工房の怪異
朝食を食べた後、彼女たちを送ることにした。
日が昇ってからならば転送装置を使うことができる。
魔道王国の法律では日中以外の転送装置に使用は禁じられているし、転送できない様になっている。
これは不意の転送による衝突事故を防ぐための措置だ。
彼女たちに送り先を尋ねる。
聞いたことのない住所だ。
これは困った。
そうだ、いい方法がある。
彼女たちの記憶から目的地を割り出すのだ。
工房にある読み取り機を使えば簡単だろう。
そうと決まれば転送先を工房に変え
「君たちは工房へ行くつもりとか言っていたね。
丁度そこへ行かなければならないので送ります。
直ぐに別の場所に転送できるので問題ないでしょう。」
そう言って、転送装置を起動させた。
訪れた工房はすっかり様変わりしていた。
ほこりが積もり、部品や材料を置いている棚も所々崩れて散乱している。
リバーサーが置いている工房の作業台の周りには見覚えのある装備を付けた五人が立っていた。
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「え?」
ヘルメスは工房つまり迷宮最深部に転送すると話した。
私たちが止める暇もないうちに転送されたのです。
そこは迷宮の最深部らしく様々な物が置かれています。
中には棚から落ちて壊れている物もありますが、壊れていても迷宮の工房で見つけた物なら欲しがる人は多いでしょう。
ヘルメスは本当に迷宮の工房に案内してくれたのです。
ひょっとして良い人かもしれません。
ですがそのような考えも次の瞬間には打ち消されたのです。
工房の中心にある不思議な魔道具。
その周りを五人の亡者が守っています。
この時、私達は理解したのです。
ヘルメスが無償で私たちの装備を修復した理由を。
この五人の亡者を戦わせる為に違いありません!
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不味い。
読み取り機はリバーサーの近くにあるが、あの五人が邪魔で取りに行けない。
仕方がない、彼女らに助力を頼もう。
彼女らも駆け出しとは言え冒険者だ。
こんな状況には対処できるはず。
王国の冒険者の基準はそんなに甘いものでは無いのだ。
「アレキサンドラさんは相手の盾持ちと対峙して下さい。
ディアマンテさんは精霊使いの相手を、攻撃を畳みかけて召喚できない様に。
ルーベラさんは両手剣持ちを杖で束縛して下さい、その杖はその能力があります。
エスメラルダさんは後ろから魔術師を狙って呪文の阻害をたのみます。
サピルスさんは全員を回復しつつ相手の司祭を牽制してください。」
彼女たちに指示を出すと空間収納から各種強化薬を取り出す。
身体向上薬、精神強化、感覚強化、魔力強化などなど。
これらの魔法薬は体に振りかけるだけでも効果はある。
これを彼女たちに投与する。
文字通り投げて。
ふむ。
強化薬の効果もあって彼女らはなんとか対抗できている。
しかし何故こんな事になっているのか?
彼ら五人はどう見ても亡者である。
むむむ??
リバーサーが稼働している?
たしかコアブロック(と言っても単なる魔石なのだが)を取り外したため若返り効果は無いのだが・・・。
そう言えばコアを取った場合、どう動くかは検証していなかったな。
確か魔力の流れがコアの部分で折り返されることになり・・・
・・・カプセル内部に与える効果は反対側に放出される。
その時通る魔力回路は・・・
・・・・・・・・・・・・
あ、まずい。
これアンデットになるわ。
しかもカプセル内じゃなく周りに効果を発揮してしまう。
さすればリバーサーを壊すしかないか。
だが彼女たちは手が一杯だ。
リバーサーを破壊する為には彼女たちの代わりを私がするしかない。
一番近いのは・・・アレキサンドラさんか。
丁度良い具合に盾を構えてお見合いになっている。
「アレキサンドラさん!
彼らの後ろの機械を止めるか壊すかして下さい!
あれが亡者を動かしている!
盾持ちは私が止めます!」
――――――――――
ヘルメスは私と入れ替わると盾持ちの亡者と対峙しました。
高レベルの術者らしく戦士系相手でも対応できているように思えます。
彼が盾持ちを相手にしている間に奇妙な機械を壊すか止めるかしなければなりません。
機械には変な窪みがあるだけで低く唸り声をあげています。
私は持っている剣を振り上げ叩きつけました。
キィン!
鋭い音が響き、剣は簡単に弾かれました。
魔法の障壁が施されている様です。
この機械は壊すより止めた方が良いのかもしれません。
私は機械を止めるための仕掛けを探しますが、門外漢の為さっぱりわかりません。
「ヘルメスさん。この機械を止めるにはどうすれば・・・」
ヘルメスに尋ねたのが悪かったのでしょか?
その質問に気を取られたのかヘルメスは盾持ちの亡者に吹き飛ばされました。
盾持ちの亡者は剣を構えゆっくりと私に近づいてきます。
そして亡者の剣が唸りを上げ私に襲い掛かって来ました。
ガキンッ!!
亡者の剣は私が持つ盾によって弾くことが出来ました。
ヘルメスの修復により防御力や偏向力が増しているように思えます。
ですが油断は禁物。
私は何時でも攻撃を受け流せるように盾を構えました。
この亡者は盾を構えると近寄ってこないのです。
盾の構えを解く攻撃が来るので解くわけにはいきません。
他のメンバー、ディアマンテやエスメラルダは亡者と切り結んでいます。
彼女たちと私では何か違うのでしょうか?
そう言えば、ヘルメスは私の盾に手持ちの魔石をつけ直したと言いました。
ひょっとするとこの魔石が亡者を退ける効果を持っているのでしょうか?
それに後ろの装置にあるあの窪み。
その窪みの大きさは盾に取り付けられた魔石と同じ大きさです。
この機械が亡者を作り出してしまっているのならば正常な状態に戻せば亡者は元に戻るのかもしれません。
もしここで構えを解けば斬られるでしょう。
でも私の防御力ならば一度ぐらいは耐えることが出来ます。
私は決心しました。
ジリジリト後ろに下がりタイミングをうかがいます。
そして、盾から魔石を外すと素早く窪みに押し込みました。
魔石が窪みに押し込まれると奇妙な機械は眩いばかりの光を発しました。
その光の中で盾持ちの亡者が剣を振り上げるのが見えます。
力のこもった剣筋は私の鎧を易々と切り裂くように思えました。
ですが光はどんどん大きくなりやがて視界を白く塗りつぶします。
光が収まって視界が元に戻った時に目の前には金髪の青年騎士が片膝を付いていました。
神話や英雄譚から抜け出てきたような姿をしています・
その彼が私に話しかけてきます。
「勇敢で麗しい乙女よ、感謝する。
我が名は・・・」