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第五話 槍と回復と身請けと俺

本日、三話と四話と五話を更新しています。


 お仕事を片付け、お金をもらい、お肉と素材を解体して貰って、ジュースを飲んで、ちょっとサービスして貰っちゃったりしてたらまた女の子に話しかけられた。


 今日は女の子と縁のある日だな。


 フィアの森の調査に出向く前に、無謀にも森へ行こうとしていた強く無さそうな四人パーティを迅速に止め、忠告して置いたのだが、そこの槍使いの女の子と回復魔法使いの女の子が俺に声をかけてきた。


「今朝の子達か。どうしたんだ? お兄さんお仕事終わって暇だからお話聞くぞ?」


「あのっえっとっ……」


 回復魔法使いの女の……回復ちゃんで良いや。


 回復ちゃんは緊張しているのか、筋肉が強張っており、中々話し出せそうになさそうだ。


 仕方がないので一旦酒場の席に腰を落ち着けてから、隣の槍使いの槍ちゃんに目線を飛ばす。


「私たち、あの二人とパーティを解散したんです……それで、私たち、貴方に鍛えて貰えないかって!」


「よく言えたね、槍ちゃん。えらいえらい」


 頭をぽんぽんと叩いてから、回復ちゃんに目を向ける。


「槍ちゃん……??」


「回復ちゃんは何を言いたかったの?」


「えっ! その、同じ事を……」


「同じ事って何? ちゃんと自分で言いな?」


 槍ちゃんが何か言いたそうだが、手のひらを向けて止める。

 名前に関しては、名前を名乗ってくれないからだぞ。


「わたし、わたし……強くなりたいです! 強くして下さい!」


「よしよし。えらいぞ〜」


 槍ちゃんと同じようにぽんぽんしておく。

 ぽんぽんされて、顔を俯けてしまったが嫌そうでは無いので良いだろう。


「ちなみに君たち何歳くらいだろうか?」


「十三ですっ……」 「同じく十三です」


 成人である十五歳ですらないって事は、孤児院上がりかな。


「ちなみにちなみに、なんで俺に強くしてくれって頼むの回復ちゃん?」


「……わたしたちっの、会話を聞いていた酒場の店員さんっと、受付嬢さんが、教えてくれました……」


「その二人って、あの人と、あの人かい?」


「そうですぅ……」


 先程、銀貨サービスをしてもらったあの二人か。

 ウインクとはにかんだ笑顔が帰ってきた。可愛いから許そう。


 でも俺そんなに熱心に若手育てて無いんだけどな〜

 しかも、身請けする予定のレイネの世話もしなきゃならんし、ちぃっと面倒だな。


「んー。そうさなあ。回復ちゃんって強くなりたいって言ったけど、前衛になりたいの?」


「あっいえ、その、自衛が……出来たら良いなと。いっつも槍ちゃんに守って貰ってて、それで……」


「えっ槍ちゃん……」


「そうか、なるほどな。……あとはあいつの適正次第か。どっちに転んでも悪くは無いか?」


「えっあの槍ちゃんって……」


「回復ちゃん。俺が連れてくるちょっと年上の女性が今度冒険者デビューするから、そいつとパーティ組んでくんない? そしたら鍛えてあげよう」


「……見てから判断、させて下さい。私、人は見て選ばないといけないって学んだのでっ!」


 俺は黙って回復ちゃんの頭を優しく撫でる。

 成長した。ちゃんと自分の言葉も喋れるし、格上と知った上で俺に意見も言えた。偉すぎ。


 満更でも無さそうだから良いだろう。


 槍ちゃんが不服そうなので、ついでに撫でておく。

 軽く回復魔法をかけながら撫でてるから心地良いだろう。


「気に入ったから鍛えてやろう。そんじゃ二人とも。先ずは走り込みしようか。体力無いとどうしようも無いから」


「「ふえっ」」


 二人の後ろに回って両脇に抱えたら、そのままギルドの奥の扉の先にある訓練場へと足を運ぶ。


 訓練場はそこそこ広いので走り込むのには持ってこいだ。


 二人を降ろしたら、まずは限界まで走ってもらおうか。


 俺はその間に、訓練用の槍を取り出して、槍と回復魔法の使い方を再確認しておく。


 



 ある程度の確認は済んだので、後は二人を見ているとしよう。


 回復ちゃんが訓練場の内周五周くらいでダウンしたので、回復魔法を自身に使いながら走るように言っておく。


 槍ちゃんはまだまだいけそうなので、槍を持って走らせる。

 ただ持つだけ。ただ絶対に手から落とさない様に言い含める。


 ふぅ〜訓練する女の子を見ながら摘む干し肉は美味いなあ。

 干し肉を齧りながら、マジックポーチからテーブルと椅子を出して、皿に干し肉とドライフルーツを出して盛り付ける。


 俺が持つマジックポーチはどっかの何とか言うダンジョンの深い層で見つけたからか、ポーチサイズなのにポーチの口より広いものも入るし、内部空間も馬鹿みたいにでかい。


 デカすぎてなんでも入るのでいつも適当な物を入れているのだ。

 お陰で快適極まりない。





 二人が疲労困憊になって来たので集合をかける。


「二人とも、その状態でどれだけ動けるか見せてくれ」


「はっはい……」「わっわかり、はあはあ、ました」


 槍ちゃんに合わせて槍を使って相手をする。


 槍ちゃんは疲労困憊でもそこそこ動く気力を見せる。槍が当たりそうになれば最小限の動きで避けようとしているし、感覚も良いし筋も良い。


 回復ちゃんは、魔力切れにならないように節約しながら回復魔法を使う事を覚えたようだ。

 それも自分と槍ちゃんを同時に少しづつ癒している。


 いきなりそれが出来るという事は、既に出来るだけの素質は持っていたという事だ。

 それを今になってやり始めた事から、やっぱ人間追い込まれないと効率に目が行かないんだよね。



 少しの間はそれで持ったが、回復ちゃんの魔力節約も限界に達し回復魔法が途切れれば、槍ちゃんも目に見えて動きが悪くなる。

 だが、そんな中でも回復ちゃんへの道を塞ぐ立ち回りを意識出来ているのは素晴らしい。


 ここらで槍ちゃんのおでこを指を弾いて叩き、終わりを告げる。


「よく頑張った。二人の現状の能力の底が見えたね。悪く無いと思うよ? スタミナや魔力の節約を覚えたんだ、これからはもっと良くなっていくんじゃないかな」


「「はあっはあっはあっ……」」


 二人とも喋ることすらままならない様だ。

 だがそれで良い。訓練でそこまで自分を追い込めるなら、この子達は伸びる。


 息がある程度落ち着いたら、皮で出来た水筒を渡す。


「一気に飲むなよ。一口づつゆっくり飲むように」


 黙って言う事を聞いて、何度も何度も水筒を傾けながら水を飲む。


 素直で可愛げのある良い子達だな〜。


「今日の訓練はこれにて終了ね。明日もまたここに来な。当分の間の生活費は俺が持つから、安心して自分を鍛えると良い。とりあえず汗拭いて服を着替えたら、昼飯食べに行こうか」


 魔法で土の壁を出して目隠しを作ってから、そこに桶と水と布を置いておく。


 着替えは……俺の服しかねえじゃん。まあいっか。小さめのやつを二着置いておこう。


「ほい、体拭いて着替えてらっしゃい」





 着替えて出てきた二人を見るに、やはりサイズが大きかったのか、首周りが大きく見えてしまっていて少しえっちかもしれない。


 そうだ、昔使ってたマントがポーチにあったはず……あったあった。


「悪いな二人とも、これをはおっといてくれ。後で服を買いに行こう。流石にそれくらいは買わせてくれ。今来てる服は俺のお古だから好きに処分してくれて構わない」


 詫びながら魔法を解除して、タライと布を回収する。


「ほいじゃ、飯を食いに行くぞ?」


「「……はいっ」」


 後ろからスンスン鼻を鳴らして匂いを嗅ぐ音が聞こえるが、流石に恥ずかしいのでやめて欲しい。


 酒場に着くと、人が屯し始めていたので食いたい物を注文してから二階に持ってきてもらうように頼む。


 これでも俺は強い冒険者さんなので、俺の付き人的ポジションで上で飯を食うぐらいはできる。


 その時に酒場のお姉さんが三人分ジュースを搾ってくれたので、槍ちゃんと回復ちゃんにもぷはーっとやらせておく。


 二人が腰に手を当てて飲む姿は案外様になっていてお姉さんは笑っていた。


 二階で飯を胃に収めながら、二人の宿を聞いて、拠点を移させる。


 稼ぎがないと、安い宿を探し、安い宿を探すと治安が悪い場所に辿り着いてしまう。

 二人の拠点としている宿の周辺は女の子的に心配なのでこれから服を買うついでに、二人の荷物をポーチに納めて俺が良く使う宿の二人部屋に泊まらせよう。


 昼食に出てきた肉は、フィアータイガーというフィアの森に生息する魔物の肉で、B級パーティが対応するレベルだ。

 魔物は強い奴ほど肉が美味い。


 槍ちゃんと回復ちゃんは頑張ってがっつかないように食べていて可愛かった。


 美味い肉、回してくれたのかな。

 ……後で酒場のお姉さんに銀貨サービスしてこようっと。



◇ ◇ ◇ ◇



 お腹を膨らませた後は、二人の服を買いに行く。


 ぱぱっと済ませるつもりでいたのだが、何故か似合う似合わないを問われ、こっちとどっちが良いかも問われ、どっちも買ってやる事になった。


 大して高く無いし、今日の稼ぎの十分の一も使ってないから良いんだが、まるでデートみたいになってる事だけは不服だ。


 服を買って着替えさせた後、二人の荷物を回収して宿を引き払ってから俺の定宿へと案内する。


「ここ、『お前の宿』。ここは立地も良い中、値段も安い。何より飯が美味い、コレ重要だ。料金は二人部屋を二人で使って一日銀貨二枚くらいだ。そのうち当たり前のように泊まれるようになるから気にすんな」


「ぎぎっぎぎ銀貨二枚……」


「一日で銀貨二枚……そんなに稼げるようになるの……?」


「なんと言ってもお前たちは、俺の……知り合い? 女? と組んでもらうんだ。これぐらいの世話はする。初心者で弱っちいだろうけど、お前たちの依頼には俺も同行するから命の保証はする。だからよろしくなー」


 大銀貨一枚で五日分先払いして部屋を取っておく。

 俺も今日から二人部屋に移ることを言って料金を五日分払っておく。


 宿の部屋に二人の荷物を出し終えて部屋を出ようとすると、両手を出して何かを強請られた。


「金か?」


 二人同時に頭をブンブン横に振る。


「肉?」


 またもや横にブンブン振る。


「何だよ。口で言え、口で……」


「「……服」」


 口籠もって躊躇しながら言うのが服?

 しかもさっき買った奴は先ほどクローゼットに出してやったはずだ。


「……さっき着てた俺の服か?」


 今度は縦にこくり首が振られる。


「まあ構わないが……俺のお古をどうすんだ?」


 二人は答える事なく服を取った後に部屋から追い出された。


「明日の朝、また迎えにくるからなー。今日の訓練を頭の中で反復しておけよー」


 二人にそう告げてから宿を出て、娼館へと向かう。

 色々あったが即日身請けしに行く。


 身請けする気になった女を他の男に抱かれたく無えしな。


 レイネには辛い日々が始まるだろうが、冒険者とはそう言うもんなので諦めてもらおう。


「夜のお相手は当分無理だろうなぁ。疲労度的に」



 にしても……ダラダラしようと思ったその日が一番ダラダラ出来ないとはな。


 ルフェルと出会って、槍ちゃんと回復ちゃんを抱え込んで、レイネを身請けして、当分の間はだらけてらんねえなこりゃ。

 

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