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「おいガイウズ、いるんだろう、入るぞ」


その日、僕の小さな離宮にがんがんと言う乱暴なノック音が響いた。

僕は離宮が壊されてしまう前に、急いでドアを開けた。

レンガのような赤い髪は逆立ち、百八十センチをゆうに超える大柄な体躯はこの小さな離宮など簡単に圧死潰してしまいそうな気迫に満ちていた。


「第一殿下、どうされましたか?」


僕は進化の例を取る。

僕だって名目上第四王子だったりするのだが、兄王子様方は誰も僕を同じ王子とは認めていなかった。それも仕方ない。僕の父は現国王だという事ははっきりしている。だが母の事は公に発表されていないのだ。

僕は五歳まで地下の奥宮でひっそりと育てられ、五歳になってから王子としてこの城につれて来られたのだ。だから、兄王子達もアドリアナ様を覗いた二人のお妃さまも僕を王子としては認めていない。特に、時期王と声の高いこのゲルバルト第一殿下が兄として接するのを嫌がった。


「おい、ガイウズ、なんで俺が今頃こんな所に来ているか分かってるんだろ。お前には継承権は元からないんだろ。ならお前、俺に付け」


あまりの事に僕が動けずにいると、なにを思ったのか第一殿下の瞳が般若のように釣り上がった。


「ガイウズ、お前ゴルデウムに付くつもりか?」


その形相は本当に恐ろしく、「ポメールの赤鬼」とは良く言った物だと感心するほどだ。


「第一殿下、少々お待ちください、僕はなにも第二殿下に付こうと言う気はありません。僕は誰の下にも付く気はないのです。だって」


 そう言ってから僕は深呼吸をして感情を落ち着かせようとした。

(陛下もこの兄も、世継ぎ争いのためにどれだけ周りの者を犠牲にしているのか分かっているのだろうか?まあその筆頭がこの僕なのだが・・・)

怒りと悲しみとあきらめが僕の平常心を揺り動かそうとしている。だが、ここで父王への犯意を知られる分けには行かない。そんな事になれば僕が何よりも大切にしているアネーラ姉様を危険にさらすような物だ。それに支配者面している父やこの兄に切り捨てられる者の感情を見せるなど、僕のなけなしのプライドが許さなかった。

だから、もう少しで決壊してしまいそうな感情を深呼吸しながら押しとどめてゆく。


「ぼっぼくの生きられる時間は限られています、ですから、貴方様に付いた所で、なんのお力にも慣れないでしょう」


僕の言葉を聞いた途端、その金色の瞳に満ちていた野望の光はすうっと消えていった。


「ふうむ、これで分かったぞ。お前の命は短い故、父は元からお前に継承権を与えなかったのやもしれんな。まあ良い。それならそこで見ておれば良いわ。俺がこの国の王となる所をな」


第一殿下はそういうと入ってきた時と同様に足早にこの離宮から出て行った。


ふうっ、僕はため息を付いた、いや、ため息をつくほかなかった。


ギルバーン大陸の西にあるここポメール王国では、現在世継ぎ争いで国中が揺れている。

原因は現国王である父カシバール国王が、昨年ザイボーン帝国との戦いで右足を失った事が発端だった。公務で不自由をきたした父はすぐにでも正式な王大使を立てると言い出したのだ。


それが今から丁度半年前で、その時からこの城内では薄氷を踏むような緊迫感に包まれている。


一番王に近いとされているのが、先ほどこの離宮に来たゲルバルト第一王子である。

彼は剣に優れた才能を持っており二十七と言う若さで国軍の将軍にまで上り詰めた。

父の地を濃く継いだゲルバルト殿下はレンガのような赤紙と猛禽類のような金色の瞳、勇ましい顔立ちで、敵国には「ポメールの赤鬼」と恐れられている。

このポメール王国では高貴な血を持つものほどその身に鮮やかな色を持つとされている。それで、赤髪金目は他国では奇異に思われがちだが、この国では高貴な証となっている。

彼の母、第一妃エロイーナ様は筆頭侯爵のレドーム侯爵の三女だったりする。

つまり、ゲルバルト王子は、血筋においても、経歴においても非の打ちどころがない。

ただ、粗暴なふるまいや、少々横柄な態度であまり民に人気がないのと、彼が王になれば群雄割拠の時代が続くことが決定してしまうので、ザイボーン帝国との戦いが続き疲弊した民には敬遠されている。


彼に対抗するのは第二継承権を持つ二十三歳のゴルドーム第二王子、彼には剣や槍の才はないが、頭がよく、内務官として働いている。

彼の母スベンツァーナ第二妃は、隣国ネブール国の第五王女だ。

陛下由来の野心的な金色の瞳と、母由来の金髪がなんとも派手な王子だ。


第三継承権を持つハンカード第三王子は王立学園を卒業したばかりの十九歳。第二殿下と同じ母を持ち、母由来の金髪碧眼のすっきりとした顔立ち、ゲルバルト殿下のような頼もしさはないが、とにかく花のある王子だ。物腰の良さも相まって若い貴族の子女には人気がある。

スベンツァーナ妃はゴルドーム王子とこのハンカード王子のどちらかを王にしようと画策しているようだ。


 そして第四継承権を持つのは僕の弟、ロードリック第五皇子。

王立高等学院に上がったばかりの十五歳だが、剣においても学問においても好成績を維持している。

彼の母アドリアーナ様はこの国のバレッド伯爵の三女で、ほかの二人と比べやや家格が劣るが、 そんなアドリアーナ様の聡明さとやさしさはロードリック王子や姉姫のアネーラ様にも受け継がれている。瞳は茶色、黒髪なので、この国の者からは見下される傾向にあるが、僕にとってはりりしい大切な弟だ。


第五継承権を持つのはロードリックの実の姉に当たる十七歳のアネーラ姉様。次の夏には隣国ネブール国に嫁ぐ事が決まっている。

アドリアーナ様に似た栗色のつややかな長い髪と柔らかな水色の瞳を持つ優しい姫だ。

このアネーラ姫だけが僕に心を向け、大切にしてくれる僕にとってなによりも大切な姉姫だったりする。

なにしろ僕は生まれてから十六年もの間、母親の存在も知らされず、周囲から失笑と侮蔑の視線の中で生きる他なかった。

だから、こんな僕に優しく声をかけてくれるアネーラ姫がどんなに僕を救ってくれたことか。

ロードリック王子も数年前までは僕を「兄さま」と言って慕ってくれていたし、時々心配そうなアドリアーナ様の視線を感じたりしていた。

だけど、こうも思う。

もし、この三人が居なかったら、僕はとっくにこの城から逃げ出す事が出来ただろうにと。そう出来たらどんなに楽だっただろうか。

 

それでも、僕にはどうしてもこの三人を、特に大切なアネーラ姉様を切り捨てる事など出来なかった。だから僕はこうして深呼吸をしながら、全てを捨てる決心をしたのだ。


「さあ、後はジュエラーを見つけるだけだな」


僕は羽ペンから手を離すト、念入りにその羊皮紙の中身を注意深く確認して、封蝋を押した。

すっかりと準備のできた封書を引き出しにしまいこみながら、僕は腕を組んで考え込んだ。

(どうしたって、この計画には信用できる優れたジュエラーが必要なのだ。

ジュエラーと言うのはかつての歌姫のことで、美しい歌声に加えてジュエルのスキルにより絵を映し出す事が出来るので、上位貴族のパーティーには欠かせない存在だ。

ジュエラーになるのは大体下級貴族の若い娘が多い。

下級貴族と言えども男爵、準男爵などの最下級貴族はかなり貧乏な事が多く、家計を助けるために、娘をジュエラーにさせるのだ。

だが、それゆえに上級貴族の男に媚び、嫁入り先を見つけようとする浮ついた者が多く、どうしても信用に値する者が少ないのだ。


考え込んでいた僕の脳裏に、三月前に出会った黒髪の細い少女の姿が浮かんだ。

アゼナと言ったその少女はまだ十二か十三のジュエラーになりたての若い娘だが、歌の深い理解力と美しい声とを思い出す。

「うん、あの子なら、この仕事を任せられるかもしれないな」

僕は、一番近いパーティーの予定とジュエラーとを確認して満足した。

ふと心に余裕が出来るとどうしても三か月前夏の夜に出会ったその娘の事を思い出してしまう。

だいたい僕はパーティーのような華やかな場所には近寄らないようにしていたのだ。陛下からも僕は王子扱いされて来なかったのでパーティーに参加する

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