第八話 一人称と建築物
濃密な一日を過ごしてしまった。
御手ついてしまった訳だが、避妊ポーションはしっかり飲ませていたので問題はない。
問題があったら責任は取るとも。
とりあえず服を着て、三人のうら若き乙女の柔肌を脳裏に焼き付けてから起こしていく。
処女二人には体力的に厳しかったのか未だ眠たげな顔をしている。
対してレイネは清々しい朝を感じさせる様に伸びをしてからハキハキと挨拶を返してくる。
伸びをした後に揺れる乳が素晴らしいの何のって。
「起きて服着ろ。服を着たら露天で朝飯を食うぞ。そのあとは武具工房に寄る。後学の為にもミニアとケイアも付いて来い」
「「ふあい……」」
股に違和感があるのか、歩きにくそうなので回復魔法を自分達に使う様に言っておく。それでだいぶマシになるだろう。
ちなみにミニアは槍ちゃん、ケイアは回復ちゃんだ。
昨晩は名前を呼んで欲しいと言われたから呼んでいたら覚えてしまった。
レイネが文句を垂れてきたが、娼館の人間とこいつらとじゃ関係性が別だろうと言えば引き下がった。
娼婦として働いた事を後悔してほしくは無かったので、レイネが娼婦だから出会えたんだと情熱的に伝えてフォローはしておいた。
実際、ただの町娘だったら微塵も関わる事は無かっただろうからな。
にしても夜のコミュニケーションを取ったせいか、精神的な距離がすごく変わってしまった。
レイネは何度も肌を重ねているので変わらないが、ミニアとケイアの二人は物理的距離も縮まった上に積極的に話しかけてくる様になった。
これに関しては良くも悪くもと言った所だ。
悪い点は、上下関係とは別の横のつながりを持ってしまうと甘えが出る。
こいつらが甘えを出さず自分にストイックにいられるかどうかが人生の分岐点だろう。
良い点は、気軽に質問出来る様になるので上達が早くなる。
精神的な拠り所にもなるので、そう言ったブレも抑えられて真っ直ぐに伸びやすい。
まさに一長一短。
これだからシモ関連はプロとするのが一番楽なんだよ。
『俺の宿』を出てからは、安い肉串や黒パンとスープを買い食いして腹を満たし、工房が連なる通りに出る。
ここからはレイネの装備に関する事になるが、それとは別にミニケイに装備や店の良し悪し、職人と関係値を築いておく事などを説明する。
良い装備は懇意の者に頼む事。
良い素材は懇意の者に卸す事。
装備の使用感や出来、様々な情報を具に提供し修繕改善してもらう事。
そして最も大事な懇意にする職人探しはといえば——
「運だ」
「「「運!?」」」
「ああ、出会えるかどうかは運次第だ。良い武具を作る者が使用者に寄り添うか分からない。使用者に寄り添う者が良い武具を作るかは分からない。職人にも一長一短、合う合わないがある」
「はえ〜〜」
「「……」」
「ま、難しく考えず使ってて楽な武器や、使いやすい武器があれば、それを買った店に行って誰が作ったか聞くのが良い。とにかく出会って、駄目なら速攻で切り捨てろ。ただ一つ、お前達の命を預ける武器だ、絶対に引くな」
これだけ言っておけばとりあえずは大丈夫だろう。
これから向かう工房は俺が普段使っているガントレットやグリーブなんかをオーダーメイドしてくれている所だ。
俺の全力を出すと大抵の装備が耐えられないので、基本俺は丸腰で仕事をしているが、人目についたり同業者がいる時は装備する事にしている。
レイネは大真面目に懐に入り込むのが上手いので、俺と似た装備と軽い武器を作って貰おうと思う。
そんな俺御用達の工房の名前は『ワシの工房』だ。
「ここだ」
「「「ワシの?」」」
「ここは『俺の宿』の親父さんの親戚がやってる工房だ」
「「「納得……」」」
ここの一族は凝り性な性分らしく、一つの分野を極める奴が多いらしい。
逆にそれ以外はおざなりなので、一人称プラス建物の名前になるんだそうだ。
他の街にも親戚がいるそうで見かけたら顔を出してみたい。
「おっさーん! レイジだ!」
「なんじゃとおおお!? またアダマスの装備をぶっ壊したんかあああああ!?!?」
「今日は連れの装備を頼みに来たんだよ!」
大抵の工房はトンカントンカン煩いので大声を出す羽目になる。
工房の人間は地の声がデカくなる。
「なんじゃ壊しとらんのならよいわ!」
「んでコイツなんだけど……」
「えらい別嬪さんじゃのう……お前には勿体無いのう!」
「俺以上にコイツに相応しい奴は居ねえ。コイツ以上に俺に相応しい奴もそうは居ねえよ」
おっさんは色目を使わないから安心してこいつの身体を測らせられる。
「コイツの胸当て、腕足、武器を作って貰いたい。素材は適当に持ってきた物全部やるから、足りないもんはそこからさっ引いたり好きに使ってくれ」
「……ほう? 相当入れ込んどるな? 珍しい……そう言う事なら任せろい。基本軽めで良いか?」
「コイツは身軽さと身のこなしが良いタイプだ。柔軟性を邪魔しない様に頼む」
「そっちの嬢ちゃんらは?」
「…………追加で素材出すからこっちの二人の防具も頼む。武器は出会ってもらいてえから無しだ」
「口ではあーだこーだ言うても、いつも面倒見だけは良いなお主は」
「……るっせえ」
このおっさんと宿の親父は俺との付き合いがそこそこ長い、非常に稀な人物だ。
付き合いが長いからこそ余計な一言も多いが嫌う程でも無いので許容出来ている。
「さてと、んじゃお前らは採寸されて来い。おっさんは仕事でセクハラする様な男じゃねえから安心していい」
「釘刺されちまったら仕方ねえ、真面目にやるか! お嬢さんら、ついてきな! 採寸は家内がやるから大丈夫だ!」
三人は揃って頭を下げてから工房の奥に入っていく。
ちなみに俺はおっさんはセクハラはしないと言ったが、おっさんの嫁がセクハラをしないとは言っていない。御愁傷様だ。
「で? お前さんの装備も見せな」
「怒んないか?」
「怒られる自覚があるなら大切に使わんかい」
「これでも装備の限界ギリギリ攻めて使ってんだ。その上で結局装備が邪魔になっちまうんだから仕方ねぇだろ?」
「……ったく、職人に喧嘩売ってくれるぜ。お前さん、もっと上質な素材は無いのかよ? 鉱石の中でも最上級レベルのアダマスでもお前さんについていけねえなら、規格外の魔物素材で作るっきゃねえ」
魔物素材ねぇ……一個あるっちゃある。
だがこれを無断で使うのは気が引ける上に、義理に反しそうだ。
「あるにはあるが、今は出せねえ。これはダチの落としもんでな……許可貰えたらまた持ってくる。因みに其処に出したそこそこの奴じゃダメなのか?」
「お前さんの使うとるアダマスは最高純度。これに勝る素材は滅多に無え。少なくともうちじゃあ、今はそれが限界だ。修繕だけしてやるから寄越しな」
「………………ほい」
この後、怒髪天を衝く様な顔で絶叫が響き渡った。
その少し後で甲高い悲鳴も上がっていたが、どちらも知らぬ存ぜぬだ。
ルフェルの鱗……一個落ちてたんだよな〜森が落ち着くまでどんくらいかかるか……色んな意味で早く会いてえや。
ミニアはアーサー王の槍ロンゴミニアドから
ケイアは癒しの女神パナケイアから
将来絶対強くなるよこの子ら。
因みにレイジとレイネは怠惰の英語Lazinessから取ってます。