20 キズモノ娘娘【完結】
かつて、五星国という国が、最たる栄華を誇った時代。
時の皇帝の名は夜昊。親兄弟を弑逆して玉座に就き、覇王と恐れられた皇帝である。
とはいえ、彼の治世に問題があったかと問われれば、答えは否だ。彼は確かに善政を敷く賢帝でもあった。
しかしときに危うき側面を見せることもあったかの皇帝を支えたるが、今なお人々に慕われる、彼の唯一無二の皇后、芥宝珠である。
元は平民の生まれの創牌師であり、寵姫として夜昊自身に召し上げられた末に、当時の後宮制度において存在していた四人の妃全員を香煙牌にて降し、皇后の座を見事射止めたという。
ともに今なおその美貌、その才覚が語り継がれる夜昊と芥宝珠の夫婦仲について、疑う余地が一切ないとは、もはや語るまでもないことだろう。
どちらもたやすくあらゆる愛を得たことが叶ったはずの二人は、互い以外を見つめることはなかったと、戯曲や絵物語のような、それこそ夢幻のような真実が、現代に続く歴史に刻まれている。
皇帝ともあれば次代へと血をつなぐために側妃を娶ることを求められたに違いない。だが、幸運にも夜昊と宝珠は、多くの子宝に恵まれた。なんと四男五女もの太子と公主が生まれ、その九人もまた、それぞれ五星国各地に様々な逸話を残している。
とはいえ、だからこそと呼ぶべきか、芥宝珠という皇后についてのそれ以上の詳細を記した史書は少ない。一説には、夫である皇帝夜昊が、愛しい妻を独占したがったがゆえに、史書や絵姿に彼女の記録を残すことを禁じたとも言われている。
その数少ない絵姿において、共通するのは、芥宝珠の顔には大きな傷痕が残っていた、という点である。
だがしかし、絵筆を片手に夫の隣にたたずむ彼女の姿は誰よりも美しく、歴代の皇帝の中でもその美貌に定評のある皇帝夜昊に、決して見劣りしないどころか、むしろ不思議と互いの美を高め合うという、まるで新婚夫婦の惚気のような逸話もまた残っている。
あらゆる神牌を修繕し、制作し、瑞獣すらも従えて、覇王と呼ばれた皇帝を、芥宝珠は生涯支え続けた。皇帝夜昊もまた、ともすれば“傾国”にもなりえた彼女のことを、決して道を違えることなく愛し、彼女自身がうそぶくその俗称を笑ってはねのけ、生涯側妃を娶ることなく、彼女だけを見つめ続けた。
絵筆を片手にして覇王とともに乱世と戦い続け、まるで絵空事のような平和な時代を築いた芥宝珠は、『キズモノ娘娘』と呼ばれ、現代においてもなお、からかいまじりの親しみとともに、創牌師の畏怖と憧憬を集め続けている。




