気がつけば新世界
アレキサンドラさんが何か叫んでいる。
それに気を取られた瞬間、防御が疎かになった。
「ほげぁ」
盾持ちの亡者に障壁ごと殴られ壁際まで吹き飛び瓦礫の中に埋もれてしまった。
亡者を見るとアレキサンドラさんに襲い掛かっているのが見える。
アレキサンドラさんは不意を突かれたのか防戦一方だ。
何とか防いでいるが倒されるのは時間の問題だろう。
そう考えた時、不意にアレキサンドラさんが亡者に背中を見せた。
このままだと切り伏せられて終わりだ!!
私はアレキサンドラさんを助けようと瓦礫からの脱出を試みた。
抜け出そうともがいていると工房が真っ白な光に覆われて行くのが見えている。
白い光であるが決して眩しいものでは無くただ世界が白く覆われ全く見えなくなるだけだった。
しばらくすると光はだんだん薄れてゆく。
何だったのだ?いまのは?
疑問に思うのと同時にアレキサンドラさんの方へ眼を向ける。
リバーサーの前でアレキサンドラさんは座っていた。
どうやら無事な様だ。
だが、アレキサンドラさんの前に見知った顔が跪いていた。
「プロメテ!その姿は?!」
アレキサンドラさんの前で跪く男はアタノール魔道王国の国王、プロメテ。
そのプロメテが若かりし頃の姿で跪いていた。
周りを見渡すと、プロメテだけではなく魔術師のエピメテ、神術師のティオス、精霊術師のデュカリオ、武術師のアトラスもいる。
しかもみな若返った姿で。
「へ?どうなっているの?」
ヘルメスが抜けた声を出すとそれに気づいたのかプロメテが話しかけてきた。
「おお、ヘルメス。無事だったか。
亡者となっている間は漠然とした意識があっても自ら動くことが出来なかったのだ。
お前にもすまないことをした。」
と言って頭を下げてくる。
プロメテはリバーサーを確保しようとしていたのではないのか?
解せぬ。
解せぬと言えば、
「そう言えばリバーサーは何故動いているのだ?
私は停止させていたはずだが・・・」
何とか瓦礫を抜け出しリバーサーに近づく。
「ふむ、外見は問題ない様に見えるが・・・!!」
私が見たリバーサーの外見は少し薄汚れているが問題はない様に見える。
しかし、リバーサーの中、若返る対象が入るカプセルに人骨が一体入っていた。
「だれだ?これ?」
「それはお前の助手のメフィストだ。」
プロメテが私の疑問に答えてくれる。
「俺達がリバーサーを確保しようとここに来た時、メフィストがリバーサーを稼働した所だった。
私たちはリバーサーから漏れ出る黒い光に飲み込まれ亡者となってしまったのだ。」
プロメテの説明によると助手であったメフィストは自らも若返ろうとリバーサーを起動させた。
彼も歳を取っていたから若返りたかったのだろう。
だが、リバーサーはコア部品を外した不完全な状態で動かした為、やって来たプロメテたちを巻き込み暴走したのだ。
「ふむ?
ならばプロメテ達が若返ったのは・・・おお、エンシェントドラゴンから取った魔石がここまで減っているとは。
なるほど、魔石の力が暴走した流れに乗ることで繋がっていたプロメテ達に若返りの効果を与えたのか。
うむ、興味深い。」
現状を考察する私にプロメテは尋ねてくる。
「ところでヘルメスよ。
このリバーサーはどうするのだ?」
私は少し考えたのち
「分解処分ですね。
現状、目的は達成しましたし、必要のないものです。
置いておくと邪魔になるのでどうしようかと考えていたところなのです。」
「うむ、それが良いだろう。アトラス!」
「はっ!」
プロメテが呼びかけると短く刈り込んだ黒髪、黒目で長剣を持った男が進みでた。
男の肉体は細めだが寸分なく鍛え上げている。
剣を閃かせると程なくリバーサーを切り刻んだ。
切り刻んだにもかかわらずメフィストの遺骨を綺麗に避けていた。
「デュカリオ!」
長い白髪でダークブラウンの肌をした精霊師が炎の精霊を呼び出しリバーサーの残骸を焼き尽くす。
「エピメテ!」
薄い色の金髪の魔法師が呪文を使い焼け残ったものを亜空間に破棄する。
「ティオスはメフィストの葬儀を」
白い肌の神官は茶色い長髪を揺らしながら祈りの言葉を唱える。
「では、プロメテ。
ここは三千年後の世界だと言うのか?」
「うむ。ヘルメスお前が管理庫に入っている間、外では猛烈な勢いで時間が流れていたのだ。」
「なるほど、だからアレキサンドラさんの言われる場所に聞き覚えがなかったのか。」
「そうなのですか。
ここからそう遠くない村なのですけど・・・
でもこれで問題なく移動できますね。
メンテナンスをしてくれる仲間もその村で待ってくれています。」
と、プロメテの隣に座るアレキサンドラさんが答えた。
よく見ると周りの連中の隣にもそれぞれ女性が座り仲良く談笑している。
どうしてこうなった?