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クライマックスから始まり、そのまま終わるという、書きたいところだけ書きました。
対策はした。なるべく回避行動もとったつもりだ。
しかしゲームの強制力なのか、ヒロインのマリア=コネクトの力なのか。この結果になってしまった。
「ミザリー、君との婚約を解消する」
ゲームと同じセリフが口から出てしまった。自分の意思ではない言葉が。
ミザリー=フロレンスは悪役令嬢ではない。普通の元男爵令嬢だ。
僕が。僕がこのゲームの攻略対象だっただけなのだ。
ヒロインに狙われてしまった、攻略対象だったのだ。
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僕が前世を思い出いしたのは5年前13歳の時だった。
乗馬の練習中に落馬してしまい、そのショックで前世の記憶を思い出した。前世での死に方とオーバーラップしたのか、記憶がよみがえった。
前世では23歳。営業マンで通勤にバイクを使っていた。帰宅時に飛び出してきた猫を避けようとして事故った。
その時はまだ、ただの異世界転生かと思っていた。
僕はグレン=ザンタライト。王都にある商家の長男。前世の記憶を元に、この世界には無かった生活用品や食品など多彩なものを作り、前世で培った営業手腕で売り出した。
庶民から貴族、王族までもが取引相手となり、王都でも何かと話題の大手商家になった。
僕が14歳になったころ、僕の婚約者としてミザリー=フロレンスを紹介された。
ミザリー=フロレンスは男爵令嬢。王都で有名とはいえ、一介の商家でしかないザンタライト家の長男グレン。通常では身分差があり、つり合いがとれない。しかし、フロレンス男爵家にはザンタライト家に多額の借金があった。いわゆる借金の返済の充てにザンタライト家に婚約者として差し出された。
借金の質として娘を商家に嫁がせる約束を平気で行う、フロレンス男爵家。借金を清算できればすぐにでも婚約は解消されるが、フロレンス男爵家にはその気はない。
最初に婚約の提案があった時にザンタライト家は、一理も無くむしろ害があると難色を示した。王族とも既に親交もあり、爵位を賜ると行動が制限されるため爵位にこだわりを持たないザンタライト商家。
『金で嫁を買う』その事実を忌避していたが、ミザリーを知って一転する。
僕には前世の23年分と今世の14年の記憶と経験がある。王都で話題の大手商家、その長男後継ぎという地位に群がる有象無象の男女は多かった。群がる同年代や近しい年代は行動や言動が「お子さま」であり、特に興味が持てなかった。
フロレンス男爵家から婚約の打診があったと同時に、ミザリーが商家にやってきた。少ない個人の荷物とフロレンス男爵家の手紙を持って。フロレンス男爵、ミザリーの父親がミザリーをザンタライト家に押し付けたのだ。
男爵からの手紙にはミザリーを送るから、召使にするなり娼館に売るして借金の返済に充てたいとの要件が記載してあった。フロレンス男爵家の抱える借金は、小娘一人売ったところで到底賄いきれる金額ではなかった。
ミザリーを男爵家に追い返したとして。ミザリーは今度こそ男爵家から娼館へ売りに出されてしまうだろうと危惧したザンタライト家は、そのままミザリーをグレンの婚約者として据えた。
男爵家でのミザリーの待遇はあまりよくなかったようだが、商家の手伝いをするうちに以外な才能が発覚した。
ミザリーは事務処理能力が高かった。前世で就いていた職場にいた社長秘書のごとく、全てにおいて完璧だった。また、グレンの前世の記憶から、開発提案する品物を誰よりも早く理解し不足している情報を追加し、より良い物へと昇華させてもいた。
はじめは同情から、そして月日が経つにつれザンタライト家一同はミザリーの聡明さに惹かれて行く。
最後にはフロレンス男爵の借金を全て清算する代わりにミザリーの縁を切る手筈を整え、あらゆる手段を用いて縁を切らせた。
自由となったミザリーは、それでもザンタライト家にとどまった。ザンタライト家もミザリーを改めて受け入れ、正式に王の名の元グレンの婚約者となった。
名ばかりの婚約者としてではなく、ミザリーを名実と共に正式な婚約者としたとき。
その日に、前世で誰かがプレイして話題にしていた乙女ゲームの世界だと気が付いた。
僕はゲームの中では攻略対象者だった。
ゲームのシナリオでは、ザンタライト商家は裏家業で悪徳稼いでいた。ミザリーは借金の質として婚約者となるのは変わらなかったが、ザンタライト商家はミザリーの生家フロレンス男爵家を利用し貴族社会に入り込み、拡大していく。家庭不和も起こり、ザンタライト一家は、人を物として利用する性格になっていった。
僕は家業を裏表とも継ぐために学園では第2王子を利用しようと懇意になり、マリア=コネクトに諭され更生するというストーリーになる。
実際には僕の前世チートで裏家業に手を染める暇もないほどに稼いでしまっていた。金があるって事は、生活にも精神的にも安定し家庭不和も無い。前世の記憶から他人を虐げることを忌避し、前世の会社勤めの経験から地域貢献も事業の一環として慈善事業を積極的に行い、ザンタライト商家は王都でも有名で欠かせない存在となった。そしてミザリーの存在。おそらくは本人は気がついてはいないかもしれないが、ミザリーも転生者だと思う。僕の前世チートの開発提案について行けるのがその証拠だ。
まあ、僕にとっては転生者でもそうでなくてもミザリーはミザリーだ。
どう扱われるかもわからないのにザンタライト商家に単身でやってきて。
僕の前世チートにも一歩も引かずに時には助言もして。
商品開発に失敗すると一緒に悩み考え改善を提案し、成功すると「これで人の生活が少しは楽になる」と喜ぶ。
その笑顔を護りたいと思ったのはいつからだろう。
僕には前世の23年分と今世で生きてきた記憶と経験がある。外見はまだ子供だ。でも、中身は大人だ。
23歳も年の離れた女性を愛おしいと思うには前世の知識にある常識が邪魔をする。
ミザリーが哀しいと僕も哀しい。ミザリーが嬉しいと僕も嬉しい。
好意から愛情に変わるには時間はかからなかった。
すぐにでも正式に婚約、学園を卒業したら結婚したいと思っていた。
しかし、ミザリーを愛していると思っていても、ゲームの強制力がどれほどの物かもわからなかった。
僕が攻略された場合は、ミザリーを傷付けてしまう。僕のせいでミザリーを傷付けるのは本意ではない。
それだけは避けたい。
ヒロインに攻略されない事がいちばんよいのだが、他人の事などわからない。ならば、自分でできることをするだけだ。
ヒロインに逢わないように学園に行かないのは、僕が家を継ぐ限り無理だろう。
もし、ヒロインに攻略されてしまった場合。世界の強制力がどれほど強いのかが解らない。
保険を掛けておくことにした。
僕がその『言葉』を発したとき、それは発動した。
後日、不足分とか書き足さないかもしれません。
サブタイが思いつきません。
誤字脱字ありましたらお手数ですがご報告いただけますとありがたいです。




