錬金術師閉じ込められる
うわっ!!
やってしまった!!
完全に閉じ込められてしまった。
錬金術装置のコア部品を保管部屋に持って入ったところ、うっかり扉をロックし忘れて扉が閉まってしまったのだ。
盗賊対策の一環で部屋側からは開けることが出来ない。
さて、どうしたものか?
この部屋は保管部屋だけあって色々な錬金術用の道具や材料を置いている。
中には劣化が早いものも存在する。
その為、部屋の中は時間が止まるように出来ている。
こうやって色々行動できることを考えると、時間停止機能は働いていないのだろう。
とりあえず保管庫の中の物を確認しよう。
保管庫の中にあったものは錬金術の材料であり、それを加工する道具は置いていなかった。
錬金術での調合さえできれば、扉を開けることができる。
だが、材料でしか無い。
調合で必要な道具はこの部屋には無いのだ。
焦ったところで仕方がない。
こうなった経緯を語ろうと思う。
私の名前はヘルメス。
訳あって茶髪の青年の姿をしているがそれは後で話そう。
職業は錬金術師。
アタノール魔道王国でも屈指の錬金術師だ。
王国は魔道王プロメテ王を中心に、魔術、神術、精霊術、錬金術、武術、各分野の導師が補佐する。
五人の導師の内、錬金術の導師がこの私だ。
この事からも、私の実力が理解できるかと思う。
物心ついてこの方、錬金術一筋、研究に明け暮れる毎日。
様々な魔道具を考案し作り出す日々であった。
その甲斐あって、アタノール魔道王国はこの世界屈指の強国になったのだ。
無論、私の力だけではない。
魔術と武術を極めたプロメテ王を筆頭に各分野の賢人か協力した。
そんな忙しい日々、いつしか髪は白髪と化し腰も曲がり顔や体にしわが多くなる。
そんなある日私は気づいてしまった。
“嫁がいない”
嫁どころか恋人も女友達もいない。
果たしてこれで良いのか?
そう思ったら居ても立っても居られなくなり、今までの研究はそっちのけで作り上げてしまった。
“リバーサー”若返り装置
当然テストはした。
その結果が茶髪の青年の姿をしたこの私なのだ。
ただ、人が一人入る為、大きすぎるのが問題なのだが・・・。
たが、その装置を狙う者がいた。
魔道王のプロメテだ。
プロメテも私と同じぐらいの年齢であったが若返った私を見て若返り装置の存在に気付いたのだ。
そしてこともあろうか、私の工房に兵を差し向けてきた。
だが、私も抜かりはない。
王国からの依頼で作り上げた魔道兵器の数々を配置し、工房を迷宮要塞化。
これで奴は入って来られないと思うのだが、奴の部下には迷宮に長けた者もいる。
私は一計を案じた。
全く別の場所に保管庫を作りその保管庫に装置のコア部品を隠す。
コア部品が無いため若返り装置はまともに動くことは無いだろう。
入口も全く別の所に設置する。
通常、重要部品の入口は迷宮の奥深くと考えるだろう。
私は入口を外、それも迷宮化した工房の入口よりほど遠くない場所に設置する。
そう考えてコア部品を持って保管庫に入ったのだ。
とは言った物のどうやって外に出るか?
そう考えていると静かに扉が開いて行く。
開く扉の先には五人の女性が驚いた顔で立っていた。