表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

現世と黄泉の狭間 〜カセットテープの苦悩〜

作者: 矢本多和

 ここは現世(げんせ)黄泉(よみ)の狭間。


 いつものように、何を見るでもなくただ遠くをボーっと眺めていると、懐かしい顔を見つけた。




「よお。お前も来たか。……CD」


 俺の視線の先にいる彼は、ゆっくりとした足取りで俺の元までやってくる。

 久しぶりに会った彼は、俺の記憶の中の彼よりも幾分くたびれた顔をしていた。


「お久しぶりです。カセットテープさん」


 彼はCD。俺はカセットテープ。

 ともに音楽を録音し、再生できる道具として人間達に親しまれてきたというのに。



「まさかお前がここにやってくるとはな」


「仕方ないですよ。今は()()()()の時代ですから」


 CDは自嘲的に笑った。




「――そういえば、MDの奴の姿が見当たらないのですが」


 俺は目を閉じて、彼の言うMDの最後の姿を思い出しながら、後方にある崖を指差す。


「あいつなら、もう()ったよ」


 俺の言葉を聞くや否や、CDは崖の淵まで駆けていった。

 そしてがっくりと膝から崩れ落ちた。


「そんな。MD……ッ!

 MDぃぃぃーーーーッ!」


 崖下に向かって叫ぶCDの姿があまりにも憐れで、どうにもたまらなくなった俺は、再び遠くに視線を移した。

 するとそこには、何やら揉めている二つの影があった。




「どこに行くんだ? インスタントカメラ」


「離してくれ、フィルムケース。呼ばれたんだ」


「お前――まさか!?」


「ああ。最近若い女の子の間で、再びインスタントカメラが流行っているらしいんだ」


 それを聞き、フィルムケースは初めこそ目を丸くするだけだったが、次第にその目を輝かせ始めた。


「カメラがまた流行っているなら、俺の出番もあるってことだよな!?」




 不意に訪れた好機を逃すまいと息巻くフィルムケース。

 一方で、インスタントカメラはバツが悪そうに俯いていた。


「……すまない」


 彼の言葉の意味を察したフィルムケースは、先程の恍惚とした表情から一転して、青ざめた顔で叫ぶ。

 

「――そんな! 嘘だと言ってくれ!」


「……すまない……すまない……ッ!」


「うっ……あぁ……うわぁぁぁぁッ!」


 泣き叫ぶフィルムケースを背に、インスタントカメラはこちらを振り返ることなく走り去っていった。




 ここは現世と黄泉の狭間。

 俺の後ろの崖の下は黄泉の国に繋がっている。

 意を決して飛び降りてしまえば、もしかしたら楽になれるのかもしれない。


 それでも、俺が未だに未練がましく、この狭間で悪戯に時を過ごしているのはきっと――。

 ああやって再び呼ばれるのを待っているんだろうな。



挿絵(By みてみん)

FA提供:あさぎ かな様

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 今までにないユニークな物語です。 私、カメラ好きですよ。 フィルムは父が趣味です。 そして、カセットテープは安いと思って買ったラジカセがカセットテープでしか録音できなかったので使ってます(*…
[良い点] 斬新、その一言に尽きます。 こういうお話は、私には絶対に思いつかない。 ぜひとも、広く啓蒙したい作品です。 [一言] それぞれのメディアがああだこうだしている様子を想像すると、失礼、少し…
[良い点] 初めまして。拝読致しました。 正直、流行から外れた者達を登場人物にする手法に驚かされました。 他の方もおっしゃってますが、 登場人物の方々に失礼ながら思いっきり笑ってしまいました。 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ