男の楽園
こんなところだったとは・・・。知らなかった!
行きたくなってしまうかも・・・
岩男が言われるままに辺りを見渡すと、いつの間にか辺りに霞がかかっていて、その中心に島の様な陸地が見えた。
太平洋のサンゴ礁の様な平らなその陸地には、砂浜などは見え無かったのだが、波打ち際には真っ赤なものがふさふさと風に揺れているのが見えた。近くづくに連れて、その赤いものが大きなマツバギクの様な赤い草である事が見て取れ、徐々に陸地の遠くの方にまで視界が開けていった。
すると、赤い草原の中に、女性らしき人影が何十人も立っているのが見えた。岩男達を乗せた龍は、岸までたどり着くと、さっきみたいに首を伸ばして二人を陸地に降ろそうとした。
「着いたわよ。皆が待ってるわ」
女はそう言うと、岩男の手を取ってほほ笑んできた。
「彼女達は?」
女は口元を押さえて、恥ずかしそうに笑った。
「私と同じ女よ。あなたの相手」
岩男は首をかしげた。
「俺の相手?」
どういう意味だ?岩男がそう口にすると、女は明確に答えてくれた。
「快楽の果実よ、緑の目。私達は、あなたの快楽の果実」
女はそう言って、顔を赤らめた。触れている部分から、彼女の熱い体温を感じる。
快楽!?もしかして、そう言う意味!?
岩男がそんな目線を女に送ると、彼女はいやらしく一つだけ頷いて、悩ましげな目を向けると、また体を岩男に密着させてきた。
岩男は悟った。興奮で目の前が真っ白になりそうだ。
全く女に相手にされてなかった俺を、何十人もの女が待っているだなんて!しかも、遠目から見ても彼女の様な美人が揃っているみたいだ。信じられないけど、確実に歓迎されている。
岩男は震えた。
無論、恐怖からでは無い。少し前の岩男だったら、こんな状況でも勘ぐり、卑屈になり、ある種の恐怖を伴っていたのだろうが、今は違う。隅々まで力が漲り、惚れ惚れする様な筋肉を纏った自信を携え、男性シンボルが見た事もなく隆起した今となっては、何も怖いものはない。どんとこいだ!
岩男は女に導かれるままに島に降り立つと、陸地一面を覆っている赤い草を踏みつけた。その草は肉厚で、柔らかく、潰れるとピンク色のジェルの様な滑り気の体液を出してきた。地面を全て覆っているから踏まずにはいられないが、滑ってしまいそうである。
しかし、女は器用な足取りで、その上を上手に歩いた。
「早く来て!」
女はそう言ってきゃっきゃっと笑ったが、岩男はおずおずと、転ばないように足元を窺いながら足を運んだ。今から何十人もの美女をお相手しなくちゃならない、選ばれた男の登場シーンとしては格好が悪いけど、滑って転ぶよりはましだ。
しかし、いい眺めである。
皆が自分の事を待ちわびている。あんなに女がいるけど、皆若くて美人そうだし、プロポーションも最高だ。ほとんど裸みたいな恰好は、興奮をさらに高めてくる。
朝比奈楓よりもずっといいかも・・・。
「あっ!」
そこで、岩男は初めて彼女の事を思い出した。岩男は先導する女に、すかさず声をかけた。
「ところで、ここに、若い女が来なかったか?」
岩男が唐突にそう訊くと、女は急に立ち止り、今までとは打って変わった寂しそうな雰囲気で首を項垂れた。
「来たわよ」
その言葉に岩男は激しく反応した。
「いつ?ど、どこにいるんだい?」
岩男は驚きのあまり、彼女に駆け寄ろうとしたが、赤い草のぬめりに足を取られて大胆に滑って転んだ。強く腰を打ち付けたが痛みは無くて、そのまま岩男は女を見上げた。
女はそれを一部始終見ていたが、笑うでも無く言葉を続けてきた。
「あなたを向かいに行く前に来て、そして、・・・今彼女の迎えが来ている頃だと思うわ」
岩男は状況がよく飲み込めなかった。だから、転がったまま彼女に声を出した。
「彼女の迎え?彼女はどこに行くんだい?」
「男の都」
女がそうぼそっと言うので、岩男は慌てて立ち上がり、彼女に詰め寄った。
「何!?男の都だって!?なんで行くんだ?いったい、彼女はどうなるの?」
すると、女は口を開いた。
「あなたと同じ。男の相手をする」
女はそう冷静に言ってきたのだが、岩男はびっくりして大声を上げた。そんな馬鹿な!
「何だって!」
そう叫んで女に掴みかからんばかりに前に進んだが、すぐ草のぬめりに足をとられて、つんのめると女の足元に転がった。
「い、今彼女はどこにいるんだ!案内してくれ!」
転ぶのにもめげずに、岩男が女の足元に縋りつくようにそう叫ぶと、彼女は岩男の頭に両手をそえた。
「今、彼女の迎えが来ている。もう、行ってしまうわ」
そう言って、女は島のすぐ近くの海を指差した。
岩男がそちらに目を向けると、確かに朝比奈楓らしき人影が見えた。ピカピカに光っているジェル状の海の上を、あの粘土色の肌をした男と共に、大きな角の牛に乗っておきにむかっている。
こうしてはいられない!
岩男は出来るだけ早く体を動かすと、何度も転びながら、楓の所に近づいて行った。赤い草はその度に、潰れて粘着質の透明な液体を飛ばしては、岩男の体を覆っていった。
「朝比奈!」
岩男が大声で叫ぶと、彼女もそれに気がついたようだ。こちらに振り返り、声の主を探しているかのように首を振っている。
その表情は少し笑っているようにも見えたが、必死な岩男には彼女が無理やり連れていかけるとしか思えなかった。
「朝比奈!行くな!」
岩男は何度も彼女の名前を叫んだ。何度転んでも、いくら赤い草を潰しても、楓のいる前を向き、それはもう死にもの狂いで追いかけた。一緒にやってきた女と、待ち受けていた何十人の女は、驚きの表情を浮かべながら、自分達からそれて、左の浜辺へ向かう岩男の様子を目で追っていた。
ただ、本人は必死だ。岩男は息を切らせて、体中べとべとになるのもかまいもしないで突き進んだ。
しかし、追いつく事が出来ずに彼女と粘土色の肌の男を乗せた牛は、ゆっくりときらめく海を進んでいき、やがて体をその中に沈めていった。たちまち、きらめく海に朝比奈がゆっくりと飲み込まれていく。そして、岩男が浜辺にたどり着く頃には、もうすっかり楓達の姿は無かった。
岩男はがっくりと項垂れると、紅い草原とジェル状の海との境目で膝をつくと、悔しさで赤い草を拳で何度も叩いた。
くそ!男達の所に連れてかれてしまった!朝比奈が、あの粘土人達に。きっと、あんなことや、おこんなことをされてしまうんだ!
あぁ、なんて言う事だ!
自分が彼女を巻き込んでしまったと言う、やり切れなさや心苦しさで、目の前が崩れてしまいそうなほどだ。どうしていいのか分からない。岩男は力無くその場にうずくまった。
すると、いつの間にか、岩男の周りを陶器の女達が取り囲んでいた。その中から一人の女が岩男の傍に寄って来て、声をかけてきた。
「緑の目・・・」
龍に乗って岩男をここに連れてきた女だ。
「こっちに来なさい」
女はそう言って、ゆっくりと岩男の肩に触れた。
すると、赤い草の滑りけで覆われた岩男の肩に、女の熱が伝わり、透明なぬめり気がその熱で湯気立ち始めた。
岩男は驚きで口をあけながら、女を見た。
なんだ、この熱さは!
一瞬の出来事に目を見開いたが、次にそこから悩ましげな香りが放ち始めたので、途端に目が虜になってしまった。赤い草の粘着質が熱で蒸発された匂いを嗅ぐと、岩男はたちまち体をふるわせはじめ、ついに立ち上がった。
「わーお!!!」
岩男は思わずそう叫んでしまった。
体中に興奮の衝撃が走り、絶え間ない衝動が駆け巡った。目が血走り、感じた事のないほどの感情が頭を埋め尽くしてくる。それは、絶え間なく押し寄せる、本能的な性の衝動である。
岩男の周りには、数え切れないほどの美女達。
岩男は裸でいきり立ってる。
彼女達は陶器のよう。
岩男は野獣のよう。
岩男は一番近くにいた、さっきの女の腕を掴んだ。
「どうすればいいんだ」
「私達を壊して」
女は身をよじさせて、そう答えた。
「何?」
「めちゃめちゃにして!」
女はそれだけ口にした。興奮状態の岩男には彼女が何を言っているのかよく分からない。ただ、突き上げてくるような衝動に身を任せるだけだ。すると、女が岩男に抱きついてきて、体全体を密着させてきた。体全体が熱い。そして、女が触れた部分から赤い草の蒸気が噴き出し、一気にそれが二人を包んだ。どうやら、女もそれで興奮しているようである。
岩男はたまらず叫び出した。
「俺はどうすればいいんだ!」
すると、女は
「もう、それ以上言わせないで!」
と言って、岩男に尻を向けると、艶めかしくそれを擦りつけてきた。そして、岩男の岩男たる部分に手を添えると、すっかり準備の出来ている彼女の秘めたところに誘った。
「きて!」
女がそう言うと、あっという間に、岩男は彼女に抱きついて、本能の為すがままに後ろから突き上げた。ぬめぬめとした粘着質に覆われているからか、女の陶器の様な肌もそれほど気にはならない。むしろ、良かった。しかし、岩男の中でまだ蟠りがあるのは否めなかった。今抱いている女にでは無い。この娘は最高だ。