表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
塵屑がご縁となりまして、孤島の女勇者は病み上がり王子に嫁ぐ  作者: 黒森 冬炎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/15

5、顔合わせ

 次の日、予定通りウェービーはハプーンの元へ行く。前日、捕縛されそうになって逃げ帰ったことなど気にしない。


「みんなに尊敬されていたサンドラ姉様みたいに振る舞えば、多分断られたりはしないでしょ」


 相変わらずおおらかな考え方で、ウェービーは、モシホ島の正装を身につける。いつでも怪物と戦えるように装身具や垂れ下がる帯はない。なるべくシンプルで動きやすいデザインになっている。


 だが、いかに勇者の島モシホといえども外交の場で戦意を見せるのはタブーだ。粗い手袋や重たいブーツの代わりに、正装では肘までのしなやかな革手袋を身につける。脚には、焼きゴテで繊細な幾何学模様を飾った、ぴったりとした膝丈ブーツを穿く。


 装身具をつけない代わりに、複雑な織りと染めが華やかな布地を使う。ストンとした細身のシルエットは、モシホ島特産の植物から採れる上質な布ならではのデザインだ。硬い布なら動きにくいだろう。


「あとは髪か。確か捻って纏めて、ぐるぐる頭に巻いて、線彫で飾った金属で留めて、出来た。上々かな」


 鏡に映るのは、伸び伸び遊び掃除に明け暮れるミソッカスには見えない。上品で自信の覗く首長の娘の姿である。


「いけんじゃね?」


 言葉がダメである。勇者の島は荒っぽいので、海外の人でも来ない限りは、みな対等に乱暴な言葉を使っていた。だが、その辺もある程度は記憶を探りつつ対処出来るだろうとの心づもりだ。



 掃溜女神(クズサーチ)で跳んだ時、ハプーンは鍛錬に励んでいた。あやうくウェービーはノックダウンされるところであった。物理的にも、視覚的にも。


 この国の人は、鍛錬を半裸で行うようだ。ハプーンは、病み上がりながらうっすらと筋肉がつき始めている。浅黒い肌に汗が散り、危うい美しさを持つ体つきであった。


 ウェービーは、厳しい戦いに備えて厚着で鍛錬するモシホ島の民しか知らない。半裸の男性など初めて見たのだ。驚きのあまり、クズサーチも発動出来ず棒立ちである。



「何者だ!殿下!お下がりを!」

「はあっ?こっちが倒されそうだったんですけどー?」

「こやつ、どうやって現れた!」


 周囲の部下たちが、慌てて2人の間に割って入る。彼らはハプーンと違って屈強の男たちである。


「俺の名前でも呼んだんじゃないのか?」


 ハプーンは嬉しそうに言った。ウェービーは、ハプーンが何故嬉しそうなのか不審に思う。


「そうだよ」


 とりあえず答えたウェービーに、また屈強な男たちが迫る。


「何だと?」

「貴様」

「まあまあ、お前たちさがれ」


 ハプーンは部下たちを下がらせると、訓練場の入口にいた番兵を呼ぶ。


「この方を1番良い応接室にお通しして」

「はっ!」

「おっ、話聞いてくれんだね。ありがとう」

「いえ、どういたしまして。着替えたらすぐ行く」



 ハプーンの態度は昨日とあまりにも違う。油断させて島の秘術を聞き出すつもりか。しかし、ウェービーは何も知らない。よもやスパイとして処刑されるのではあるまいか。ウェービーは様々に警戒しつつも、大人しく案内人に従う。


 金ピカの天井が目に痛い応接室が、白い観音開きの大扉の向こうに広がっていた。壁と応接セットは同じ鮮やかな空色で揃えられている。床は剥き出しの大理石で、顔が映るほどに磨き上げられていた。


 巨大な水晶飾りが煌めく吊り燭台は、昼間ゆえ灯は入っていない。天井から三つ、直線状に等間隔で下がっている。天井から飾りの1番低いところまでの長さは、ひとつひとつが大男の身長ほどもありそうだ。細長く切り取られて壁面に並ぶ窓から注ぐ太陽が、虹色の光の粒となって水晶に反射する。


 壁を彩る織物は、始祖の船旅が勇壮なタッチで表現された物だった。素朴な内装のモシホ島首長邸とは、驚くほどに違う空間だ。ウェービーは、促されるままに大きなソファに腰を下ろす。



 キビキビした動作で応接室に入ってきたハプーンは、所在無げに座っているウェービーを真っ直ぐに見た。ハプーンの目つきは鋭い。垂れ目の人特有の凄みのある眼光だ。


 ウェービーは思わず立ち上がる。目の端に自分の正装である高級なモシホ布が映る。直線的な動きをしてしまい、正装の効果が半減したと後悔する。


 垂れ目を薮睨み気味に細めたハプーンの隣に、似たような顔立ちの中年男性が居た。


「お、王様?」


 ウェービーは脳味噌をフル回転させて優雅な礼をひとつする。




 モリガスキー海洋王国の現国王は、片手でウェービーに座るように合図する。ウェービーは、何が起こるのかと落ち着かない気持ちでソファに収まった。


「モシホ島の勇者ウェービー」


 王様が厳かに言う。


「はい」


 ウェービーはピッと背筋を伸ばす。


「モシホ島が全滅したとは誠か」

「誠です」

「辛かったであろう」

「そう、ですかね?」


 ウェービーの曖昧な言葉に、ハプーンがぎっと睨む。


「正直、まだ実感無いんだよね」


 ウェービーは早速言葉遣いが乱れる。


「やっと死体の欠片を焼き終わったところだし」

「なんと、欠片?」


 王様は腰を浮かす。ウェービーは首をこくんと振って、繰り返す。


「欠片」

「欠片か」


 ハプーンは眉を顰める。


お読みくださりありがとうございます

続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クリック→ 共通恋愛プロット企画概要
↓作品の検索はこちらをクリック
共通恋愛プロット企画
― 新着の感想 ―
[良い点] ウェービーが荒々しくて、そこが可愛いです。 クズサーチの能力、意外にすごい。 王子とこの後どういう感じで距離を詰めていくかも楽しみです♪ [気になる点] 海の怪物はどうなるのか? 倒すの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ