夕食に呼ばれる
私が開けた扉の先には通路ではなく部屋が広がっており、その中央に茶髪の青年が立っていた。
一見すると純朴そうな普通の青年に見える。
だが油断してはならない。
部屋には出口は無く、私たちは閉じ込められた状態だ。
それに驚くべきは彼の装備である。
複数の上級呪文が込められたローブ。
複雑な魔術回路を施され、様々な魔石がはめ込まれた杖。
常時発動する様々な魔法のアクセサリーを着けているのが見える。
私たちにはどれも伝説級の物のように思えた。
彼はこの場所の主であり、迷宮の主なのであろうか?
私たち五人はごくりと唾をのむ。
明らかに格上の強敵だ。
私が開けた扉の先には通路ではなく部屋が広がっており、その中央に茶髪の青年が立っていた。
一見すると純朴そうな普通の青年に見える。
だが油断してはならない。
部屋には出口は無く、私たちは閉じ込められた状態。
それに驚くべきは彼の装備。
複数の上級呪文が込められたローブ。
複雑な魔術回路を施され、様々な魔石がはめ込まれた杖。
常時発動する様々な魔法のアクセサリーを着けているのが見える。
私たちにはどれも伝説級の物のように思えました。
彼はこの場所の主であり、迷宮の主なのでしょうか?
私たち五人はごくりと唾をのむ。
明らかに格上の強敵ですね。
そんな緊張の中、青年は私たちを歓迎すると言ってきました。
しかも、”ヘルメス”と言う名前の様です。
彼が上話に触れると通路への扉が開く。
やはり、迷宮の主であるのは間違いないようね。
私たちはヘルメスの後をついて行く。
案内してくれたのは私たちが探索を行った部屋の一つでした。
奥の部屋に行くまでこの部屋には何もないと確認済でしたはずです。
いったいどのような考えなのでしょうか?
ヘルメスは部屋に入ると腕に取り付けた装飾品に触れた。
次の瞬間、こげ茶色のテーブルや椅子が出現する。
私たち感知することのできない仕掛けがあったようです。
私たちが着席せず様子を見ているとヘルメスは腕輪を操作し椅子の後ろ位置に台を出した。
剣などの武器や盾を置くための台の様の様に見えます。
装備は邪魔になるだろからとその台に置くことを勧めてきました。
やはり油断のならない人物のようです。
食事の時に邪魔になると言うもっともらしい理由をつけて武装を解除させるつもりなのでしょう。
だがここはあえてヘルメスの言う通りに武器や盾を置くことにします。
まだ相手の実力が判ってはいません。
今はまだ抵抗するべき時ではなのです。
そして、食事が始まりました。
私たちは食事をしながら当たり障りのない話、この迷宮に来た理由などを話します。
サピルスは話の間、ヘルメスの出した食事に夢中になっています。
この食事、ヘルメスは王都でも少し高級な店の物だと言っていましたが、断言できます。
王都でドラゴンのステーキを出す店は超一流店だけ。
しかも、一年に数回しか出すことはありません。
ヘルメスの言う通り、気軽に食べることの出来る物では無いのです。
さらに特筆すべきはデザートのケーキ。
白く甘いクリームの上に色とりどりのフルーツが載せられています。
中には見たことの無い不思議な形のフルーツもあるようです。
そのフルーツを見たサピルスが
「これはぁネクタルですぅー。」
と驚きの声を上げました。
どうやらケーキの上に載っているフルーツの一つがネクタルと言う物の様です。
ネクタル?
私はその言葉を聞いてギョッとしました。
ネクタルと言えば伝説の霊薬、エリクサーの材料とも称されている果実だと聞き及んでいます。
エリクサー製法や原材料であるネクタルは失われたと聞き及んでいます。
それが目の前にいくつも・・・。
さらにサピルスが驚くべきことを言い始めました。
「このぉフルーツの上にかかっている蜜はアムリタですねぇ。」
アムリタ、それは精神を完全に回復させる霊薬の一つの名前です。
やはりそれもネクタルと同じ様に失われた物。
隣に座ったディアマンテが
「なぁアレク。ネクタルとかアムリタってなんだ?」
小声で尋ねてきたのでこっそり教えると途端に黙り込んでしまいました。
周りを見るとエスメラルダもルーベラも黙り込んでいます。
無理もありません。
目の前に置かれているのは霊薬ケーキと言うべき物なのですから。
ヘルメスは更に紅茶を入れて進めてくれます。
そこに使われている茶葉を見て私はハッとしました。
“世界樹の葉”
世界に数本しかない木の葉を紅茶にしていたのです。
世界樹の葉はネクタルやアムリタとは違い手に入る物ですが、
これ程の量の葉を紅茶にする事は聞いたことがありません。
私たちが何も話せなくなっていると、ヘルメスは自分の話を聞かせ始めました。
それはとても一言では言い表せないような話でした。
何処の世界に手違いでドラゴンを吹き飛ばす人がいるのでしょうか?
首から下が消滅して自動回復で再生できるのでしょうか?
クラーケンに飲まれて無事に脱出も。
私たちは自覚しました。
目の前にいる普通の姿をしている青年は私たちの知りようが無い何かなのだと。
その事に気付いたのかエスメラルダは真っ青な顔をしています。
ここで私は、これ幸いとばかりに帰ることをヘルメスにお願いしました。
ですが彼の返事は良い物ではありませんでした。
それどころか真っ青な顔をしているエスメラルダを置いて行けと言っています。
彼女を生贄に私たちが逃げ延びる。
そんなことは許されません。
私たちがエスメラルダを置いて行けないと言うと、ヘルメスは皆泊まれば良いと言いました。
しかも、各一人一人切り離そうと考えている様です。
一人一人切り離されればどんな目に会うか判った物ではありません。
私たちは同じ部屋にしてくださいとヘルメスに頼みます。
するとヘルメスは腕輪を操作すると部屋の壁を取り外し大きな部屋に替えました。
ですが、ヘルメスも然るものです。
寝る時には邪魔からと言って武具は取り上げられました。
その時私は取り上げられた武具とは今生の別れになる気がしていました。
翌朝、ヘルメスに起こされます。
寝ずの番を交代で行う予定でしたがいつの間にか全員眠っていたようです。
朝食後、ヘルメスは私たちを外まで送ると言ってきました。
同時に、私たちの武具が返却されたのです。
その上、武具は完全に手入りされ修理されていました。
修復された武具はありえないほどの輝きを持っています。
ヘルメス曰く、魔道回路を清掃し修理したとのことです。
何という事でしょう。
ヘルメスにとってこれらの装備を行った私達でさえ歯牙にもかけない存在であると言う予行演習なのでしょう。
ヘルメスは迷宮から出る為に転送装置を使うと言っています。
転送装置と言ってもこの部屋が転送装置になるのでしょう。
ヘルメスが腕輪を操作すると転送装置が出現しました。
それを使って迷宮の外まで送ってくれると言っています。
ひょっとして良い人なのでは・・・
そう思った時期もありました。
私たちが転送しようと次の瞬間、ヘルメスは
「あ、そう言えば君たちは迷宮最深部に行くつもりとか言っていたね。
それなら私が送ってあげます。
直ぐ帰って来るのなら大丈夫でしょう・・・」
そう言ってヘルメスは腕輪を操作したのが見えました。