説明なしに初仕事、世の中理不尽の連続である
ガチャっ
ステラの名札を英雄さんが板に掛けようとしたタイミングの事だ。
そんな音がしたのだ、鍵が開く音だ。
確信したのは実はステラ、鍵が開く音ってのが好きだ、もっと言うなら開けるのが好き。
誰かの家の鍵とか、誰かの金庫の鍵とか、誰かがかけた錠前とか、誰かの車の鍵とか、誰かの電子機器のロック画面とか、誰かの性癖の扉とか。最後はちょっと毛色が違うな?
マつまりそういう、硬く閉ざされ秘められた何かしらを好き勝手に開いて暴くのが好きなのだ、背徳感があるよね。泥棒の才能。
けれど当たり前のように自分がかけたロックをこじ開けられるのは嫌い、やめろ見んな寄んな触んな殺すぞ。ステラは身勝手な人間だった。
兎に角そんな、好きな音が聞こえたのでウピャッと目を開き音が聞こえてきた方向を向く。
入ってきた方向。
改めて確認すると入って来た時の真っ白い扉とは別に、蒼の扉があった、見たことない空をそのまま映したような綺麗な色だ。
その蒼の扉には金色のドアノブが付いており、けれど鍵穴だとかそのたぐいのモノはなかった。けれどあの音は確かにそこからした。
「増援要請だね」
ステラの名札を持ってそう呟いた英雄さんはそのまま下の列の右から二番目に掛けた。
記憶違いじゃなきゃ下の列は外回りって意味だった気がするんだが、なぜそこに掛けたよ貴様。
増援要請はねって説明を始めながら板の下にあった棚の引き出しを漁っている。
エ? 好きな色なにかって? 否特に好みはないけど、しいて言うなら紫かな、朝の占いに今日のラッキーカラーは紫って言われたんだよね。
英雄さん曰く、増援要請とは言葉通り、任務先で自分だけじゃ対応しきれないって時に増援を求める時に出すものらしい。任務先に向かう扉は一人が入ったら固く閉ざされるし万が一開いてもその先には何もない、世界と世界の狭間の空間に落ちて彷徨い続けるらしい。けれどこの増援要請が来た時だけは別だ、要請を送ってきた相手のいる世界に扉が通じる、さっきの音は鍵が開いたというより世界が繋がった音なのか。
ふむふむ頷いたステラをセーイルさんがいつの間にか立ち上がらせ蒼の扉の前まで促された。アレ、何時の間にこんなところに。
何かを取り出しステラに差し出した、神社のお札みたいなヤツ、ただし色が紫、カラーバリエーションが豊富なタイプのお札かなのね。差し出されたのでそのお札を受け取る。
「”龍”は仕事を振るだけだから誰が出るのかは好きに決めていいんだよね、だから新入りから出るようにしてるんだ」
そういうお兄さんは随分と穏やかで優しい笑顔を向けてきたが、言っていることは大分酷い。
つまりはロクに説明もなにもしていない新入りをいきなり異世界に放り込むってコトかよ、鬼かなんかか。
アこの札を破くと増援要請がされるのね、今すぐ破っていい? ダメ? ダメかぁ。クソがよ。
しょうがないので扉を開いた。
その先にはなにもなかった。何も。地面もない、なんなら空すらない、ここに繋がっていたのは白い通路だが、こっちは虹色の無が広がってるだけである。
「ホントにこの先に進んでも大丈夫なんだよね」
一回振り返ったステラにお兄さん二人は行ける行けると頷いてステラの肩を軽く押した。否押すな、ちょっと待ってまだ心の準備が。
ア
落ちる