8 思わぬ提案
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”暗殺者”や”忍者”、”斥候”を筆頭とした隠密系統の職業、その中で皆が挙って習得を目指すのが【無言詠唱】というパッシブスキルだ。
魔術師等の術を使う職業が習得する、詠唱を簡略化するスキルである【高速詠唱】と対になるスキルだ。
基本的にスキルや術は発動時声を出す事でシステムが音声を認識し、発動するのだが、【無言詠唱】はそれを否定する。
脳内で考えればスキルや術を発動出来るのである。
まぁ確かに暗殺者とかが目標の背後に回って有利取ってるのにスキル名を大声で叫ぶなんてシュールというか、そんな事している奴は隠密じゃないと思うので、俺的にはこのスキルは妥当だと思う。
そんな【無言詠唱】は、隠密系の職業を取っているプレイヤーが高レベルに達する事でのみ習得が可能なスキルである為、無言でスキルや術を使っている時点で、プレイヤーが隠密系の職業である事と、高レベルのプレイヤーである事を公言している様なモノなのだ。
「……だよなぁ。やっぱバレるよなぁ……」
俺はガリガリと頭を掻く。
「”無法の女王”程のプレイヤーなら知ってて当然の知識だもんな」
「そうだね。”レムナント”にも【無言詠唱】を取ってる人いるし」
「え? いるの?」
レムナントにそこまで高位の隠密系っていたっけ?
俺が首を傾げていると、”無法の女王”は素直に答えてくれた。
「うん。うちのギルドマスター」
へぇ~……レムナントのギルドマスターかぁ。
……ちょっと待て。
「……それって”光の英雄”だよな?」
「うん、そうだね」
ワーオ。
ギルド兼軍事国家”レムナント”。その長――通称”閣下”。
その名と異名はこのゲーム内においても群を抜いて知られている。
個人の武勇を競う闘技大会において、”朕項”の国主である項羽と見せた激戦は、最早プレイヤー達の語り草だ。
俺もそれを見ていたが、なんかこう『次元が違う』のだ。
えーっと、なんて言ったら良いのか…………そう、『一般モブから見る主人公とライバルの戦闘』みたいな感じといったら伝わるだろうか?
そんな彼の事を話すのに、先ず最初に出てくるのが彼の異名でもある”光の英雄”というユニーク職業だ。
両手に発光する剣を両手に持って戦う姿は、まるで映画『スター〇ォーズ』に出てくるジェ〇イの様だ。
彼が持つ”光の英雄”専用の剣は、形容するなら完全にライト〇ーバーである。
それを見た観客達――特に男連中――がどれだけ歓声を上げ、羨ましいと思ったか!!
……俺としてはSFの世界観でそれを見たかったと言いたいが、まぁこの世界はファンタジーなので仕方がない。
”閣下”は名実共に”Next World Order”においてトッププレイヤーの一人だ。
闘技大会もだが、その前に行われたギルド対抗戦においてもその指揮能力の高さと実力を遺憾なく発揮し、優勝を勝ち取った。
その勝利を支えた一人が、今目の前にいる”無法の女王”だ。
……やべぇ、改めて”無法の女王”だと思うと『有名人と偶然街中で出会った』感がある。
サインくれるかな?
「……で、オジサンはこんな所で何してんの? レベル上げ?」
”無法の女王”が聞いて来たので、頷く。
すると、赤髪の少女は首を傾げてこう続けた。
「一人で?」
「……あ」
……忘れてた。
俺は李に連絡。合流したのは連絡してから十分経ってからだった。
李を先頭に、月餅とヒッキーがやってくる。
「……む、女王ではないか!」
「ありゃ。……鬼さんじゃん」
月餅と”無法の女王”が互いの姿を見て同時に驚く。
まぁ闘技大会やらギルド対抗戦で何度か戦った事もあるから知った顔ではあるだろう。
其々がトッププレイヤーで、尚且つコイツ等の異名は俺達の様な存在だけではなく、ゲーム内でも聞いた事が無い人間の方が少ないだろうと思う程の有名人だ。
現に、月餅の姿を見たレムナントの中級レベルの三人は眼を見開いて驚いていた。
「女王は……ふむ、『地獄上げ』の最中か。相変わらずレムナントは真面目な事だ」
「そっちは発表されたイベントの為のレベル上げ……ってところかな?」
「応よ。どいつも俺が認めた連中だ」
二人共快活な性格をしているからか、闘技大会等で戦う関係にも関わらず、そのやり取りはにこやかで穏やかなモノだ。
二人の会話する様子を見ていると、”無法の女王”が俺達の方を向いてニコリと笑う。
「えっと……知ってると思うけど、レムナント所属、”裁定の女王”の隊長。プレイヤーネームは”スカーレット”です。宜しくー」
”皆殺し”なんて異名を付けられている割には随分と気軽な、親しみやすい挨拶をする。
いや、外見年齢の儘なら年齢は十代中盤~後半位だろう。ならばこのコミュ力の高さも頷ける。
……女子高生の全員がコミュ力高いってのも偏見だろうが、少なくとも目の前の”女王”には当てはまっている様に見える。
「ふむ。挨拶されたからには返さないとな。……”朕項”所属の”軍師”。”蟇蛙”だ」
ヒッキーが眼鏡をくい、と持ち上げながら自己紹介する。
「フリーの情報屋”李田中0303”ネ。……情報が必要なラ売るヨ? 勿論、金は取るけどネ。レムナントの幹部と知り合いになれるなんて光栄だヨー」
李がヒッキーの挨拶に続き、いつも通りの胡散臭さ万歳の片言の日本語で話しながら”無法の女王”の手を握る。
コイツもコミュ力の化物だな。流石情報屋。
そして当たり前とばかりに”女王”は俺の方を見てくる。
……えっと、これ俺もやる流れ? 一応敵対関係にあったし、向こうの同僚を殺しているし若干居心地が悪いんだけど……。
「……所属無し。”暗殺者”職のヘキレキだ」
俺が教えられる情報なんてこんなモノだ。
だが、女王は少し不満そうだ。
「えー……それだけ?」
……いやいや、何を他に言えと?
俺は肩を竦めると、俺がそれ以上答えない事を理解した”女王”は、自分が連れたプレイヤー達を紹介した。
人族の剣士と魔術師、そして弓戦士の獣人。
高校生くらいに見える三人は、終始緊張していたのが印象的だった。
多分”赤髪鬼”と呼ばれる月餅にビビってたんだろうが……または全員が年上だとわかるからか?
月餅も李もヒッキーも、それに俺もだが、確かに十代には見えないだろう。
俺は二十三歳だが、とはいえ高校生からしてみれば年上に違いない。外見はもうちょっと上に設定してるし。
「レベル上げしてるって事は、四人は次のイベントに参加するんだ?」
女王の質問に、代表して李が首肯する。
「そうネ。まぁ基本的にはこの四人で動くヨ。……久しぶりのレイドイベントネ。皆戦いに飢えてるヨ。考察されてた中じゃ、場所が森だから動物系か植物系の何方かじゃないかって言われてたヨ」
流石情報屋と自称するだけあって、李は淀みなく情報を話す。
レイド系のイベントは巨大なボスを参加者全員で倒す事が多いので、パーティーという概念がない。
とはいえ色々な事から、動くときは四人~八人で一組のパーティーを組んで動くのが暗黙のルールになっている。
「後少しで始まるから、アップデートの為にグウィンドリン大森林はあと少しで出入りが禁止されるネ。初心者達が可哀そうヨ。あそこが一番効率が良い狩場だからネ」
「あそこ初心者用のダンジョンだもんね~。……あ、良い事思いついた」
そこで何かを思いついた女王が、意地の悪い笑みを浮かべる。
明らかに良い事を考えている顔だ。
何をさせるつもりだよ。
「……次のイベント。私とパーティーを組まない?」
「「「「……はい?」」」」
女王からの急な誘いに俺達が思わずそう返したのも、仕方がないと思ってもらえると思う。




