幼い
私、川端瑞樹は高校生になってもまだ子ども的な物が好きだ。家には小さな車のおもちゃ二十台、ぬいぐるみ十五体、ミニチュアの家具、着せ替え数着がある。親に発達障害を心配され、病院に行ったことがある。病院を出た後は特に何も言われなかった。言ってくれなかった。
ある日、学校から帰る途中でクラスメイトを見つけた。あまり喋らない静かな子なので無視した。だがその日を境に公園に毎日現れるようになった。これはこの男子を攻略しろという試練だろうか。いつもチョコの棒をむしゃむしゃ食べながら子どもをじろじろ見ているので話しかけるのは最高に怖かった。
川端「チョコ頂戴。」
鳩本「あげへん。」
くれなかったので明日また頼んでみよう。
私は今この謎の少年を攻略しないといけないと思っているので何か喋ろうと口を開けた。
川端「あっ、あーー。」
内容を考えていなかった。
鳩本「何?」
川端「発声練習。」
鳩本「今?」
返事と態度はまともだったので安心した。
最初は試練だと思っていたが徐々に自分からこの少年を知りたくなってきた。なぜだろう?友だちはいらない、もしくは最低限で十分だと思っていたのに今は他人に欲というものを抱いている。そうか、この子が最低限の内側に入ったのか。
この子は鳩本というらしい。あだ名をつけた。はと。会話をするときにどうしても恥ずかしくなってしまうので名前を呼ばない手段をとっている。
今日で九日目。さすがに一本くれるだろう。
川端「頂戴。」
鳩本「あげへん。買ってこーへんの?」
川端「いつか奪ってやるって決めてる。」
鳩本「奪うって言ってもうたね。」
川端「くれへんくせに。」
推しが炎上した。燃料みたくバチバチ燃えている。心無いコメント、悪意のある切り取りを見ると胸がわさわさ、もやもや、ひりひり、むかむかする。こういうのは大体、推しのことを詳しく知らない燃やしたいだけのやつらが書いているのだ。それが国民の総評となって化けるのが恐ろしいところだ。殺してやる、殺してやる。いつか目の前に現れてみろ。一瞬でマグロにしてやるからな。
そうだ、こんな日ははとについていこう。
川端「今日も公園?」
鳩本「習慣だからね。」
川端「ついていっていい?」
鳩本「断ってもついてくるやろ。」
川端「そりゃあね。」
いざとなるとはとの顔が記憶から消し飛ぶので今日はじっくり見て覚えようと思う。なぜか反応がないのでもっと見てやった。眼球をよく見ると自分が反射してよく見える。前髪。
はとがコンビニに着いた。ついていこうか?邪魔か。商品棚に消えていくはと。レジで会計をするはと。
はと。はと。鳩。くるっぽー。お、本物。靴をつつくな、餌は落ちとらんぞー。
チャリンと音がしたので上を見るとそこにはナマケモノがいた。
川端「なにこれ。」
鳩本「ナマケモノ。」
かわいい。
川端「それはわかってるけども。」
鳩本「くじで当てた。いる?」
はとからプレゼントはもらいたくない。まだもらってないものがあるので。
川端「いらない。無駄にリアルなのがより嫌。」
こやつ再び歩き出しても私に反応がないだと?ぱっと上を見たので私も見た。雲。次は左か?!枯れた観葉植物。死んだのを飾るなよ。こっちを見た!念力~。何考えてるか教えろ~。無反応。もう自分で言うよ。
川端「何考えてんの?」
鳩本「え?何も?」
川端「んじゃ逆に私が何考えてるかわかる?」
鳩本「わかんないから探ってる。」
川端「同じだ。」
目線をずらしたのはわざとなのか。反応がなかったときの私の反応をうかがっている。じっくり見た私が馬鹿みたいじゃないか。
公園についたのではとはいつも通り指定席に座った。
川端「もう映画館みたいやね。」
鳩本「4DX?」
川端「フッ。」
鳩本「あ。あの子今日も来てる。」
川端「強いね。」
今日こそはチョコの棒を食べる。長くはとを見ていて分かったが、はとは私がお菓子を奪っても怒らないだろう。袋のギザギザをトの字に開いたので今がチャンスだ。はとの手が袋に入る前に私がとる作戦だ。これで終わりだ、はと。
川端「パクッ。ん~、普通。」
鳩本「おいしいって言ってくれへんかな?」
川端「ごめん。おいしい。」
鳩本「信じがたいね。」
期待値が上がり過ぎていた。はとが毎日公園で食べているお菓子ときたらそれはもうおいしいものだと思っていた。
さて、私がお菓子を横取りしてはとは怒るだろうか。
じ~。
怒らないか。私にそんなに興味がないのか。もっと邪魔してやろう。
川端「はぁ。」
川端「膝枕。」
鳩本「今日はすごいね。何かあった?」
川端「膝、あったかい。」
鳩本「そういう事言わんほうがいいよ。」
なぜだ。褒めてやったんだぞ。
川端「私の推しがね、炎上してんの。」
鳩本「そりゃ災難やね。」
このあと長ったるい「アシとオリーブの木」の話を聞かされた。頭が痛い。もう頭を使いたくない。
川端「十五分。寝ていい?」
鳩本「はぁ。いいよ。」