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塵屑がご縁となりまして、孤島の女勇者は病み上がり王子に嫁ぐ  作者: 黒森 冬炎


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6、婚約

 今、モリガスキー海洋王国には戦争もなく、怪物と戦う経験もない。勇者に同行を頼んで海を越える時にも、戦うのは勇者である。その上少し前まで病気で寝たきりだったハプーンにとって、欠片発言は刺激が強すぎた。


「神秘の壁はいつまで持つのかわかんないし」


 しかしウェービーは構わず続ける。


「食糧もいつ尽きるのか予想がつかないし。それどこじゃないっていうか」

「待て、ちょっと待て」


 ハプーンがウェービーの言葉を遮る。


「何?」

「まず、神秘の壁とは?」


 ウェービーは目を丸くする。


「うっ、秘密だったの?ナシナシ、忘れて」


 ハプーンは少し眉を下げる。


「わ、わかった」


 王様も重々しく頷く。勇者の島には、秘密が沢山ありそうだ。モリガスキー国王は、それを暴きたい訳ではなかった。確かにこの縁談は、有利な条件で航海の護りを得る為でもある。しかし、息子の嫁取りに最後の望みをかけているのも本心だった。余計な詮索をして破談になれば後が無い。



「それで、食糧が尽きるとは?食べるものが無いのか?」


 ハプーンが気を取り直して尋ねる。緊張しているせいか硬い口調だ。目付きの鋭さもあいまって、ウェービーは尋問されている心地がする。


「い、いや、うん、そうだけど、別に他所から盗もうとか、そう言うんじゃないしっ!」

「いや、そんな事言ってない」


 焦るウェービーに、ハプーンは憮然として否定する。


「勇者の力は悪用したらバチが当たるんだよ!」

「悪用?」

「だから、しないって」


 ウェービーの力は、使い方によっては怪盗になれる。ウェービーにそんなつもりはないが。ハプーンは王様と顔を見合わせる。


「悪用すると、バチが当たるのか?」


 ハプーンが慎重に口を開く。ウェービーはびくびくしながら答える。


「え、うん」

「どんな?」

「ええっ?知らないよ。バチがあたるからしちゃダメって言われてるだけだし」


 ウェービーはむくれた。ハプーンの口元が緩む。厳しい顔に現れた微かな笑みに、ウェービーはドキンとした。



「モシホ島の勇者ウェービー」

「はい」


 改めて王様に名を呼ばれ、ウェービーは判決を待つ人の顔をする。


「姉サンドラも命を落としたのか?」

「はい」

「そんな時ではあるが」

「はい」

「いや、そんな時だからこそ」

「はい」

「ハプーンとの婚姻、ウェービーどのが受けてはくれぬか?」


 ウェービーは耳を疑う。なんとかスパイの容疑を晴らし、婚姻の相談を持ちかける隙を伺っていたのだ。そこへ相手から婚姻の打診が来た。この機会を逃すわけにはいかない。


「は、はいっ」

「え、良く考えろ?」


 ハプーンは、あまりに素早い返答にたじろぐ。


「考えました!」

「そ、そうか」


 ハプーンは勢い付いたウェービーに圧倒される。ウェービーの瞳が、海の深みを湛えてハプーンの心臓を射抜く。ハプーンは、何だか息苦しくなった。



「結婚はいつ?何したらいいのかな?」


 ウェービーは王様に質問する。王様は話がすぐに決まったので機嫌良く返事をする。


「ウェービーどのは喪中であるし、モシホ島の後片付けもあるだろう。我々も式典準備がある。ウェービーどのにしてもらう準備も多少はあるし」


 王様が脳内カレンダーと睨めっこして、日取りを考える。


「ウェービーどのの能力なら、行き来には問題無さそうだ。大臣とも相談して、日程は後日伝えるというのはどうだろう」


 王様の提案に、ハプーンが希望を追加する。


「こちらからは連絡方法がないから、滞在時間は短くても、なるべく頻繁に顔を出してほしい」

「わかった。いいよ、ハプーン」


 気さくに呼び捨てるウェービーに、ハプーンは少し赤くなる。照れるハプーンを、ウェービーは親しみやすいと感じた。


「う、うん、じゃあ父上、ウェービーどのを案内しても?」

「ああ、めでたいことだ!ゆっくり案内して来い」


 ハプーンは恥ずかしさから逃れるように、宮殿の案内を申し出る。王様に許可も貰って、ハプーンはウェービーのソファに近づく。優雅な動作で手を取られ、ウェービーは立ち上がる。


 王様に続いて観音開きの扉を抜けると、そこで左右に分かれた。王子は、自然な動作でウェービーを真っ直ぐな廊下の奥へと導く。突き当たりを曲がると中庭に面した回廊に出る。三段重ねの噴水が中央に見えた。


 列柱の間から中庭に出て向かい側の回廊を抜け、また何度か曲がると、透き通った水が流れていた。人工の川である。川には、太鼓橋が架かっていた。


 川は階段状に人工の滝となって水盤に注ぎ池を作る。池には葉の広い水草が浮かぶ。池の前には花が植えられ、その手前には芝生が生えていた。


 橋を渡ると、池のある庭に面してドアがずらりと並んでいる。宮殿の別棟にしては粗末だが、下人の住居には豪華すぎる。一体ここは何だろう、とウェービーは興味深く観察した。



「祖父の代には、行き場のない戦争未亡人達が、ここで暮らしていた」


 ハプーンは、何の前触れもなく話し始めた。


「ふっ、えっ、え?」


 突然の解説に、ウェービーは反応が遅れた。間抜けな顔でハプーンを見上げる。日焼けした顔を縁取る銀の巻き毛に、宝石飾りのように太陽が煌めく。ハプーンは身に纏う空気をふっと緩めた。

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