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第二話 良いことをすると気分が良い

 カウティスに言われて渋々二階へと向かう。

 気配を探れば、人が集まっている部屋があるのが分かる。分かるからこそカウティスの野郎もどこの部屋かを言わなかったのだろう。


 と言うことでジュース片手に会議しているところに堂々と入っていく。


 部屋には中央に円卓とそれを囲む様に数人の冒険者達が座っていた。

 円卓の中心にはこの街周辺の地図が置いてあり、ギルドマスターがその地図を指差しながら説明している所だったようだ。俺が部屋に入ったことでその説明を中断させてしまったようだが。


「うーっす。『氷閃』様に言われて来ました〜」


 そう声をかけると半数の冒険者からは厳しい目を向けられ、逆に半数の冒険者からは呆れた目を向けられる。

 唯一ギルドマスターだけは笑っていたが、何やら嫌な予感がするな……


「やあレイジくん! よく来てくれたよ! 君に任せたい仕事があってね? 君にしか頼めないんだ……」

「——ああ、そう言うの良いんで。手っ取り早く頼みます」

「うん……ごめん。君はそう言う人だよね……えっと、知らない人もいるみたいだし一応紹介しておこうか、彼は『超人』のレイジ、実力は私が保証するよ」


 ギルドマスターがそう言うと厳しい目を飛ばしていた奴らの表情が戸惑いに変わる。


 俺みたいなだらけた奴が二つ名持ちな事を怪しみたいのにギルドマスターが保証してしまったことで何も言えなくなったのだろう。

 要は二つ名持ちではなく、数合わせか何かで呼ばれた高ランクの冒険者と言ったところか。


 俺を見て呆れていた半数の冒険者は俺も面識のある二つ名持ちの奴らだ。理解があって助かるよ。


「それで? 森の調査って聞きましたけど、なんか異変でもありました?」

「ああ。簡潔に言うと、魔物共が森の奥から浅い所に向かって来ているようで、生息域も全く違う奴らが入り混じって森全体が混沌としているんだ」

「なるほど。森の掃除と原因の調査で分けたいって訳ですか。俺はどっちですか」

「君には森の北部の奥地での原因の調査を頼みたい」

「んじゃ、ジュース飲み終わったら行きま〜す」

「ああ頼むよ」


 このギルドマスターとはそこそこ付き合いがあるお陰で非常にコンパクトな会話で必要な情報を得ることが出来た。


 俺の扱いをよく分かっていらっしゃる。良き理解者のためにもちゃちゃっと見て回るとするか。


 他の冒険者達は優先して相手されている俺を見て処置なしと放置するか、食ってかかりたそうな奴らで別れているな。

 変に絡まれる前にさっさとここを出るとしよう。


「んぐっんぐっ……ぷはぁぁあ。そいじゃ行ってきまーす」


 俺がそう言うと最早誰も口を開かなかった。騒がれるよりも都合が良いのでそのまま部屋を出て一階に降りるとジョッキを返却しに行く。


 その際にはチップも少し置いていく。今日も美味かったからな。


「部屋入って出るまでに一分掛かりませんでしたね? レイジさんのあの自由な感じ僕結構好きなんですよね〜清々しくって!」


 爽やか男がまたも話しかけてくる。

 しかも俺の入室から退室までの時間を数えるほどの暇人らしい。


「速いに越したことは無い。働く時間は短く稼ぎは多く、それが俺のモットーだ。分かったらその爽やかな顔をこっちに向けるな腹が立つ……」

「つれないですね〜。あっ、レイジさんは森の調査だったでしょ? 当たってました?」

「当たってたから構うな。俺はソロ冒険者だからすぐに出る」


 どうしてコイツはこんなに物理的な距離が近いんだ? 俺はさっきからお前のこと遠ざけたいのだが……

 コイツは見た目が良すぎて女性ファンが多くいる。コイツと仲が良いと探られるような目を向けられて気分が悪い。


「……レイジさん。仲間はつくらないんですか? これから先も一人でやっていくんですか?」

「……カウティス、心配してくれるのはありがたいが、俺の戦闘スタイルは他者に合わせる様なものでは無い。俺にとってもソロの方が都合が良い。それに、そろそろ一線は退くつもりなんだ」


 カウティスの真面目な顔は久しぶりに見たな。案外本気で俺の事を思ってくれているのかもしれない。


 これだから憎めない。コイツは善人過ぎる。


 冒険者は死ぬ時にゃ死ぬ、そう言う仕事だ。

 どんなに強いやつでも不意の一撃で死ぬし、どんなに弱いやつでも急所を突けば強敵に一矢報いれる。


 だからこそ仲間と背中を守り合うのだろうが、俺の背中を守れる奴がそもそも居ない。

 何より稼ぎが減る。これが一番面倒だった。


 そして今では綱渡りな仕事を受ける気はもう無いし、金も十分あるし、弟子を育てるつもりなんだ。


 カウティスには悪いが要らぬ心配だったな。


「一線を退くって……嘘でしょ? レイジさんのその強さと若さで引退するんですか!?」

「声がでけえっての。別に良いだろう。贅沢しなきゃ一生困らないだけの金もあるし、冒険者そのものをやめる訳じゃねえし。つーかもう行かせろ。お前の気持ちは知らないし、俺は俺の考えを曲げる気はない」


 そう告げて背を向けたまま軽く手を振って冒険者ギルドを出る。

 すぐに日差しが俺を照りつけてくる。何故か今朝よりも不快に感じた。




 ため息を漏らしながら街の北門へと向かう。

 道中で屋台が出ており、そこで軽く食事をとっていく。


「おやっさん、ハイオークの肉串四つ貰えるか?」

「四つもかい? お兄さん太っ腹だねえ! ハイオーク串四つで銀貨四枚だよ!」


 丁寧に処理された肉に見える。それに焼き上げも絶妙に思えたので銀貨六枚払っておく。


 後ろから良い声で「毎度ー!」とかかる声に軽く手を振りながら肉串を食べていくが、やはり美味い。


 塩が程よく効いており、噛むたびに肉汁が出てきてジューシーで、弾力も強すぎず顎に負担がかかるほどでもない。非常に食べやすい部位で食べやすく調理されている。


 何よりもハイオークという点が興味をそそった。

 オーク系の魔物はこれから向かう森でも現れるのだが、その肉が非常に上手い。

 そんなオークの上位種でもあるハイオークはそこそこ強いのでそうそう狩れる相手ではなく、狩ったとしても肉がボロボロで可食部が少ないなんてことも珍しく無い。


 そして冒険者ギルドでハイオークが入ったとなれば、ギルドがある程度の肉を買い取るのは当然で、そうなればギルド内の酒場にも入り、戦場になるのは必至。だがそんな話は聞いていない。


 このことから、あの店主が自分で狩ったか、伝手で手に入れたと考えられる。そしてあの店主はあの部位が串焼きに丁度良いことも分かっていたのだろうし、ハイオークを扱うのも慣れていた様に見えた。

 であれば、美味く無いわけがないのだ。



 うむ。美味い物を食うと気分が良くなる。この気分のまま宿に帰りたくなるな。

 だがそうも行かないのが現実。仕事はやらねばな。


 北門に着いた俺は若い冒険者達が外に出ようとしているのを見かける。


 今日の森は不安定な状態なはずなのに、装備も実力も十分で無い若い子達が外に出ようとしているのに違和感を覚える。

 冒険者なら、受付でそれなりに注意や警告を受けるはずなのだがな……


「あーそこの君たち。これからどこに向かう積もりなんだ?」

「はあ? おっさんには関係ねえだろ!」

「ちょっと! 初対面の人になんてこと言ってんの!? すみませんコイツ馬鹿で!」


 男女それぞれ二人づつの四人組みで男が剣と魔法使い。女が槍と回復魔法使いかな。バランスは良いけど全体的に練度は低そうだ。


 俺に悪態をついたのは剣をもってる少年で、その少年を諌めているのが槍を持っている少女だ。


「今日は森に入るなとか受付で言われてないかい? 今日のフィアの森の魔物達は荒れてるらしいんだけど……」

「えっ!? そうなんですか!? このバカ! アンタ受付で聞いてた癖に黙ってたわね!」

「浅いところの魔物が荒れても別に俺たちなら問題ねーだろうがよ!」

「それは流石に勘弁して欲しいかな? 命に関わる情報を黙ってる様なやつと一緒に仕事は出来ないんだけど?」

「ヒーラーとしてもそれはちょっと勘弁してほしいかも……魔物の数が多くなるだけでも対処は大変だよ……」


 どうやら剣の少年以外はまともな様だ。というか剣の少年はどうしてこんなにも血の気が多いんだ?


 面倒ではあるが、若い芽を摘ませない為にもう少し情報を与えてやるとするか。


「フィアの森の奥地の魔物も浅いところに向かって来ているんだ。軽い気持ちで行くなら君たち全員死ぬよ? 特に剣の少年は冷静さが無さ過ぎて真っ先に死ぬよ」

「黙れよおっさん! 俺はそんな弱くねえ! 少なくともおっさんよりも強えよ!!」


 剣の少年が言い終わるのを見計らってから、反応出来ないだろう速度で首を掴んで持ち上げてやる。


 四人とも目で追うことも出来ていない。唯一槍の少女は体が反応していたが、まだまだ未熟だ。


「この速度に反応も出来ず、この腕を振り解くことも出来ない。これだと森の中層にすら入れないな。自分の実力が分かったら訓練でもするんだな」


 少年はジタバタするだけで、俺の腕は微動だにしない。

 もう十分だろうと首を掴んだ手を離してやると、尻餅をついて咳き込んでいる。


 槍の少女達は俺と剣の少年とを見比べながら動けずにいるようだ。


「実力不足は分かっただろう? 今日は訓練でもしていることだ。それと、強くなるなら先ずは生きるための訓練を積むと良い。死むような奴が最強な訳無いんだからな」


 剣の少年は俺のことを恐ろしいものを見る様に見てくるが、俺からすれば自分から死にに行く奴の方が恐ろしい。



 動けずにいる若者達を無視して俺は門へと向かいそのまま街の外へと出る。


 良いことをすると気分が良いな。

 若者の蛮行を事前に阻止し、伸びた鼻をへし折ってやったことで彼らは堅実に強くなっていくだろう。将来が楽しみだな。



 肉串は美味かったし、若者たちを救ったし、今日の依頼が終われば弟子を取るし、それにかこつけて一線退くし、今日はなんだかいつもよりも頑張れそうだ!




 街の北門を出ればすぐに目に入る距離に今回調査する森、フィアの森がある。


 浅い場所には弱い魔物達が巣食っており、普段であれば新人冒険者の育成に使われているが、今回は浅い場所に本来なら深い場所に巣食っているはずの強力な魔物達の姿があるとのことなので、奥地を目指しながら軽く間引いていくとしよう。




 それから三十分後

 道中の間引きをある程度終えてから『超人』たる所以を発揮して深層を超えて奥地までやってきた。


 フィアの森の奥地には標高一千メートル程の山が聳えている。

 そしてこの辺りは、一筋縄では行かない魔物達の巣窟でもあるのだが、今日はそいつらの気配が一つもない代わりにとんでもない気配を一つ感じる。


 きっとこれに怯えて逃げ出した奥地の魔物に深層の魔物が怯えて……とその繰り返しが起きたのだろう。

 速いところ討伐を進めないとスタンピードが起きてもおかしくない。


 このドでかい気配の主を目視で捉えたら調査は完了だろう。

 速いところ終わらせてしまおう。


 俺は気配を出来るだけ薄くして、気配の元へと向かう。


 そこで俺が見たものは……






 巨大な黒竜が腹を上にして眠っている姿だった。

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