4、今空を渡る月に誓って(アゼナ2)
4、今空を渡る月に誓って(アゼナ2)
次に私がガイウズ殿下、いいえレン様に出会ったのはあれから三か月後の事でした。
その日も私はジュエラーのお仕事で、アネーラ王女様の誕生日パーティーに呼ばれておりました。ゴルデウム殿下の時とは違い、「花摘みの娘」と言う可愛らしい演目は王女様のお誕生日パーティーにはぴったりです。
パーティーの中ごろで私のジュエルが終わりましたので、私は息抜きに裏庭へ出てみる事にいたしました。そこにレン様が立っておられたのです。
レン様はご自分が開くパーティーのジュエルを私に依頼するために、あの場所で待っておられたのだそうです。
「ですけれど、三か月前私がそのお話を聞いた時、レン様はあまり嬉しそうなお顔はされていませんでした。むしろ寂しげでそれでいて覚悟を決めた人のようなストイックさを持ち合わせた表情をしておられたのです。
「でも宜しいのですか?レン様はあまりそのパーティーには気が進まないようでしたけれど」
つい、こんな言葉が口から漏れてしまいました。
私なんかに心配されても仕方ないとは思うのですが、崖の直ぐ上を歩いている人見たいで今にも崩れそうな危うさも相まって支えたいと思ってしまいました。こんな気持ちは初めてで、どうして良いのか分かりません。
レン様は失敗できないお仕事だから、私にやってほしいと、私を信頼していると行ってくださいました。こんな事は初めてでした。他の方でしたら口先だけなのだろうと思ったのでしょうが、あの方は毎日をある覚悟をもって過ごしていらっしゃるそんなお方です。
レン様の言葉には真実身がございました。
子爵のお屋敷でも私は役立たずと言われ、このジュエラー教会でもまだあまり実績もないと言いますのに、あの方はたった二度会ったばかりの私を信頼してくださったのです。どんなに嬉しかった事でしょう。
ですがそれ以上にレン様が冷遇されているらしい事、何か並々ならぬ決心を持って私の前に立っておられる事を知り、心がかき乱されるような苦しさと悲しみを覚えました。
(確かにこの依頼はかなり難しい。私が出来るかどうかとても心配だ。だけど、レン様は私に頼みたいと仰ったのだ。それに依頼を受けるにしろ受けないにしろレン様とお会する事が出来るのは今夜限りになるだろう。この思いつめた漢字を見るとかなりレン様は危険に身をさらすのだろう、その覚悟を感じられる。だったら、レン様のために今私が出来る事をしてあげたい)
私はそう強く思ったのです。
「レン様、分かりました。このアゼナにやらせてください。レン様の信頼に絶対答えて見せますから」
私はしっかりと彼の美しい灰色の瞳を見ながら総誓いました。
だって、今貴方のために私がしてあげられる事はこれだけだったのですから。
私はその時初めてレン様に恋をしていたのだと気づきました。なんて身分違いの適う事のない絶望的な恋なのでしょうか。
ジュエルの報酬だとレン様より頂いたマリーセント石、それはまるで空から落ちた星の涙のように墨色の深い輝きを秘めておりました。まるでレン様の瞳のようでした。
「さよならアゼナ、幸せになるんだよ」
ささやくような儚げなその声とともに、レン様が私から離れてゆきます。私はあの時どんなにその背中を抱きしめたいと思った事でしょう。でも私はその背中を呼び止める事すら出来ず、ただその後姿を眼で追う事しか出来ませんでした
空を見上げれば満天の星、その中をしずしずと細い月が渡ってゆきます。
「レン様、見ていてください。私必ずあなたの気体に答えてみせますから」
空を渡る月に向かってそう誓ったのでした。