こんなに早く死ぬとかマジ世界の損失だと思う
淡輝は死んだ。
因みに、淡輝っていうのは本名だ。
淡く輝くで淡輝。
空でキラキラ輝いてそうな名前だ、素敵だろう。
淡輝本人もとっても気に入っている。
母親譲りの真っ黒い髪と瞳は淡輝って名前に比べると暗い気もするが、それでもママとおソロってことで気に入っている。むしろギャップがあっていいんじゃなかろうか。
あと父親似で春や夏よりも冬が似合うような顔は全体的に温かみとか明るさが足りないが、けれど究極無敵な美少女であることは間違ってないし、なんなら黒い髪と目が合わさる事で美少女具合が増している気がしているので全然大好き。
淡輝は両親の遺伝子に感謝して日々生きてきた。
そんな昨日も今日も、なんなら明日も元気に生きていくつもりだった淡輝の頭に雷が直撃し、一瞬で意識が消し飛んだのだ。
多分死体は黒焦げになっている。
多分、実際は知らん、もしかしたら雷が直撃して死んだのにも拘らず肌は白花の花弁のようで、でも頬と頬っぺたは淡く赤色に染まってて、それでいて体は硬直していてまるで人形のようにその場に設置されてるかもしれない。だって死んだ後とか見てないし。
にしても実に短い人生だったな。享年十六歳、高校二年生、誕生日まであと六週間くらい。
つまりこの世に存在してた時間が十七年無いってコト、世界の損失じゃん。
世界のみんなごめんね。
兎角淡輝はこれからの星のように輝く人生を女子高生のその時で終わってしまった、下校途中の事だった。
分厚い雲に覆われている空の下、傘など持たずに道を歩いていた、なんなら鞄すら持ってない。
淡輝は置き勉派なので通学は常に手ぶらだ、財布すら持たない、荷物はそれこそスマホくらい。
なんせ淡輝は運がいいので、何も持たなくとも全部どうにかなる。
喉が渇けば飲み物が、小腹が空けばお菓子が、足りないものは足りないと思った瞬間、欲しいモノは欲しいと思った瞬間手に入る。
止まることなく進みたいと思えば絶対に止まることなく進むことができたし、逆にゆっくり進みたいと思えば全部の信号に引っ掛かるし何なら事故が起こってその道が使えなくなったりもする。
目の前で事故が起きても掠り傷一つ負うことなく、生まれてこのかた病気をせず、どんな転び方をしてもケガはない。
運が関わろうが関わらなかろうが淡輝が望めば何かしらの事が遠回りに働き望んだとおりの事が起こる。
最早幸運を通り越した何か、それこそ世界が淡輝の為に動いてるんじゃないかってレベル。
そう、運がいいはずなのだ。
なのに帰り道をルンルン歩いているタイミングで強烈な光とデカい音が傍に落ちてきた。雷だった。
それも一回じゃない、ドッカンドッカンとデカい音を伴って空から雷が降ってくる。クソうるせぇ。自分にあたるとは全く思ってない淡輝は鼓膜を破る勢いの轟音を立て落ちる雷にイラついていた。
イラついて。イラついて。文句でも言ってやろうかとその場に立ち止まって空を見上げた。
──ア、当たる。
空から、淡輝に向かって真っすぐ白い光が降ってきた。多分雷だ。
雷を真下から見た人間なんて自分くらいじゃないかと興奮した淡輝は動くことなくその場に棒立ちで雷が落ちて来るのを眺めていた。
多分一瞬のことだったのに、妙に時間の流れが遅い。
眼球が雷の光に焼かれたような気分に視界に白が広がっている。
今までの記憶が頭の中で映像のように再生され、コレが走馬灯かと呑気な事を考える。
そうして、もう二度と瞼を開くことはないだろうなって淡輝は思った。
事実その通り、淡輝は雷に打たれ死に、もう目覚めることはない。
そのはず、だったのになぁ。