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高校生カップルの青春の1ページに可能な限りの下ネタをぶちこんでみた話

高校2年生、夏のある日の日曜日。


「期末に向けて私の家で勉強をしましょう、中田君」


江口さんから電話でそう言われた時は心が躍った。


自分の部屋の中でひとりガッツポーズした。


人生初の彼女ができたのがつい先週の出来事。


クラスで男子たちからの人気を密かに集める江口さんに、ダメ元で告白してみたらまさかのオッケーがもらえて。


あれよあれよという間に彼女の家にお呼ばれだ。


初デートもまだなのにいきなり部屋に呼ばれるって……。


これで喜ばない男子高校生ってこの世の中にいる!?


女の子の家に行くの日和るやついる!?


いねえよなあ!?






という脳内決起会を終えた俺は

7月の絶好調の熱さも思わず忘れてしまうほどのウキウキ気分で、

自転車を30分ほどコギコギして江口さんから教えてもらったマンションの前にいた。


「結構いいとこ住んでるんだな……」


上を見上げる。


新築、とまでは言わないが外装はかなり綺麗で、

高さもなかなかのもだ。


そもそもこのへんがそこそこ好立地な住宅地なのだから、やはり彼女はいいところのお嬢さんなのだろう。


そんなことを考えながらLINEに書いてあった部屋番号の903を打ち込んでインターフォンを鳴らすと


「どうぞ」


の一言とともに眼前の自動ドアが開いた。


どうぞの3文字はそっけないような声色だったが、

これでも彼女は決して怒っているわけではないことを俺はこの1週間でそれなりに学んでいる。


クールビューティー。ミステリアス。


本当にそんな言葉がぴったりで、彼女を説明するのにこれほど適切な言葉もないだろう。


深窓の令嬢を思わせる。

なんて表現では少し詩的すぎるのかもしれないが、

あながち間違いでもないようなどこか不思議な魅力を持っている人だ。



エレベーターで9階まで上がり、3号室のインターフォンを鳴らすと江口さんがやってくる。


「外、熱かったでしょう。クーラー効かせてあるから」


そう言って玄関から部屋へと歩いていく江口さん。


両親と色々あって1人暮らししているとは聞いていたけど……。


「どうしたの?早く上がりなさい」


「あ、あぁ、ごめん……」


そう、彼女は一人暮らし。


つまり今この瞬間この場所には若い男女が2人きり……。


思わずショルダーバッグの中に入っているサガミオリジナルのことを考えてしまう。


誰が見ているかわからないから、購入するときにわざわざ隣町のドラッグストアまで行って買ったものだ。


大丈夫、落ち着け、落ち着くんだ中田氏男(なかたうじお)……。


まだその時ではない、冷静になれ。


万が一の童貞卒業に備え、勇気を振り絞ってコンドームを買ってはいるが

今日ここに来たのはそれだけが目的ではないはずだ。


そう、清く正しい男女交際の一貫として、あくまでここへは勉強をしにやってきただけ……。


ん、勉強?


待てよ、彼女はなんといっていた?


『期末試験に向けて勉強をしましょう中田君……』


脳内で彼女の言葉が響き渡る。


そうだ確かに彼女はそう言っていた。


しかしこれが綿密に計算された言外の意味を含んでいるとしたら……?


『期末試験に向けて勉強(性教育・実技)をしましょう中田君……』


「そういうことだったのかあああああぁぁ!!!」


「急にどうしたの?外が暑すぎて頭おかしくなったのかしら?」


「はっ!?ご、ごめん……」


待て!落ち着け!

落ち着くんだ中田氏男(なかたうじお)……。


そんなわけがない、今のはさすがに飛躍しすぎた思考だ。


相手はあの江口さんだぞ、休み時間には机に向かって綺麗な横顔を覗かせながら読書に勤しむ可憐な女子だ。


なぜだか出てきた唾液をゴクリと飲み込み、俺は部屋へと入る。




殺風景、とまでは言わないが女子の部屋にしては私物が少ないのではないだろうかと思わせる。


中央にテーブル、部屋の隅に本棚、それから机とノートPC、ベッド。


「お茶入れてくるから適当に座ってていいわよ」


「ぁ、ァリがと……」


若干声が裏返る。


一昔前のギャルっぽい発声になりながら俺が中央のテーブルの前に腰掛けると、

ほどなくして江口さんがグラスに注がれたお茶とともに俺の対面に座った。


「結構汗かいてるみたいだけど大丈夫?はいどうぞ。氷少なかったらごめんなさいね」


「ありがとう」


冷たいグラスを持ち上げ中の麦茶を一気に飲み干す。


それを見た江口さんが目の前で再びお茶をなみなみと注いでいった。


「……」

「……」


ワンルームの一室をエアコンの稼働音だけが機械的に流れていく。


対面の江口さんの方に一瞬目線を移すと涼しげな表情で俺をじっと見ていた。


「……」

「……」


……どうすんだよこの空気。


完全に沈黙してるじゃねえか!


そうだ。こういうときはやはり男の方から何か気の利いた話題を……。


「あー、ほんっと最近熱くなってきたよな。外なんてセミがミンミン鳴いてるしさ……」


「……」


江口さんの表情はいつも教室で見るものと特に変わらず、そこにあるのは無だった。


無でありながらも恐ろしく整っているその容姿、綺麗な2つの瞳が俺を見つめている。



「も、もうすぐ夏休みだよな!」


「そうね」


「……夏休みっていえばさ!

子供のころの夏休みってすげー楽しかったよな!

江口さんはどんな風に過ごしてた?」


「読書と宿題かしら」


「へ、へぇ~、あぁ俺?

俺は外で遊んでばっかりだったかな!

川に行ってザリガニ捕まえたりとかさ……」


……頑張るんだ俺、会話を繋ぐんだ!


そうだ!


ここはひとつ知的な話題を出して俺の博識ぶりを江口さんにアピールするんだ!



「そうそうザリガニといえばさ、

中国にはザリガニ鑑定士っていう資格があってね、

その資格をとると年収が800万ももらえるんだよ」


「……そう」


「……そのザリガニ鑑定士の資格を取るためには条件が3つあってさ、1つ目がザリガニ1匹を3秒以内に剥けることで」


「……」


「ふ、2つ目はそのザリガニを見ただけで食用かどうかを判断することができることなんだけどさ、3つ目はなんだと思う?」


「さあ、なにかしら」


「3つ目は1回の食事でザリガニを5kg以上食べることができることなんだ!」


……さあどうだ?


ここまで無表情を貫いてきた江口さんだがさすがにこれにはツッコまざるを得ないだろう!


そもそもザリガニ鑑定士ってなに?名前が草wとか


年収800万は高すぎるだろ!とか


鑑定士なのに3つ目の条件ほとんど大食いじゃねえか、誰が1日にザリガニ5㎏食べるんや絶滅するわ!とか。


ちなみにこの話は俺が考えた虚構でも何でもなく本当に中国にある資格の一つだ。


ってそんなことはどうでもいいから、その無表情を打ち崩すリアクションを取ってくれ!


そんな一縷の望みにかけて恐る恐る江口さんの表情を見やる。


「……」

「……」


そこにあるのは無と沈黙と、なんともいえずに流れていく空気だけだった。


くっ……。


俺の中の渾身のネタの1つであるザリガニ鑑定士の話題を使っても無反応だと……。


一体どうすればいいんだ、何を話せばいい?


このままじゃ童貞卒業どころじゃないぞ。


何かないのか?このなんともいえない微妙な空気を破壊する、江口さんの好きそうな話題は……。


「……お茶菓子を忘れていたわ」


沈黙を破ったのは江口さんのそんな一言だった。


「あ、あぁ……お気遣いなく」


咄嗟にそう返答すると、江口さんはお茶を持ってきたときと同じように、冷蔵庫とキッチンのある扉の向こうへと姿を消した。


次に扉が開くとそこには荷物入れのような大きなカゴを持った江口さんが立っていた。


中にお茶受けのお菓子たちが入っているのだろうか、それにしてはあまりにも入れ物が大きいけど……。


「どうぞ」


そう言って江口さんはカゴの中から綺麗に舗装された菓子箱を取り出してテーブルの上に置いた。


そのパッケージの名前を見て俺の脳内にまるで電流のような衝撃が走る。


「江口さん……これはっ……!」


「〝ちんすこう〟ね。

この間バイト先の先輩が沖縄旅行に行ったからもらったの。嫌いだったかしら〝ちんすこう〟」


「い、いや……嫌いじゃないよ、好きだよ、ありがとう……」


落ち着くんだ中田氏男……これは沖縄の鉄板お土産お菓子の代表〝ちんすこう〟だ。


それ以上でもそれ以下でもない、決してチ○コを吸っているわけじゃないっ……。


「……ほかにもあるわよ。

これなんてどうかしら?〝おしゃぶりこんぶ〟」



吸っちゃったああああああああああああああ!!!!


おしゃぶりしちゃったよ!


どうすんだよこれ!


2つのパッケージ並べたら字面的にはち〇こしゃぶっちゃってるよ!


「そうそう駄菓子といえばこれも美味しいのよね……〝フエラムネ〟のぶどう味」


フ〇ラしちゃったあああああああああぁああ!!!!


どうすんだよ!

おしゃぶりなんて生易しい表現じゃないよこれ!


まんまだよ!フエラムネだよ!


○ェラした上にさらにそこには胸があるんだよ!


実質パイズリじゃねえかよそんなの!


「まあでもやっぱりこれが一番人気なのよね……

〝うまい棒〟」


棒がうめええええええええええええぇえええ!!!!


ち〇こおしゃぶりフ〇ラして美味いってもう痴女じゃねえかよ!!!


一連の流れ完璧すぎるだろ!

プロの犯行だよそれ!


もういい加減にしないと発射しちゃうよちん〇!!



ガサゴソと音を立て、カゴの中から次々と江口さんがお菓子を取り出していく。



「後は……〝ホワイトロリータ〟に〝おまんじゅう〟……それから〝甘栗むいちゃいました〟」


おいいいいっ!棒の次はロリ出てきちゃったよ!!


ロリのマンのクリ剥いちゃったよ!


もうロリがイっちゃうよっ!!!


俺の脳内で肌の白い幼女が


「ダ、ダめっ……♡むいちゃらめえぇえええええええええっ♡」


と嬌声を上げながら乱れていく映像が流れていく。


「中田くん……?どうかしたのかしら?なんだか遠い目をしているようだけど……」


「だっ、大丈夫!なんでもないよ!?」


江口さんの一言で意識がロリから現実へと引き戻されていく。


テーブルの上には江口さんがカゴから取り出してきたお菓子が所せましと並んでいた。


落ち着け、落ち着くんだ中田氏男……。


たしかに一見するとどこか卑猥な字面のパッケージが並んでいるが、

それを卑猥に感じ取ってしまう俺の汚れた心こそがすべての元凶なのだ。


これを用意した江口さんは、あくまで来客をもてなすためにお茶菓子を提供してくれているだけで、そこに他意なんてないのだから。


……ふと机の上の江口さんのPCが目に入る。


「俺PCゲーするから家ではデスクトップ使ってるんだけど……江口さんはノート使ってるんだね」


それは本当に何気ない一言だった。


このお菓子な空気を変えるに相応しい、日常の一コマを演出するのにこれ以上ない会話のとっかかり……。


「私……家ではノーパソなの、ベッドに横になったりしながら使ったりしたいときもあるから」


惜しい!!!惜しすぎるっ!


たった1文字の違いなのに残念ながらはいてるよ!!!


日本語ってすげえよっ……!


俺が日本語のあまりの奥ゆかしさに感動していると


「そういえば江口くんは何の教科が苦手なのかしら」


と江口さんから質問が飛んでくる。


よかった……。ようやくこの変な空気と会話が終わりそうだ……。


勉強の会話にスケベな要素なんて入りようが……ない!!!


「んー、しいていうなら英語かな」


「そう……英語……私は得意教科だから教えてあげられるわね」


「頼りにしてるよ、学年の中でも毎回トップだもんな江口さんは……」


そうなのである。


順位が発表されるテストでは毎回のように掲示板の上の方に

江口満子《えぐちみちこ》と張り出されているから俺はそれをよく知っている。


才色兼備という言葉がまさに相応しい。


そんな人が彼女である俺は学校の男の中でもかなりの勝ち組に違いない。


「じゃあちょっとした問題を出すわね」


「ん?おう」


「箱は英語でなんていうのかしら」


急にどうしたんだ?箱を英語で、ええと……。


「……ボックス?」


「じゃあ靴下」


「……ソックス?」


「数字の6」


「シックス」


落ち着け落ち着くんだ中田氏男……!これは英語の勉強だ!


たまたまッとクスが回答についているだけでそこには深い意味なんてない!



「アルファベットのwの次は?」


「……エックス」


「劣等感」


「コンプレックス」


「とある魔術の……なんだったかしら」


「インデックス」


「無線通信のすっごい速いやつ」


「……ワイマックス」


「あのディ〇ズニーの……ええと……」


「ベイマッ〇クス?」


「1840年にベルギーで発明された、吹奏楽においてはトランペットと並んで花形楽器の1つとされる楽器の……」


「サックス……」


「中田くん」


そう俺の名前を呼ぶと同時に、対面に座っている江口さんはグイとこちらに顔を近づけてくる。


1つ1つが整いすぎている顔のパーツが主張されて。


肌のきめ細かさが手に取るように分かり、息遣いまでもがこちらに伝わる距離。


その距離感に、彼女の瞳を直視できない俺の視線は口元にあるほくろへと釘付けになる。


そして江口さんは口元に笑みを浮かべて、艶っぽい表情で囁くように一言


「私が今いちばんシたいこと……なーんだ?」


……っこ、この流れは!?


これは間違いないだろう!今までの会話を参照すれば答えは明白じゃないか!


わざわざ隣町までブツを買いに行って準備をしていてよかった……。


ついに、ついに!この日が来たのだ……。



言うんだ!勇気を振り絞れ中田氏男!


たったのカタカナ4文字!そこにゴールはある!!!


童貞を!

卒業するんだあああああああぁああああぁああ!!!



「セッーー」


「答えはスタディーよ。さあ勉強をしましょう中田くん」


「そうだよね。さあ勉強をしよう」






このあとめちゃくちゃ勉強した。
















ご拝読いただきありがとうございました。


もしクスッと笑えたり

少しでも面白いと思っていただけたら

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― 新着の感想 ―
[一言] 江口という名前にエロって入ってると思ったのは俺だけじゃ無いはず…
[一言] オチはそうだろうと思いましたが、流れが最高に良かった(笑) 世の中は「そういう」モノが満ち溢れている!!
[良い点] このあとめちゃくちゃ勉強した の終わり方 笑いました。 こういう話が20年以上も前からずっと面白い、男はいつだって少年のまま。 [一言] 中学生の頃に盛り上がってたネタが盛りだくさんで、 …
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