3、ハプーンと後宮
毎日7時と19時の2回ずつ更新、最終回は6/17 7:00です
不思議な力を持つモシホ島の勇者が全滅したと聞いても、おいそれとは信じられない。美しい声を持つ赤毛の少年は、きつい口調で衛兵に命ずる。
「怪しい奴め。やはり牢にぶち込んでおけ」
「ちょっと!風で飛んじゃったけど、婚姻申込書だってあるんだからね!」
「婚姻申込書だと?だから何だ?今そんなことは関係ねぇだろうが」
「父さん宛ての。姉様と、ハプーン・デ・モリガスキー王子の」
「あるのか」
「ある」
「見せてみろ」
「風で飛ばされたって言ってるでしょう?」
三つ編み少年はぎりりと睨む。
「無いんだな。どこでその縁組を聞いたかは知らないが」
「あなたに関係ないでしょ」
「ふてぶてしい奴め」
「だいたいあなた誰?あたいだけ名前言ってんだけど」
ウェービーは胡乱な眼を向ける。
「随分と立派な格好してんじゃないの?どっかで見た服装だよね。どこの国?」
「とぼけやがって。もういい、衛兵、牢へ」
「横暴な奴だなぁ!ええい、モシホ島首長ハウス、掃溜女神」
ウェービーは一瞬で家に戻る。初めてクズサーチがその真価を発揮した。
突然ぶつかってきた勇者を名乗る少女が、今度は急に消えた。冗談のような特殊能力が発動したとしか考えられない。ハプーンは心底驚く。
「なっ?本当に移動能力の勇者なのか?いや、それにしても指定した地点のゴミクズに跳ぶって。なんと便利な能力なのだろうか!」
ハプーンは興奮する。
「素晴らしい!一族全滅は気になるが、それが本当にしろ嘘にしろ、体内から刃物を無限に出す女性より、ずっと望ましい女性じゃないか!父上に急ぎ相談しよう」
ハプーンはすぐに現王に事情を説明した。
「ハプーン、しかし帰られてしまっては、どうしようもないではないか」
「ですから、すぐにウェービーどのへの婚姻申込書を送っていただきたいのです」
「どうやって送るのだ。船は勿論、伝書の鳥もトアミ海には出られぬというのに」
「前の申込はどのようになさったのですか」
「定期便を使ったのだ」
「では、此度も」
王はため息をつく。
「残念ながら、定期便は年に一度だ。次回はサンドラどのへの婚姻申込書に対する返書がくるはずだ」
「それまで待てと?」
「そんな使いづらい能力より、サンドラどのの夢幻剣聖のほうが良いに決まっている」
王の意見は尤もである。だが、ハプーンは引き下がらない。独自の価値観で熱弁を振るう。
「能力も素晴らしいですが、誤って跳ばされたというのに、あの落ち着き様。只者ではありません。父上、なんとかなりますまいか?」
「姉のために様子を見にきたのかも知れぬぞ」
ハプーンはハッとする。婚姻申込書で名前を知っていたのだ。ハプーンの名前を目標地点として宣言すれば、跳んで来られるのは明らかだと少年は思った。人間を目標地点にする事を、今までウェービーは思い付きもしなかったのだが。
「なんと姉思いな!ますます気に入りました」
「スパイかも知れぬよ?」
「姉の嫁ぎ先は同盟国なのに?」
「サンドラ姫のように、不慮の事故で婚約者を失い一族の掟通り長年喪に服していたのならともかく、お主は一度も婚約せずに18だ。女性を拒む何かがある、と怪しまれて当然なのではないか?」
ハプーンは苦い顔をする。
「むしろ真逆の悪評を聞きますが?後宮に足繁く通っているとか、あらぬ噂を呼んでいるそうです」
「勇者の一族なら、海を越えて聞き及んでもおかしくはあるまい」
「ほら!ですから、名称を変えようと言うのですよ」
「亡き父上のつけた歴史ある名称だ」
「それ、お祖父様が意味を間違えてたのを、認めたくないだけですよね」
王は傲然と微笑んだ。
「誤魔化さないで下さい」
「誤魔化してなどいない」
王が強情を張るので、ハプーンは淡々と主張する。
「後宮って、砂漠の国で王様がたくさんの奥さんを住まわせるところでしょ?お祖父様は、この奥さんて意味の単語を既婚夫人一般という意味だって思ってたけど、本当は王様の妻という意味だそうじゃありませんか」
「些細なことじゃ」
「そんな!入居者からだいぶ抗議がきたんですよ!戦争未亡人の支援施設にそんな破廉恥な名前をつけるなんて」
「砂漠の文化は、我々とは違う。後宮は破廉恥な施設ではないのだぞ」
王に嗜められ、ハプーンは反省する。
「文化を悪く言った形になったのは気をつけます。ですが、我が国にはない文化です。そして」
ハプーンは、一拍置いてもう一度発言した。
「誤訳ですよね?直さないのは恥ですし、砂漠の国にある文化にも失礼だと思いますよ」
「そう簡単には変えられぬ」
「間違ってることを認めたくないだけですよね」
「そうではない」
「せっかく病気が治ったのに、へんな噂のせいで破談になったら父上だって困るでしょうに」
ハプーンは幼少時から、つい数年前に治療法か確立された難しい病を患っていた。そのために婚約者がいなかったのである。しかし、病気がすっかり治り、空席になっていた王太子にも選ばれた。
「そもそも、とっくに閉鎖されてるじゃないですか。跡地をどう使うか検討しに行ってるだけなのに、名前のせいで俺が父上の後宮に通ってるみたいになってんでしょ」
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