください。それ要員なんで。」

鳩本「いやだからやりたくないって。」

吉良「ここはわがままに応えてあげましょ。今日は練習させてください。男の子は初めてやるので。」

鳩本「えぇ…」

 こうして僕は人生初めて女装することになった。


 顔を触られるのは違和感満載だ。

吉良「もともと顔きれいだからやりやすい。」

鳩本「ど…そうも。」

 と言われましても返事の仕方がわからない。服は川端のものらしい。吉良さんがなんとなく男子よりの服を選んできたらしい。助かる。

吉良「帽子かぶれば別にウィッグなしでもいけるね。」

 鏡に移る自分を見て似合うと思ってしまった自分を殺したい。

吉良「これなら出かけても問題なさそうやね。」

鳩本「あの…早く脱いでもいいですか?川端に見られたくないので。」

吉良「え?来週見られるのに?」

鳩本「今日はなんか嫌。」

 まだ寝ている。夜寝る感覚で寝ている。

「鳩本さんの匂いが好きなのかも。」

 うん。違う。


 川端が飛び起きた。

川端「神の裁きは間違っている!」

 メイクを落としておいてよかった。見られずに済んだ。

川端「私は女子でも木に登りたい!」

 高校生なんだ。卒業せい。

鳩本「お前は人に女装させるのにか?」

川端「え?したの?フッ、顔ちょっと綺麗。」

鳩本「人の家にお邪魔したうえに女装をさせたのに部屋で寝た。何か言うことは?」

川端「来週楽しみ。」

 こいつは…ダメだ。

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