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川の鳩の日常  作者: 水玉そら
デート(仮)
4/25

蟻と鳩

 僕にあだ名だついた。「はと」らしい。そういえば3か月間名前を呼ばれていなかった気がする。はと。はとかぁ~。あだ名を呼ばれるのは慣れていないのでむずがゆい。

 川端とノブオ君と別れて帰り道を歩いてちょっとしたころ、再びタマに出会った。枝に嚙みついている。爪で引っかいたりしていてとてもかわいい。もうちょっと遠くで見ていることにしよう。公園以外で初めて見た。背景が変わるだけでこんなに新鮮にタマを楽しめるのか。枝を捨てた。お宝を捨て次はどこへ行く。レジ袋が飛んでいるのを見つけたらしい。嚙みちぎって食べたりしなけりゃいいけど…。

 その瞬間強風が吹いた。

 あ!そっちは!

鳩本「ダメ!」

 強風にあおられたレジ袋にタマが走っていった。飛んで行った方向が車道だった。やばい!何かないか?幸い車通りは少ない。押しボタン式信号機があったので急いで押しに行った。その時に指を切った。

鳩本「いった!」

 傷を舐めているとエンジン音が聞こえてきた。信号は…今黄色になったらしい。本当はいけないことだが関西人は信号が黄色になっただけじゃ速度を緩めたりしない。せっかちというやつだ。あの車の速度では間に合わない!

 ここで車道に飛び出すのが主人公だろうか。できない。そんなの、できるわけがない。想像してみてほしい。動物が車に轢かれそうになっているのを見て身を挺して守る、なんてことないだろう。

 車が走ってきた。タマは轢かれる。事後は目も当てられない姿になっていることだろう。ご夫婦になんて伝えよう。どう顔向けしよう。

川端「しゃがめ!このチキン野郎!」

 咄嗟に伏せた。

川端「どりゃあぁー!」

鳩本「サッカーボール?」

 川端の右手から飛んでいったボールが見事、タマに命中した。タマは袋を取りこぼし車道から離れた。車はサッカーボールと袋を轢いた。危ないところだった。あとちょっとで車体がタマに触れていた。

鳩本「…よかった。」

川端「よかったぁやないわ!このメンタルチキン野郎!」

鳩本「ごめん!」

川端「馬鹿、阿呆、塵、金魚の糞。」

鳩本「タマは?」

 二人でタマを見にいった。

運転手「なんや!ボール遊びは公園でせぇ!クソ餓鬼が!」

川端「気を失ってる。」

鳩本「これはまずい。応急処置…えぇっと…?なんやっけ、スマホ!」

運転手「お前らか…中学生にもなってそんなルールも…」

川端「黙れ!クソジジイ…は言い過ぎた。田無さんっていう人知り合いやったりせぇへん?」

 どうやらご近所さんらしい。口調の悪い川端の命令で田無さんの家に呼びに行った。だがあいにく田無さんは夫婦でお出かけ中だ。どうしよう?

 いや落ち着け。ここは正しく処置すれば僕でも乗り切れる。早く検索を…!なんかいいサイト出てこい!

女性「タマ!」

川端「どうしますか…?動物病院に連れて行った方が…」

男性「ああ、そうしよう。」

 あれ?田無さん夫婦?出かけてたんじゃ。ご主人がタマを動物病院へと抱えようとした。

鳩本「待って。し…素人ですけど、喉に吐しゃ物が詰まってないか確認してください。あったら吐かせて気道の確保…」

男性「大丈夫や。タマのために本当にありがとう。」

 夫婦はすぐに動物病院へ連れて行った。僕は夫婦が見えなくなるまで見ていた。この気持ちはなんだろう。他人の家の猫なのに、自分ちの猫みたいに心配している。たぶんこの気持ちはあの夫婦には負けている。この気持ちもよくわからない。

パシャッ。

川端「はとの心配顔げっちゅ。」

鳩本「からかってんのか。」

川端「いや~、これではとの顔忘れへんで済む。」

鳩本「川端やから信じるけど、そういうことを軽々しく言うな。」

川端「あっ!」

 何かに気付いた後、川端は顔を隠した。口調も元に戻った。

川端「私、タマを見殺しにしたの許してへんから。」

鳩本「あれは…無理やって。ヒーローやあるまいし。」

 ドッヂボールのときといい、アドレナリン全開状態の川端はだいぶ性格が変わるみたいだ。

運転手「田無さん…留守やったで…って猫は?」

鳩本「あ、えっと。もう大丈夫です。」

川端「大丈夫かわからんけどな。」

鳩本「だから…そういうことを…」

 デリカシーというかたまに発言に配慮が欠けているところ、早く直してほしい。

 川端は急に走り出した。何も気にせず、草むらに入っていった。

川端「ボール。」

 なるほど。サッカーボールを取りに行ったのか。川端のか?誰かから借りてきた?川端のところへ行き、質問した。

鳩本「これ、誰のなん?」

 指をさしたのでそのほうを見てみると、反対車線に男の子が見えた。川端がボールを持ち上げてアピールするとその子はほっと安心し、親指を上げいいねの手にして掲げた。事態を認識しているようだ。

 川端は男の子にボールを返しにいった。僕は運転手にタマのことを話した。運転手も僕に謝り、タマを心配した。

 川端は男の子にボールを渡すと手を合わせて謝っている様子だ。男の子が川端に何か話すと川端は右手を上げ二の腕を触り自信満々の顔をした。何を話しているのやら。戻ってきた。

川端「帰ろ。」

鳩本「一緒に?」

川端「帰らんの?」

鳩本「帰るけど。」

 未だ川端が僕に何を求めているのかわからない。そういえばまだ訊かないといけないことがあった。

鳩本「そういえば、田無さんたちどうしたん?」

川端「私も焦ってたから何かせなと思ってうろうろしてたら近くを歩いてた。」

鳩本「へぇ。偶然。」

 その後、川端と何か話すことはなかった。たまにこっちを見てくる。今日は僕が見たらすぐに目をそらす。あの日、歯に青のりでもついてたか?

 今横に歩いている女子高校生と、木に登ったりサッカーボールを右手で投げ、

「しゃがめ!このチキン野郎!」

と野太い声で叫んでいた女子が同一人物だとは思えない。あのときのキャラ崩壊は今になってすごく面白い。


 爪に泥が詰まっているらしい。手のひらで擦った。まだ出ないので反対の指の爪でほじくり出そうとした。うまくいかない。いらいらしだした。公園で洗ってくればよかったのに。

鳩本「あ、そこ、段差!」

 歩きスマホと同じく歩きほじくりをしていたので周りが見えていなかった。僕が手を咄嗟に出して川端はこけずにすんだ。

川端「ありがと。」

 まだ爪を見ている。

川端「はよ、手ぇ離せ。」

 そのままこかしときゃよかった。というのは冗談だが度々カチンとくる。



 さて、今日は月曜日だ。あの憂鬱な月曜日だ。僕の家庭は毎朝、めざましテレビ派だ。そのため僕は何時何分頃に何のコーナーがやっているか覚えた。僕が起きるのが六時だ。ニュース、スポーツ、エンタメと続く。僕はエンタメのコーナーがこの中では好きだ。映画の舞台挨拶やCMの撮影裏、コメントが主。ランキングなどもやっている。ここでよく何の映画を見るか決める。朝の支度を終え、ロペを見てめざましくんの、

「ロクジゴジュウゴフン。ロクジゴジュウゴフン。」

を聞いて家を出る。


 今日の川端は難しい顔をしている。まぁ誰にでも考え事はあるか。廊下ですれ違ったときも、授業中も眉間に皺を寄せている。

川端「なんでぇ?」

 何がぁ?

 先生が川端を当てる。

教師「ここ、川端。」

 不機嫌そうに先生を睨んだ。

川端「ふぇえ?にぃるぅとにいぃ。」

 そんな答え方があるか。


 一番時間が流れる速度が遅い月曜日が終わった。今日も川端からついていくとの申請があった。

 今日は一段と距離が近い。いらいらが顔から滲み出ている。川端がちょっとした段差に躓いた。いらいらしているので唸り声をあげた。

 コンビニについたのでいつも通り買おう。今日も店員さんいるかな?と、川端が服を掴んでついてきた。珍しい。レジにはいつもの店員さん。財布を開くと川端が手を出してきた。

川端「手ぇ。」

 チャリンと189円渡してきた。

鳩本「えぇ?悪いて。」

川端「私やって…お返し…できるし。」

 どのお返しか気になる。

鳩本「じゃあ。ありがとう。」


 公園にももう新鮮さを感じなくなった。ただいつも通り子どもは元気だ。

鳩本「寝ていい?」

 前やった、目を閉じて音だけに集中するやつはまだ一回しかやったことがないのでやりたい。

川端「だめ。」

 自分は人様の膝の上で寝たくせに。

鳩本「なんで?」

川端「は…と。寝てるとき、ブサイク。」

 え?そうなんだ。

鳩本「あ…その、はとって何?」

 軽く足を蹴ってきた。

鳩本「痛い。」

 腹にもう一発食らわそうと拳を握ったので止めた。

鳩本「やりすぎ。」

川端「デリカシーのない男は嫌い。」

 どのツラさげて言ってんだ、こいつ。

 ダメと言われたがだんだん眠気が…

川端「おぁお!タマ!」

 声量を考えろ。ん…?タマ?

鳩本「え?あ?ん?タマ?!」

 そこには光をよく反射する首輪に鈴を付けたタマがいた。同等の声量で叫んだ。

川端「鈴付いてる!かわいい!」

 事故があったので対策をうったのか。放し飼いを止めるべきでは?と、首輪に手紙が付いているのに気が付いた。

川端「田無さん?」

 川端と一緒に読んだ。


『アオイさんとミズキさんへ

タマを助けていただき、本当にありがとうございました。お二人がいなければタマはどうなっていたかわかりません。

タマは病院に連れていくときに目を覚ましました。念のため病院には連れていきましたが特に問題はないみたいです。これを機に外に行かせるのはやめようと思います。

お礼にうちでお菓子を用意していますので良かったらいらしてください。

田無文子』


川端「よかった。ボールぶつけてごめんね。」

 本当によかった。田無さん夫婦に勝ることはないが、今は誰よりも安心した。

 田無さんのお宅へはこの手紙に描いてある地図の通りに行けばよい。

川端「私地図読めへんよ。」

 大丈夫だ。川端にタマを抱えさせて僕が地図を読む。

鳩本「ついてきたまえ。」

 よし、右だ。ここはこっち。こ…こは左。あそこがコンビニだから…ん…?気づけば知らぬ土地にいた。

鳩本「ごめん。地図読めへんのやった。」

川端「馬鹿、阿呆、塵、金魚の糞。歩く前に言え。」

 するとタマが暴れだし、川端の腕から飛び降りた。

川端「うわっ!ちょっと!どこ行くねん?」

 まずい。また勝手に動いて事故にでもなったら…

にゃー。

 遠くで僕たちを呼んでいるようだ。走っていき、角で見えなくなった。

鳩本「お、おい!」

 急いで向かうと、ちゃんと角で待っていた。

にゃー。

 遅い。と言っているみたいだ。

 僕たちは事故にならないようによく見ながらついていった。信号が赤のときはちゃんと止まって青になるのを待つ。自転車が通りかかっても優先するくらいの態度だ。なんていい子だろう。見覚えのあるところまで戻ってきた。

 タマが家の前で立ち止まり、僕たちの方を振り返った。表札には田無の文字。本当に賢い猫だ。目いっぱい撫でてやった。

 インターホンを押した。

鳩本「あ、こんにち…」

川端「こんにちは!瑞樹です!」

武彦「ああ。文子!例の。」

 戸が開き、文子さんが出てきた。

文子「まっさか本当に来てくれるなんて思ってなかったわ。」

鳩本「いえタマが連…」

川端「タマが連れてきてくれたんです!賢いです!」

文子「あ…ら!ほんと!」

川端「いっぱい褒めてあげてください。」

 おそらく会話上手な文子さんでも川端の圧に押されている。

文子「あ、はいこれ。ちっちゃいけどどうぞ。」

鳩本・川端「ありがとうございます!」

文子「あがって食べてもらおうかとも思ってたんやけど、ご時世的に良くないやろう?」

鳩本「持って帰っていただきます。」

文子「それじゃ、本当にありがとうね。またいつでもタマに会いにきていいからね。」

鳩本「また是非。」

 満足そうな顔で文子さんは玄関の扉を閉じた。なんだか今日はいい気分で帰ることができそうだ。多少心配していたが文子さんは何一つ不機嫌な顔はしていなかった。それにタマにもお礼をしてもらったみたいだ。

 なんだか今日はいい気分で帰ることができそうだ。いいことをして損はないな。

川端「これ、毒が入ってたりして。」

鳩本「そんなわけないやろ。」

 ある日、蟻が水を飲もうと川に近づいていきました。しかし、流れが急に強くなり大きな波に流されてしまいました。

蟻「ああ、私はここで死ぬんだ。」

 そこへ、一羽の鳩が通りかかりました。もがき苦しむ蟻を見つけ、すぐに降りてきました。

鳩「大変だ。助けないと。」

 鳩はとまった木の葉を噛みちぎり、上流から流しました。蟻はその葉に捕まり一命をとりとめました。

蟻「ありがとうございます。感謝してもしきれません。」

鳩「どういたしまして。」

 数日後、鳩は飛び疲れて木の枝に休憩しにきました。

 すると、猟師が背後から近づいてきました。猟師はとりもちで鳩を狙いました。

鳩「何をするか!やめろ」

 そこに偶然、鳩に助けられた蟻が通りかかりました。鳩が猟師に捕えられそうになっているのを見つけました。

蟻「ここは私が助けないと!」

 蟻は猟師の足に登り、これまでで一番力を込めて噛みつきました。猟師は飛び上がり、とりもちから手を離しました。鳩はその拍子に逃げました。

猟師「なんだ!痛い!」

 猟師は鳩を獲り逃し、諦めました。

 猟師が立ち去ったあと、鳩は蟻のところへ行き感謝を伝えました。

鳩「本当にありがとう。君のおかげで逃げられたよ。」

蟻「私は小さいですが、ちゃんと恩返しはできるのです。」


「蟻と鳩」イソップ寓話集 文章・脚色:水玉そら

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