腹ペコうさぎは悪魔召喚に挑む
「裏の仕事のせいでいつものごはんの時間には帰って来れないの、ごめんね。代わりに契約悪魔さんが来てくれるから、ごはんの心配はしなくていいよ」
そう言って大きい奴は何かを敷いて出かけて行った。
床に敷かれた何かには、見覚えのある模様が描いてある。
あ、これはアレだ。ごつい奴が出てくるアレだ。イタズラしちゃ駄目な物だ。
ソロリソロリと敷いてあるやつを避けて、あたいはいつもの探険を始めた。
◇◇◇◇◇◇
いつものように過ごしていると、いつものように日が暮れてきた。いつもなら大きい奴が戻って来る時間なのに、今日は違う。
ああそうだ、前にも同じ事があったっけ。その時はお腹がすいた頃にごつい奴がアレから出て来たんだった。
そろそろお腹がすいてきたな。ごつい奴早く出て来ないかな。
……まだかな?
……まだ?
……
遅えっ!!
よし、こっちから呼び出してやろう。大きい奴と同じ事をすればいいんだ。覚えてるんだぞ!
確か、こう……だった。アレに向けて力を流して呪文を唱えるんだ。模様をなぞるのがポイントだったはず。
「ブゥ……ブゥ……ブゥ……ブッ! ブッ!」
(エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……我は求め訴えたり……出でよ! ごはん係!)
ドロンッてな煙と一緒にごつい奴が出て来た! 成功だ! あたい天才!
「うおっ!? マジで成功しやがったぞこのうさぎ! ……流石は奈乃。あいつの変な物を見つける才能は本物だぜ」
「ブッ! ブッ!」
そんなのいいから早くごはんを! ほら、これに入れて!
「へいへい。ええと、メニュー表は台所に置いてあるって話だったな。おっと、電気電気……っと」
ふっふっふっ、ごはん入れを渡したからにはその内ごはんがやって来るはず。
わくわく、わくわく、ひゃっはー! 気分上がってきたー!
ジーャンプ! ひゃっふー!
ご・は・ん! ご・は・ん! お・な・か・が・す・い・たぞ!
ご・は・ん! ご・は・ん! ご・は・ん・を・つ・く・れ!
ご・は・ん! ご・は・ん! ご・は・ん・は・ま・だ・か!
「おいおい、三三七拍子のリズムで何か聞こえてくるぞ。どこで覚えたんだよ」
ご・は・ん! ご・は・ん! ご・は・ん・を・よ・こ・せ!
ご・は・ん! ご・は・ん! い・ま・す・ぐ・た・べ・たい!
「ほらよ、お待たせ。後は牧草の追加か」
いただきますっ!
「おおいっ、エサ皿抱えてまで必死にならなくてもいいだろっ! ……何これ面白可愛い。何で今スマホ持ってないんだ俺。くそっ、次は絶対にさっきまでの変な踊りと一緒に撮影してやる」
何か言ってるけど、どうでもいいや。ごはん、ごはん! 何と大葉が入ってる! ひゃっふー!
今日も幸せだー!
◆補足◆
大きい奴:飼い主の事。八幸奈乃という名前。
ごつい奴:悪魔の事。悪魔さんはうさぎさんの言ってる事が何となく分かるようだ。
呪文:別に呪文が無くても魔力が足りていれば召喚が可能。ただの雰囲気作りの演出。