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何を言っている?僕の言葉か?いや、違う、なんだ、遠くで誰かが何か言っている?いや僕の声だ。僕の・・?ほんとに?僕の・・口から・・?
なぜだ?
ミザリー、ああ、ミザリー、そんな驚いた表情を。
ああ、ミザリー、泣かないで、言いたいのはそんな言葉じゃない。ミザリー信じてくれ、僕の言葉じゃない。僕の口から出た言葉だが、僕の言葉じゃない・・ああ、息が、息が詰まる、息が出来ない。
「いよう、グレン、面白い状況になってるな!」
僕たちの背後からそんな言葉が降ってきた。
「・・・がっ、がはっ・・ゲホッ」
息ができるようになった。うつむき咳き込む僕の背中をミザリーがさする。先ほど酷い言葉を投げかけた僕なんかの背中を優しくさする。ミザリー・・・ミザリー!
「ミザリー、好きだ、愛している!結婚してください!」
思わず本心が出てしまった。ミザリーに向きなおると、背中をさすってくれていた手と、もう片方の手を僕の両手でに包むように握りしめる。
目の前には困惑しているミザリー。たしかにそうだ。破棄されたそのすぐあとで。同じ口から出た正反対の言葉に。
どちらが本心だというのか。
「あの・・グレン様・・その、手を・・」
「嫌です離しません、ミザリー、好きです、愛しています。今すぐに結婚してください!」
手を放したら逃げてしまいそうな、二度とこの手につかめないような気がして。ミザリーの手を離せなかった。ミザリーは僕から顔を背け、うつむいてしまった。
「おい、グレン。お嬢さんがこまってるぞー、おーい、グレンさーんやーい」
「うるさい!ジャレン、すこし黙っていろ!」
「いや、おまえ、オレを呼んどいてさー。そーゆーこという?」
「男には逃せない、逃してはいけない時があるんだ、今がそのときなんだ!」
ミザリーから目を離さず、手も離さず。ひたすらに一途に見つめる。
「ミザリー。お願い。僕を見て。本気なんだ。愛しているんだ」
うつむいていたミザリーの、髪に隠れていた耳が赤くなっていた。心なしか、手も暖かい。
「ミザリー。僕と、結婚してくれますか」
ピクリと肩が動く。そして、ゆっくりと、ゆっくりとミザリーの顔が僕に向く。
真っ赤になったミザリー。
ミザリーの涙で潤んだ目と僕の目が逢う。
「ミザリー。僕と、結婚してくれますか」
壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返す。
ミザリーの形の良い唇から小さな言葉が漏れた。
「・・・。」
とてもか細く、しかし、それは確かに。
・・はい・・。
と。
「あー、ゴホンゴホン・・ん?そろそろオレの存在を無視しないでほしいんですけどー?」
このままミザリーの唇に僕の唇を・・という良い雰囲気のところでの声。
いつの間にか背後から回ったのか、僕たちの座るソファーの前に立つ男。
ジャレン=バーク。
・・馬に蹴られてしまえ。
シリアスは無理です。