7 バレる
《side:スカーレット》
私が所属している国――大きいギルドってだけだけど――であるレムナントには、『地獄上げ』と呼ばれているモノがある。
レムナントは、基本的にはガチ勢で構成されていて、実際に新メンバーを募集する際にもガチ勢、またはガチ勢を目指す事が加入条件になっている。
その為、加入したメンバーは最前線でも戦えるレベルまで私達上位プレイヤーがゲーム内での身体の動かし方や戦い方等を教えるという事が恒例で、それが誰が言い出したか知らないけど、掲示板で『地獄上げ』と呼ばれるようになり、それが定着した。
……誰だそんな人聞きの悪い名前を定着させたのは。
いや、確かに参加するメンバーからしてみれば地獄以外の何物でもないんだけれど。
一撃でも貰ったら多分死んじゃうし。
この『地獄上げ』に参加しているメンバーは、初心者ばかりという訳じゃない。
レムナントに加入したメンバーなら誰でも経験する事なので、150を超える上級者から10レベルにも満たない初心者までと幅広い人間が最前線に連れていかれる。
そして経験値を上げるアイテムを装着して、レベル上げをするのだ。
今私が最前線に連れてきた三人はまだレベル40程の初心者と中級者の間位のプレイヤーだ。
剣士の子と弓戦士の子と魔術師の子。
皆レムナントに所属する子に相応しく、上昇志向が強い。
ま、だからといって強いって訳じゃないんだけど。
だって最前線の魔物って最低でも140レベだし。
とはいえ一対三だし、この魔物は群れで行動しないタイプだから余り危険は……ないとはいえないけど少ない。
VRゲームのRPGでの身体って、実際の身体と身体能力に違いがあるから、高いステータスをフルに生かすのに慣れるのが大変だったりするのだ。
それに、人体の急所を攻撃されると即死判定になっちゃうから、それを防ぐ動き方・戦い方を無意識に出来るまでにならないといけない。
私がそんな事を考えている間にも、三人が戦いながらどう倒すかを懸命に考えている。
「――くそっ! 流石に硬いな!!」
「このレベル差じゃ無理ないって!」
「とにかく地道に削るしかないでしょ!」
必死にヘルガルムと戦っている三人に、檄を飛ばす。
「――ほら! 相手はたった一匹だよ! レベルは相手の方が圧倒的に高いけど、レベルが高い相手と戦う状況は以外と多いんだから今の内に慣れないと!」
レイドボスとかギルド対抗戦とか闘技大会とか、自分より高レベルの相手と戦うなんてこのゲームでは珍しくない。
弓戦士と剣士、そして魔術師という組み合わせだから、パーティーとしてのバランスは悪くないから、油断しなければ倒せる筈だ。
まぁ本当ならもう一人斥候か盾役が入ればバランスが良いと思うけど。
少なくとも私は手を出さない。
流石に死にそうになったら助けるけど、目的がこの子達のレベル上げである以上、必要以上に私が関わってしまっては、この子達の為にならない。
だから私がする事はただ見るだけ。
勿論何かあったら困るから【索敵】を使って周囲の状況を確認する事は忘れないけど……ん? この反応はあれだな? もう一匹近付いて来てるな。彼等はヘルガルムを相手にするので精一杯で気付いていないらしいけど。
……すこーし必死過ぎかなぁ。周りを見てないと囲まれる事は分かってるだろうに。
いや、レベル差があるから必死になっちゃうのか。
私がヘルガルムの方を見ると、その後ろの林に隠れる様に――大して隠れてないけど――して男がいるのが見えた。
あれ? あれってどこかで見た覚えが――
「――あ、危ない!」
私が思い出そうとしていると、その間にヘルガルムが剣士を襲おうとし、それに気付いた魔術師の女の子が声を上げたので、私は思考を止めた。
しょうがないなぁ……。
私は【高速詠唱】をパッシブスキルで持っているので、術やスキルを使うのにそう時間は掛からない。
「撃鉄を起こしなさい。【速射】」
私は速度と射程距離に優れたスキルを使い、ヘルガルムを撃ち抜いた。
【速射】は私の持つスキルの中では初級スキルで、空中から一つだけスナイパーライフルを出現させ、撃つというスキルだ。
スキル……魔術師等が使う術や一部の遠距離スキルの魔術やスキルの威力は最大MP量が参照される。
つまり、高威力を目指すなら、魔術師の場合STRではなくMPに振る。
私の場合は”軍火の女王”が遠距離タイプなので、MPに特に振り、それ以外はVITやHPに比較的に振るものの、全体的には器用貧乏になりやすいバランス型と言える。
「――ほら、目の前の敵に集中しなさい!」
私はボーっと突っ立っている三人に声を掛けると、三人はハッとし、警戒していたヘルガルムを取り囲む。
それまで地道にHPを削っていたから、それなりに弱っている筈なので、動きは最初程素早くない。
「行くぞ! ――【デルタアロー】!!」
先ず弓戦士の子がスキルを使って牽制し、動きを止める。
その隙に剣士の子が肉薄し、
「――うおおおぉぉぉっ!! 【十文字斬り】!!」
ヘルガルムを十字に切り裂いてから後ろに飛び退く。
「――っ! 【アイシクルショット】!!」
そこに、二人が攻撃している間に詠唱を終えていた子が氷の中級魔術を使った。
【アイシクルレイン】は氷の礫を相手へと降り注ぐ術だ。
それによってヘルガルムがよろけて動きを止めたので、三人はここぞとばかりに攻撃を行う。
「行ける!」
「一気に叩くぞ!!」
「後衛は任せて下さい!!」
ヘルガルムが倒れたのは、それからすぐの事だった。
三人は圧倒的なレベル差の魔物を倒した事を喜んでいる。
「どう? レベルはどれ位上がったかな?」
見た目的に同学年の三人にそう訊ねると、三人は嬉しそうに答える。
「俺は15上がった!」
「俺は14レベル上がったな」
「私も14レベでした。……一匹倒しただけでこれなら、どんどんレベルが上がりますね!」
うんうん。それは良かった良かった。
……さて。
私は息を吸い、遠くまで聞こえる様に声を張る。
「そこで見ている覗き魔さーん。隠れきれてないから出てきても良いよー」
私が茂みに向かって声を掛けると、覗き魔が茂みから出てきた。
「あら、バレてたか。……ま、隠れるつもりも無かったけど」
頭を掻きながら着物? 姿の男は、そう言って肩を竦めた。
その顔を見て、思い出した。
「あ―――――――――――!!」
《side:ヘキレキ》
「あ―――――――――――!!」
”無法の女王”が叫ぶ様に俺を指差す。
人に指差しちゃいけませんと教えられなかったのか?
「あの時のオジサンだ!!」
……ふむ。どうやら向こうも覚えているらしい。
ここは……そう、こうしよう。
「そうです。私が、変なオジサンです」
変顔をキメて答える。
因みにオジサンと言っても魚じゃないぞ。
……というか、このネタ随分前のだけど伝わるのか?
「――えっと、お知り合い……ですか?」
思わずと言った様子で、三人組の内剣士が女王に聞く。
「ん? えっとね。多分この人なんだよ。ゲル君殺したの」
「え!? コイツがですか!?」
そう言いながら俺に指を差す”無法の女王”。
三人組は驚いて俺の顔を凝視する……というかスルーですか、そうですか。
”ゲル君”ってのが多分俺がキルしたレムナントの幹部だろう。
レムナントでキルしたのは一人だけだし。
「そうなんでしょ?」
まるで確定しているかの様だが、俺としてはこの状況で報復は無しにして欲しい。
折角得た経験値が無駄になる。
「えっと……何のことやら」
そう言い訳するが、”無法の女王”はハハハと笑い、
「いやいや……。あの組織で私達が捕縛してなくてレベルが高そうなの、私達の前から逃げ出せたオジサン位だと思うけど? だって【影魔術】使ってた時無言だったし。あれ、相当レベルの高い隠密系職業じゃないと覚えられない【無言詠唱】でしょ?」
決定的な証拠を俺に突きつけた。
「え、あ……あははは」
……何故バレた。




