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6、最後に残された願い(アゼナ3)

6、最後に残された願い(アゼナ3)




私アゼナベーゼンは、レン様と最後にあったあの日の翌日から毎日ジュエラー協会に通い、新たなパーティーがないか探し続けておりました。

協会に通い始めて四日目くらいまではなんの兆候もありませんでしたけれど、五日目にはなんだかジュエラー協会全体が騒然としているように思えました。ですがどんなに探しても、新たなパーティーの情報は見つける事はできませんでした。

私はこの時点でなんだかとても嫌な感じがしてならなかったのです。それはなになのか自分でも分からないのですが、どうしても心を落ち着かせることができませんでした。

そしてこの朝、私がジュエラー協会に来てみますと、協会のパーティーを書き出す掲示板に一つ小さな黒星があったのです。

この黒星こそ訃報を知らせる記号で、これが付いたパーティーは、葬送の式を意味しておりました。

私は嫌な胸騒ぎに心を乱されながらも急いで受付の男性の所に行って情報を集める事にしたのです。




「ああ君、ジュエラーかい?今なら少し時間はあるから、あの黒星の事を話してやるよ」



その男性は少し声を落として話してくださいました。



「あれはな、一昨日、北利休の火事に巻き込まれておなくなりになった第四殿下のための物さ。王子だと言うのに、式は内々の1だとさ」




(そっそんな、あのレン様がお亡くなりになっただなんて。どうしてなのです。継承権をお持ちではなかったレン様が、何故命を狙われたと言うのでしょう」



あまりのショックで、目の前が白く見えたほどでした。受付の男性はまだ何か話しておりましたけれど、私の耳には全く入りませんでした。

もう二度とあのレン様とお会いする事は出来ない。

あの優し気な声、怜悧な聡明そうなひとみ、りりしい横顔。

私があの方とお話ししたのはたった二回ほどでしたけれど、なんと楽しく密度の濃い時間を過ごしていた事でしょう。

悲しくて悲しくて私は人目もはばからず、その場所にしゃがみ込み

、胸を抱えて泣き出してしまったのです。

化粧をしたジュエラーは決して涙を流してはならないと教えられてはおりましたけれど、あの時の私にはそんな事どうでも良いと思えるほど悲しくて悲しくて涙を止める事など出来なかったのです。




「君、大丈夫かい?」



受付の男性がハンカチを手渡してくださいました。私は急いで涙をふくと深く礼をいたしました。




「取り乱してしまい申し訳ありませんでした。それでお亡くなりになったのは本当に第四王子のガイウズ殿下なのですね?」



私のその声に受付の男性は深くうなずいた。




「君が知らなかったのも当然だよ、王宮の者でも昨日告知されたらしいからね。

だけど、あの第四王子様の事でこんなに泣く子がいるとは思わなかったよ」



何気ないその言葉で今までレン様がどんなに冷遇されてきたのか思い知らされました。


それと、頭にピンと来た感覚が私の思考を塗りつぶします。



(ああレン様、貴方のおっしゃっておられたパーティーって、ご自身の葬送の式の事だったのですね)



あの日のレン様の姿を思うと、胸が痛みます。

いつも覚悟を持って生きておられたレン様、その全ての感情を自分の身の内で律し続け私には笑顔を向けてくださる優しいお姿。

それでもかすかに震えていたあの背中を私はどんなに抱きしめたかった事でしょう。



『さよならアゼナ、幸せになるんだよ』



あの時風に運ばれてきたレン様の最後の言葉はなんて優しく、そして悲しい響きだったことでしょう。私は決してあの時のレン様の声を忘れることはないでしょう。



(レン様、貴方は六日前のあの日、既にご自身が死ぬ事を分かっておられたのですね)



そのとき、私の身の内に言い知れぬ違和感が走りました。

まるで世界が二十写しになっているような違和感、ですがこの時の私にはそれがどこから来ているのかわかりませんでした。

どこにも向けられない悲しみと焦燥感に襲われ、私は思わず唯一の形見となってしまったあのマリセント石を握って、胸を押さえました。

あの後この大切なマリセント石を無くさないようペンダント加工を頼み今は皮ひもに通してあります。この灰色の輝きを見ていると、レン様の夜空を切り取ったような灰色の瞳を思い出して、泣きそうになってしまいます。

でも、ここで泣いているわけにはまいりません。私はレン様とお約束したのですから。


私は姿勢を正して本題に入ることにしました。



「それで葬送の式は何時行われるのでしょうか」




「三日後と聞いてるよ」



その言葉に私は息を飲みました。

レン様とお別れするのにもう三日しか時間は用意されておりません。否が応でも私は三日以内に気持ちを整理して、せめてレン様の最後の願いを叶えなければなりません。

それは仕事だからとか言う事ではなく、私が頂いたレン様からの思いのすべてをこめて、お返ししたいと強くおもったのです。

こんな私がレン様にして差し上げられる最後の事を。

私は一つ大きく深く息をして自分をどうにか落ち着かせました。




「その葬送の式にはジュエラーは呼ばれているのでしょうか?」



私の事ばに受付の男性は驚いたように手元の書類に目を走らせました。



「驚いたな、ああ君の言うとおり、珍しいが一人だけジュエラーの枠があるよ。だがこれは特別チケット枠だから、早いうちに特別チケットの半券の持ち主を探さなくちゃな」



その言葉と同時に私はバッグから特別チケットの半券を出して言いました。



「そのジュエル、私に受けさせてくださいませ」



受付の男性は驚いたように黒星に書かれている半券の番号と私の持ってきた半券の番号とを見比べておりましたが、終いにうなずきました



「確かに君がこの黒星のジュエラーだ。こりゃ驚いたな、君がこの半券の持ち主だったとはな」



その男性はもう一度チケットの番号を見比べた後受領印を半券に押し私に返されました。



「これで君が確かにこの黒星のジュエルを受領した事になる。それでは式は三日後の午前十時からとの事だから、君はその一時間以上前に必ず王宮のジュエラーカウンターで受付をすましておいてくれよ」



「はい、確かにこのジェムフルールが承りました」




私は深い礼をして協会から去ると、協会から貸し与えられている部屋のベッドにひとまず身を投げたのです。


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