くいしんぼうのエリック
遥彼方様主催の『イラストから物語企画』第4弾です。
青の世界の満月の夜、湖から身体が七色に輝く巨大な女性『グウレイア』が満月をながめていました。グウレイアは身体が水でできていて、優しさと美しさをかねそなえた女神で、あらゆる生き物から『水の女王』と親しまれています。
(ふふっ…、とてもきれいでかわいいまん丸お月さまね…。!…あら…、葉っぱの上にのっているのは何かしら?)
葉っぱの上の何かに気づいたグウレイアがしらべてみると、丸い何かがありました。
(!…これは…、生き物の卵ね…。)
グウレイアはある生き物の卵と認識しました。
一夜明け、太陽が昇りました。青い肌のグウレイアが卵のあった葉っぱの上を見てみると、卵からかえったばかりのいもむしがいました。
「うふふ…、とってもかわいい生き物ね…。わたしは水の女王グウレイア、あなたは?」
グウレイアはうまれたばかりのいもむしにあいさつをしました。
「ぼくはいもむしの『エリック』なんだ。お姉さん、ぼく、おなかがすいてるんだ。何か食べ物はない?」
いもむしはエリックと名乗り、グウレイアに食べ物がないかたずねました。
「ごめんなさい…。わたし…、食べ物を持ってないの…。そうね…、いっしょにさがしましょう。」
「うん、ありがとうお姉さん!」
グウレイアはエリックといっしょに食べ物をさがすことにしました。
最初に見つけた食べ物は赤い実でした。エリックは赤い実を食べました。一日かけて食べましたが、まだまだおなかはすいたままです。
次の日に見つけたのはだいだい色の実でした。これも食べましたが、まだまだおなかはみたされません。
その次の日に見つけたのは黄色い実でした。これも食べましたが、それでもおなかはみたされません。
さらに次の日、エリックはグウレイアに言いました。
「ぼく、今日は木の実を食べたくないんだ。他の食べ物が食べたい。」
エリックは他の食べ物が食べたいのです。
「わかったわ…。…それにしてもいもむしが食べる物って何かしら…?」
グウレイアもいもむしが食べる物が何かわかりません。いつも魚とたわむれているグウレイアには魚以外のことはわからないことだらけです。しばらくして、グウレイアは他のいもむしが緑の葉っぱを食べているところを見つけました。
「これだわ!エリック、今日は緑の葉っぱにしましょう。」
「うん!」
エリックは緑の葉っぱを食べました。
「とてもおいしい!」
エリックはおいしくてまんぞくでした。グウレイアもほほえみました。
次の日もエリックはグウレイアに言いました。
「ぼく、今日は水がのみたいんだ。お姉さん、おねがい。」
エリックは水がのみたいのです。
「ふふっ…、わかったわ…。わたしの身体の水を分けて…、いえ、『ジェライム』、おいで。」
グウレイアは自分の身体の水を分けようとしましたが、ジェライムを呼ぶことにしました。まん丸いやや大きめの水で出来たふしぎな生き物がやってきました。そう、ジェライムです。ジェライムはグウレイアの使いで、『水の妖精』と呼ばれています。
「ジェライム、エリックに水を分けてあげて。」
ジェライムはエリックに水を分け与えました。エリックは水をのみました。
「ジェライムさん、ありがとう。」
エリックはジェライムにお礼をいいました。ジェライムも平たくなって返しました。
また次の日もエリックはグウレイアにいいました。
「ぼく、今日は久しぶりに木の実が食べたいな。」
エリックは久しぶりに木の実が食べたいのです。
「今日は木の実が食べたいのね。」
エリックはグウレイアにジェライムといっしょに木の実をさがすことにしました。しばらくして青い実を見つけて食べました。エリックのおなかもようやくみたされつつありました。
そして次の日、彼岸花の近くで紫の実を見つけて食べました。ついにエリックの様子に変化が出ました。
「お姉さん…、ぼく…、もう…、おなかいっぱい…。いままで…、いろいろありがとう…。」
エリックはねむりにつきました。
「ああっ…、そんな…、エリック…、あなたとお別れだなんて…。!…えっ…、何…。」
グウレイアはエリックが死んだのかと思って泣きそうになりましたが、何かに気づきました。
「わかったわ…。エリックはまだ…、生きている…。」
グウレイアはエリックがまだ生きている事に気づきました。エリックはさなぎになったのです。
「ジェライム、エリックを守ってあげなさい。」
グウレイアはジェライムにエリックを守るよう命じました。ジェライムは平たくなってしたがいました。
そして、数日後…。グウレイアは彼岸花に戻ってきました。
「エリック…、そろそろ目を覚ましているはずね…。!…ねえ…、エリックはどうしたの?」
グウレイアはエリックがさなぎになった場所を見ると、エリックがいませんでした。グウレイアはエリックを守っていたジェライムにたずねました。ジェライムは身体の一部をとがらせてどこかを指しました。グウレイアがそこを見ると、彼岸花の上を飛んでいるちょうちょを見つけました。
「えっ…、今空を飛んでいるこの生き物が…?」
グウレイアはちょうちょを見てとまどいました。ジェライムは平たくなってうなずきました。しばらくして、グウレイアに気づいたちょうちょは声をかけました。
「グウレイアお姉さん、ありがとう!」
「…エリック…、あなたなの…?」
グウレイアは見たことのない姿の生き物がいもむしだったエリックなのかたずねました。
「うん…。お姉さんたちのおかげでぼく、立派なちょうちょになれたよ。本当にありがとう!」
ちょうちょになったエリックはグウレイアにお礼を言いました。
「とてもきれいね…。わたしこそありがとう…。」
グウレイアはうれしさのあまり涙を流しました。グウレイアたちはちょうちょになったエリックと短いひとときをすごしました。
そして、お別れの時が来ました。
「グウレイアお姉さん、ジェライムさん、今まで本当にありがとう。」
「ありがとう…、あなたに水の加護がありますように…。」
こうしてエリックはグウレイアたちの元を巣立ちました。グウレイアは別れの辛さに涙を流しました。
涙を流し終えたグウレイアは湖に戻って魚たちとたわむれる日常に戻りました。