よく会う人物
私の知り合いではないが、仕事をしている際によく会う人物がいる。
その人物の名前は知らない。
「くまさんは、彼をご存じですか? 」
私は大熊に質問した。
「かつて、この島をまとめていた者として恥ずかしいのだが、知らないな」
大熊は、島民の一覧表を見ながら言った。
「旅行者でなさそうですね」
「まあ、この世界においては説明がつかないことも多いからな」
大熊は、怖いことを言う。
その人物は決まって必ず私が仕事をしている際に会うのだ。
そして、今日もその人物と会った。
「また、会いましたね」
その人物は、にこやかに笑った。
「あなたは、何の仕事をされているのですか? 」
私は疑問を解決するためにその人物に質問する。
「無職だ。ただ、この島をさまよっているだけだ」
その人物は、そのように答える。
「ところで、あなたは、何の仕事をしているのかな」
「私ですか?私は、市役所で仕事をしています」
「市役所か・・・・・・。具体的にはどんな仕事をしている?」
「主にイベント事や公共事業の部門を担当しています」
私はその人物にできるだけ分かるように短く答えた。
「そうか・・・・・・ 」
その人物はそう言い、歩いて行った。
その人物が何者であるか、分からない。
しかし、悪い人ではない気がした。
仕事が終わり、市役所に戻る。
それから、その人物にあったことを大熊に報告する。
その報告を聞くと大熊は、顔を曇らせた。
「話したということは、幽霊ではなさそうだな」
「そうですね。でも、実態があったかも定かではありません」
「実態がないものなら、話すことができないだろう」
それから一週間後、仕事で私は、またその人物に会った。
「また、会いましたね」
その人物は、いつも同じセリフを言う。
「元気ですか」
私は顔なじみであったので、何のためらいもなくあいさつをした。
そして、その人物は言った。
「もう、あなたに会うことはできません」
「なぜですか? 」
「それは、昔の君ではないからだ」
その人物は、そのように不思議な言葉を言った。
「昔の私ですか? 」
私は聞き返したが、その人物はいなくなっていた。
それから、その人物とは会わなくなった。
その人物が、何者であったか分からないままだ。
ただ、その人物が言った「昔の君」という言葉が、心に残っていた。
昔の自分、すなわち過去の自分ということかもしれない。
過去の自分・・・・・・。
私が、その人物ならば、未来の自分に何を伝えるだろうか。
私は、考えながら仕事をする。