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塵屑がご縁となりまして、孤島の女勇者は病み上がり王子に嫁ぐ  作者: 黒森 冬炎


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7、後宮の真実

 人工滝から吹く涼やかな風が、ハプーンの赤い髪をさらさらと乱す。ウェービーは心が洗われてゆくような気持ちになった。



「ごめん、聞いてなかった」


 気楽になって正直に言うウェービーに、ハプーンは一瞬柔らかな視線を投げる。ウェービーは居心地が悪くなって目を逸らす。


「ここで、祖父の代には戦争未亡人が手に職をつけようと頑張ってたと言ったのさ」

「ふうん」

「ここは、行き場のない人々のための、難民救済センターだったんだよ」

「へえ」


 反応の薄いウェービーに、ハプーンは少し気を悪くしたようだ。また黙ってしまう。



 モシホ島は小さな島だ。村はひとつしかない。勇者と呼ばれる首長一族は、多少立派な屋敷に住む。だが、島民は固まって住んでいて、皆で助け合って生きていた。


 ウェービーには、戦争未亡人という言葉だけがわかった。戦争は知っている。勇者能力者は良く呼ばれる。未亡人も知っている。姉のサンドラも似たようなものだった。


 しかし、手に職をつけるとか、行き場がないとか、何のことだかわからない。難民も救済もセンターも意味不明だ。ウェービーは、何から聞いたものか思案した。


「センターってなに?」


 考えた挙句、最後に聞いた言葉の意味を聞く。ハプーンは、ウェービーが生返事をしていた理由を知って変な顔をした。


「もしかして、難民も救済も解らないのか?」

「うん。テニショクヲツケルもイキバノナイもわかんない」

「え」


 ハプーンはショックを受ける。


「まさかとは思うが、戦争も?」

「それは知ってる」

「未亡人?」

「解る」

「そうか。ええと、未亡人に住むところが無くなって、食べるためには働かなくちゃいけなくて、祖父がここに住ませてあげて」

「戦争で家が無くなったのか。なんとなくわかった」



 多少認識のずれはあるが、一応伝わる。ハプーンはやる気を出す。


「それで、ここに住む人々の中で織物や刺繍が得意な人を中心にして、貴族に売る手芸品を作ってたんだ」

「そのお金で未亡人たちは暮らしてたのね」


 ウェービーも世の中の仕組みを全く知らないわけではない。他の勇者たちが外から持ち帰る情報もあるのだ。お金というものも知っている。


 理解を進めるウェービーの様子に、ハプーンはやりがいを感じる。


「そう。その通り。それから、貯めたお金でお店を出したり、子供たちに教育を受けさせたり」

「よその国には、遺族年金てのがあると聞いたよ?モリガスキーは自分で稼がせるの?」


 モシホは共同体が助け合う社会だ。モリガスキーのシステムは解らない。


「多少の功労者給付金はあるが、我が国は自主独立を旨とするからな」

「厳しいんだな」

「手に職があれば、この先また戦争が起きた時、国が敗れてもなんとか生きて行けるだろ」

「成る程」


 過保護に育って独り生き残り、途方に暮れていたウェービーは納得した。


「それから?」

「みんなここから旅立って、今ではこの棟は空っぽなんだ」

「誰もいなくなったのか」

「外国の使節団を泊めることもある」


 ウェービーはかなり解ってきたようだ。


「外国からのお客さんを?中は高級なのか」

「宮中のセンターは貴族の未亡人向けだったからな」

「そういうところをセンターって言うのか」


 ウェービーはやっと理解した。


「そう。難民は、住むところもないし生きていくのも難しい人たちだ。平民については、郊外にセンターがあった」

「そこも、もう無いんだ?」

「無いよ。必要無くなったからな」

「良かったね」


 ハプーンは、ウェービーに伝わったことを感じ、達成感に浸る。ウェービーは、ふと振り返る。橋へと続く廊下の出口に、立派な石の板に文字が彫られた看板が掲げられている。


 そこには、格調高い字体で大きく「後宮」と書いてある。



「え?後宮って?今は誰もいないんだよね?」

「いない」

「いなくなる前は、センターだったんだよね?」

「そう」

「じゃあ、センターになる前には後宮だったの?今は他のお妃様たちはどこにいるの?」


 ハプーンは慌てた。


「違うんだ!祖父の間違いなんだ!」

「間違い?」

「祖父は、後宮を難民救済センターのことだと思っていたんだよ」

「えー」

「祖父は、砂漠の文化が大好きでね。真似したんだ。意味は間違っていたけど」

「いや、砂漠の国へ行ったことあるでしょ、お祖父様」


 ウェービーは怪しむ。



「ねえ、お祖父様って、始祖王様でしょ?」

「そうだ」

「海賊王の」

「海賊じゃない。海運業者だった」

「どっちにしろ、砂漠の国に居たことあるでしょ?」

「ある」

「じゃあ、後宮見てきたんじゃないの?」

「普通の人は入れないんだって。とくに男性は立ち入り禁止なんだ」

「なるほどー」


 ウェービーは頷く。


「それで間違えたのに気づかなかったのか」

「そうだ」

「で、いつ間違いが分かったの?」

「いや、それが、最初期の入居者に外国語の専門家がいてさ」

「指摘されたの?」


 ウェービーは呆れる。


「恥ずかしいことに、ずいぶん抗議を受けた」

「住んでる人たち、みんな王妃様だって思われるなんて」

「嫌がる人も多くてね。特に身持ちの硬い未亡人たちがね。亡きご主人に操を立てているのに、って。そりゃもう、大変な剣幕だったそうだ」

「なんでその時にちゃんと直さなかったんだ」

「それは俺も思ってる」


 ウェービーは、碧眼を眇めて溜息を吐く。


「今でもモリガスキー王国は砂漠の文化の真似して後宮を持ってる、って言われてるよ?」

「俺の代になったら、少なくともこの看板は下ろすよ」

「それがいいと思う」


 ウェービーは力強く頷いた。それからハッと気づいて確認する。


「じゃあ、ハプーンは他に奥方はいないんだね」

「いないよ!」


 ハプーンは強く否定する。


お読みくださりありがとうございます

続きます

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