表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/30

5、貴方に託された最後の約束を(アネーラ2)

5、貴方に託された最後の約束を(アネーラ2)




「なっなんですって!」



私アネーラ バージル ポメールはその一報を聞いた途端、悲しみと後悔で気を失いそうになった。


その夜、私達王族は皆大広間に集められ、一堂に訃報が告げられたのだった。


「昨夜未明、我が北離宮に不審火が起こり、北離宮が全焼した。そのさい、北離宮に住んでおった我が第四皇子ガイウズが火に巻き込まれ犠牲となった」


王の言葉は重々しかったけれど、悲しみなど一遍も感じられないような淡々とした口調だった。




「嘘でしょディレンが死んだなんて」



私は息をするのも忘れてじっと父の横顔を見つめていた。

どうしてもどうしても、あの子が死んだなんて考えたくなくて、それを否定する材料を探したけれどそんなものはなかった。第一王が嘘の情報を言う必要なんてないのだから。

手で顔を覆いながら泣く私の横では、アドリアナ母様が扇で顔を覆って泣いておられた。



「ああごめんなさいね、ガイウズ、結局わたくしなにもしてあげられなかったのですね」



弟のリックは泣いてはいなかったけれど、苦しそうに目を伏せていた。



「ああガイウズ兄さん、どうしてこんな・・・」



こんな訃報を聞いてさえ悲しみに暮れているのは私達親子だけだった。



「あらこれでさっぱりしましたわね。そもそもあのような下賤な血を王族に交えさせるのが間違っていたのですわ」



スベンツァーナ第二期先などはあからさまに嬉しそうな声を上げていタ。



「おい、やつはいったいなんのために生まれてきたんだろうな」



「さあな、おれが知りたい所さ」



「ふん、だがこれだけは事実だ。やつの存在は全くの税金の無駄だったな、わはは」



二人の息子たちも生成したとでも言いたげにディレンの悪口をささやきあっていた。




「ふむ、やはりやつは本人の言う通り短命だったって事だな。草葉の陰から見ているがいいさ、この俺がこの国の王になる所おな」



一方、第一王子のゲルバルト王子は前から知っていたとでもいうように態度を一変も崩す事はなかった。

他の従者や大臣たちでさえディレンに心を向ける者は居なかった。



「ディレン、貴方は何時もこんな仕打ちを耐えてきたのね」



悲しくて悔しくて、心無い人たちを睨みながら私は泣くことしか出来なかった。



「おほん」



 その時国王の咳払いが響いて、騒然としていた会場が一気に静かになった。



「皆驚いているようじゃな。してガイウズの葬送の指揮は今から四日後の昼からとなろう。階位は1の内内の会とする。参列を希望する者は・・・」



「葬送の式?参列ですって?「



何かが私の頭に引っかかるのだ。まだ続いていた国王の言葉などもう頭にはいらなかった。私は必至であの時渡されたディレンのメモを思い出そうとしていたのだ。

ディレンのメモにはこう書いてあったはずよ。



『パーティーにお出しするオレンジの用意ができました。

ぜひマリアベル様とともにご賞味ください。

私のパーティーの際には私の色を纏い、必ずマリアベル様をお連れくださいね』



その文面を完全に思い出した時、私はその場に泣き伏してしまった。



(私はなんて馬鹿だったのかしら。あの時ディレンがパーティーなど開けようもないと思って首をかしげていたけれど、そうじゃないわ。あの孤にもたった一回自分でパーティーを開くことは出来るのよ、そう葬送のパーティーを。それに「私の色を纏ってパーティーに来てと書いてあるじゃないの。あの子の色そう黒を着て、私にもちゃんと分かるようにも服でパーティーに来てほしいと書いてあったと言うのに、何故私は分からなかったのかしら?私のパーティーで最後に会った時だっておかしいと思っていたじゃない)



そう自分で思ったとたん、違う意味でサアッと私の血が下がっていくのを感じた。

私は考えを纏めようとハンカチで顔を覆いながらゆっくりと深呼吸した。



「このディレンのメモはあの日私のパーティーの時、書簡入れとともに渡されたのよね。と言う事は、あの時既にディレンは自分が死ぬ事を分かっていたと言う事になるわ。最後にくれたあの言葉も、今考えれば私への最後の別れの言葉だったのよね。それに昨日はあのこの十七の誕生日だったはずよ。ちょうど十七歳になったとたんに死ぬなんて出来すぎているんじゃないかしら」




私は思いを巡らせた。



(その上で事前に自分が死ぬ日取りを知っていたとすると、十七歳になる事がトリガーとなる呪いか、あるいは第三者に殺されるのをあらかじめディレンは知っていたことになる。どちらにしてもあの子は決して火事に巻き込まれて死んだんじゃないって事だけは確実ね。いったい誰がディレンを殺したのよ)



体全体に怒りが満ちてくるのを私は止めることは出来なかった。ぶるぶると怒りで身を震わせながら楽し気にまたなんの感情も払わずに談笑している者どもの顔を見回した。。



(絶対この私がディレンを殺した犯人を突き止めてやるわ。だけど、今はそれどころじゃないわ。あの子が命を懸けてこれを用意したのなら、私はそれを叶えなければ、だってそれだけが私に最後に残されたディレンにしてあげられる事なのだから)



私は大きく深呼吸をして自分を落ち着かせた。



(さあアネーラ、冷静になりなさい。どんなに許せなくても今だけはディレンのたのみを聞くために冷静でいなければならないわ。それでディレンはその葬送式にケルミナおばあ様を連れてきてほしいと言う事なのね)



 ケルミナおばあ様は嘘を見抜く『真実の瞳』を持っておられ、人が嘘をついたり書面でも嘘を目にすると、そのグリーンの瞳が銀色に代わるのだ。それはもう端で見ていても分かるほどに。

ディレンは自分の葬送式で何かを起こそうとしていて、それをおばあ様に見せようとしているのだろう。

だんだんあの子の計画が分かってきた私は深くため息をついた。

私はディレンの覚悟のほんの一部を今やっと垣間見たような気がした。




「ねえディレン、貴方って子は自分の死を担保にこんな計画を練ったと言うの?」



あの子はまだ十六だったと言うのに、こんな非常な結団をさせて私はそれを全く読み取ってあげられなかった。




「でもディレン、分かったわ。貴方の覚悟は今度は私が継いであげる。ちゃんと貴方との約束を叶えるわ、だから天から見ていてちょうだい」




私はそう誓って一歩を踏み出す事にした。

ディレンの葬送式までにしなければならないことが沢山ある。


どんなに悲しくても悔やんでも泣いている時間なんて私にはないのだから。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ