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塵屑がご縁となりまして、孤島の女勇者は病み上がり王子に嫁ぐ  作者: 黒森 冬炎


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9、ピカピカ妖精

 虹色になった光は、2本の柱のようになった。それから2本は捻り合わされて1本のようになる。虹色の光は、厳かな声でウェービーに語りかける。


「モシホの子よ」

「は、はいっ」


 ウェービーは咄嗟に答える。


「そなたに神秘の術を授ける」

「へっ?はいっ」

「光の中へ来きやれ」


 ウェービーは急展開に度肝を抜かれつつ、喋る光の円の上に立つ。円に立つと、光が作る柱の中に入った形になる。


「わ、わ、わ」


 ウェービーは虹色に包まれておろおろするばかり。驚きながら立っていると、モシホの秘密が身体に染み込む。一族の記憶は、脳に流れ込むというよりも、全身を包み込み抱きしめてくれるような気がした。島を囲む神秘の壁が強められるのも解った。


 ウェービーの頬を温かなものが伝う。ほろほろと溢れる涙に霞む瞳には、決意の色が見えてくる。


「血を繋ぐのだ、新たな首長よ」


 光は厳かに告げた。


「海の底から這い上がる怪物どもから人界を守れ」

「はい」

「モシホよ、強くあれ清くあれ、そして優しくあれ」

「はいっ」


 光は一際強く揺れて輝く。そして再び、天井から音もなく落ちる光の柱へと戻った。




 ウェービーが島の秘密を求めてあちこち彷徨っていた頃、ハプーンは精力的に調べ物をしていた。ウェービーの話の中で、引っかかる言葉があったのだ。


「勇者の力を悪用するとバチがあたる」


 ウェービーはそう言っていた。


「モシホの勇者が全滅するなんて」


 ハプーンはどうにも腑に落ちない。モシホに関する歴史と伝承を片端から読み漁る。同時に、世界中からモシホの勇者を呼び出した記録を集める。


「やはりそうだ」


 ハプーンは眉を寄せて頷く。


「怪物が島を襲ったなんて一度もない」


 先ずは、第一の疑問に答えを得た。


「そして、この男」


 次は、現代の記録に目をとめる。


「モシホの力で罪なきものを殺めている」


 勇者として呼び出された先で田舎者と馬鹿にされ、勇者の力を貸したくないと激昂したのだ。そのとき止めに入った善意の人を殺めてしまった。止めたことにも腹を立てたのである。後はその場の人を次々と手にかけながら逃げ去った。


「逃げたのか」


 この男は、まんまと姿を消した。その後モシホに帰ったのかどうかは解らない。名乗る前に暴れたらしく、名前もわからない。


「探すとしよう」


 ハプーンは現地に人を送り、詳しく聞き回らせた。どうやらこの男はウェービーの叔父にあたる人物だ。勇者能力は止活業拳(キリングデイ)。名をストーミーと言った。



 ストーミーの足取りを掴み、ハプーンは捕まえるための作戦を考える。相手は勇者だ。逃げ足も速い。あらゆるパターンを想定しておく必要がある。


 凄惨な記録と、その後モシホ島に訪れた悲劇を思うと、ハプーンは心を騒がせずにはいられない。考えを纏めようとしても、恐ろしい風景が目の前にチラつく。


「落ち着かなくては」



 気持ちを落ち着け集中するとき、この少年がきまってすることがあった。柔らかな布を腰に下げ、片手に塵取り片手にバケツ。背中に背負うは箒ブラシ。頭を布でくるみ、口は三角に畳んだ薄布で覆う。


 辺りに人がいないのを確認し、ハプーンはそそくさと部屋を出る。キョロキョロしながら小走りに移動し、周りに誰もいない場所まで来た。


「今日はここにしよう」


 そこは、日に一度点検と清掃が入るだけの、狭い空き倉庫だった。ハプーンは中に入ると、扉を閉めて一旦バケツを置く。バケツには、僅かな水が汲んである。


 倉庫は既に清掃済みだ。懐に忍ばせてきた柔らかな靴に履き替え、バケツと塵取りを手に脚立を登って高窓に至る。先ずは外を覗いて無人を確認した。バケツと塵取りは、脚立につけた金具にぶら下げる。


 高窓から、上から下まで倉庫の外を見回すと、背中に背負ってきた箒ブラシを徐に手にする。


 反転して扉に顔が向く。ブラシをバケツにバシャンと漬ける。それからアクロバットのように、背中を脚立に預けて箒ブラシを構えると、絶妙な角度で天井に投げる。シューっと天井を走ったブラシを追って、ハプーンは空中に身を投げ出した。


 部屋の中程で箒ブラシの軸を捉え、ハプーンはブラシを軸にくるりと頭を下にする。天井を柔らかな靴底が走る。鮮やかな身のこなしで、大人の男の伸ばした腕を三本分ほど進む。


 壁にブラシが突き当たり、ハプーンはまた弾みをつけて脚立へと戻る。そんなことを繰り返して、正方形に近い四角な天井をすっかり擦り終わった。




 淡い緑色の瞳が、薄暗い倉庫でキラリと光る。今度は腰の布を手にする。深呼吸をすると、天井をじっくりと眺めた。


「よし」


 小さな掛け声と共に、ハプーンは再び天井を走る。今度は四つん這いである。優雅にすら感じる手足の屈伸は、天井を縦横に飛び回る。みるみる天井の艶が増す。


 窓と扉を閉め、空き倉庫を後にしたハプーンは、満足そうな顔をしていた。翌日の担当者が空き倉庫に足を踏み入れた時、いつもより明るく感じた。担当していた2人組の若者が、不思議に思って倉庫を見回す。


「あっ、ピカピカ妖精が出た」

「ついに天井まで磨いてくれたんだなあ」

「お供え持ってこようぜ」

「ばか、ハプーン様に余計なものを置くなって怒られるぞ」

「ええー、でも感謝は大事だぜ」

「黙祷しとこう」

「そうだな」


 2人は心から、姿の見えないピカピカ妖精と呼ばれる存在に感謝した。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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