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11、罪人ストーミー

 2人は不敵な笑みを交わす。ウェービーの鼓動が走り出す。ハプーンの胸は燃え上がる。


 ときめく心をひた隠しにして、ハプーンは考える。


(彼女は崇高な使命のためにこの婚姻に臨むのだ。うわついた恋心など、迷惑に相違ない)


 ウェービーも同じことを考えていた。


(彼は後継者としての責任を果たすために、この結婚をするんだ。地に足のつかない恋心なんて、煩いだけに違いない)


 2人とも違う。



 ハプーンは細い身体でしっかりと立つウェービーの、健康的な佇まいを心の内で愛でる。


(こんな小さな身体で、勇者の定めを背負っている。俺は俺の責任を果たし、気高いウェービーを支えて行こう)


 ウェービーは、ハプーンの赤毛が映える浅黒い肌に生命の躍動を感じる。病の床から諦めず起き上がり走り出す姿に、心密かに憧れる。


(なんと強い心だろうか。この人の意志の強さは惚れ惚れする。この人と共に在れば、私も真っ直ぐ迷わない)



 ふたりの視線は力強く出会う。しっかりと心が寄り添うが、互いに自分だけの想いだと感じる。この直向きな人を惑わせてはいけない。慕う想いは心のうちに沈めておこう。そう考えて、お互いの気持ちを知らずに遠慮する。


 ふたりの熱は静かに育つ。だが今は、神の怒りを呼んだ堕落した勇者の捕縛が先だ。



 馬を連ねてハプーンの一行がストーミーの潜伏先へと向かう。他国ではあるが、案外近い場所にいた。幾つもの小国が隣り合うサンサ湾沿いに1週間ほど旅をして、難なく罪人を見つけ出す。


「なっ、ゴミ勇者」

「なにをっ」


 憤りを見せたのはハプーンである。自他共に認める役立たずだったウェービーは、能力の蔑称に怒って貰って勇気を得た。


「ゴミは叔父様だっ」

「何言ってやがる、役立たずが」

「モシホ勇者の(おさ)として、貴様に引導を渡してやる!」


 背後にモリガスキー王国の精鋭を従えて、ウェービーは堂々と立つ。


「長だぁ?何寝ぼけたこと言ってやがんだよぅ」


 ストーミーは嘲笑う。ハプーンは槍を握る手に力を籠める。鉤手に曲がる小型の鋸刃を穂先の少し下方に付けた鍵槍(かぎやり)を構えて、今にもストーミーに飛びかからんばかりの形相を見せる。



 ハプーンとその精鋭部隊を背に控え、ウェービーはもう恐れない。


「勇者の力で無垢なる民を殺めるとは、言語道断。そのせいで、海の怪物が島を襲ったんだ!」

「はーあ?俺のせいじゃねぇよ」

「勇者の力は、人を守るために双柱の神より預かりし神通力。ひとりが愚かな裏切りをすれば、神の守りは島の民から奪われる」

「知らねぇな」

「やましい所がないならば、なんで島に帰らない」

「勇者なんぞやってられっか」

「バチ当たりめが。覚悟しなっ」

「ゴミの癖にイキがるんじゃねぇぞ。クズアマが」



 ウェービーは、拳を握り肘を引き腰を落とす。彼女はモシホ拳の基本技しか使えない。それも記憶を基に独りで学んだもの。モシホ拳は、勇者一族を慕って住み着いた島の民が編み出した武術だ。神からの贈り物ではない。だから、秘術を受け継いでも急に達人にはなれない。


 相手は、宣言した対象者の命を止めるという、業の深い拳を放つ勇者能力を持っている。真正面から闘えば、ウェービーなど一捻りだ。ハプーンは後ろに体重をずらして、いつでも助太刀出来るように呼吸を整える。


「は、身の程知らずめ。止活業拳(キリングデイ)、ウェービー」

「ウェービーどのっ」


 咄嗟に前に出たハプーンの眼が、恐怖に見開くストーミーの瞳を捉えた。


「え?」


 ハプーンは思わず戸惑いの声を漏らす。ストーミーは焦燥の叫びを上げる。


「なんだっ?」


 ハプーンの突き出す槍は交わしたものの、ストーミーの必殺拳はウェービーに届かない。



「馬鹿め。言ったろ?裏切り者に勇者の力は無いんだよ」

「クソッ、発動しねぇ」

「ふん。あたいは首長だしね!」


 モシホの首長は、神秘の壁を自在に作り出せるのだ。自分の周りにも。神秘の壁は、勇者能力すら消しとばす。ストーミーが万全であっても、首長の敵ではない。


「認めねぇぞ!」


 ストーミーは腰のナイフを抜いて踊りかかる。ハプーンは、鋸刃の付いた鉤でナイフを引っ掛け押し返し、ギザギザの鋸をストーミーの鼻先に突きつけた。怯んで隙を見せたストーミーの腕を捻り上げ、縄をかける。



「父様は、叔父様からの知らせを待ってたんだ」


 ウェービーは、絞り出すように言葉を紡ぐ。


「叔父様を信じて、待っていたんだ」


 怒りに燃える海の眼が、裏切り者を焼き尽くす。その迫力にストーミーは、先ほどまでの勢いを失くした。


「まさか本当にあんな残虐なことをした挙句、島も勇者の使命も捨てたなんて、思いもしなかったんだ」


 悔しさにウェービーの吐く息が熱くなる。



「それだけで、叔父様の非道を知りながら見逃したって神様からは思われたんだよ」


 槍でストーミーの背中を押さえつけながら、ハプーンは痛ましそうにウェービーを見た。


「叔父さんの事件を知らない島民に罪はないから、島の守りは残ったものの、襲撃の時には父様の力は何もなくなり、神秘の壁も使えなかった」


お読みくださりありがとうございます

続きます

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