表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

(俺が)(あんたが)主人公のこの世界で(私が)(お前が)

ふとした瞬間、思い出す。

作者: 梅木しぐれ

 授業でやった羅生門。

 正直なところ、あんまり覚えていない。

 確か……雨の日にクビにされた男が、羅生門で雨宿りをしてババァだったか、ジジィだったか殺して服を奪い、雨の中走り去って、その後の男の行方は誰も知らない。で終わった気がする。そんな気がする。うん。

 なんでそんなことを思い出したかというと、帰宅途中に雨が降ってきたからコンビニに避難したら、ふと思い出した。たったそれだけだ。

 もしここが羅生門なら、俺はこの購入予定のビニール傘で店員を殺して、新しいビニール傘を奪って走り去る、いや違うな。殺したら、レジの金も、ビニール傘も奪って走り抜ける。そいで、設置された監視カメラから俺の存在がバレて速攻捕まって豚箱行きだぁ。


 ——まぁ、やる度胸も、する理由もないからしないけど。


 気だるげな店員の「ありがとうございましたー」の言葉に、軽く頭を下げコンビニの外に出る。雨は今も降り続け、固いアスファルトの色を変えていく。雨特有の匂いに鼻が少しだけムズムズとした。

 バサッと音を上げて、開いた傘に落ちてくる雨が当たりパチパチと音を立てる。弾ける雫になんだかむずがゆくなり頭を左右に軽く振った。


 ——……なんだかなぁ。


 羅生門の男の行方は誰も知らない。

 知らないことはないけど、新たな土地ではそいつが羅生門の男ってことを知ってるやつがいないから知らないだけなのかもしれないし、どこぞの道で野垂れ死んだから知らないのかもしれない。きっとここで俺が店員を殺したら、全国のニュースで流れて、ほとんどの日本人は俺が警察に捕まって……捕まった後も、俺のことを忘れることはあっても、知らないことはないんだろうと思うと息が詰まった。


「………帰ろ」


 俺は羅生門の男と同様に、この雨が降る暗い夜に紛れるように足を踏み出した。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] >購入予定のビニール袋で店員を殺し  ビニール袋?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ