4 即席パーティー
明けましておめでとう御座います。
今年も頑張って投稿していきたいと思います。
”武狭国家朕項”。
シンジュクを中心にして北に位置する”軍事国家レムナント”と同じく、ギルドから国となった内の一つであるが、規律と調和・協力を重んじるレムナントとはその在り方が違う。
『力ある者は武、無い者は別の才を見せよ』
それがこの国のルールだ。
国主であるプレイヤーネーム”項羽”によって定められたそれは、この国に集まる者達の特性を如実に表している。
この国に集まり、所属するのは戦う事が好きな者、及び一芸に特化した者達が多い。
例えば特化し過ぎて他のプレイヤーの補助が必要だとか、一属性に特化し過ぎて他の魔術を使えないとか、補助に特化していて一切戦う能力がないとかなど。
更に、国主の趣味で衣装や建物、武器や組織は昔の中国の様な文化になっている。
因みに、国名の最後の『う』を抜かすと怒る。誰が、と言えばこの国所属の奴の内そう言う事を気にする人間が。特にそれが短期な脳筋共の場合、拳や武器、魔術が飛んでくる。
何故こんな国名になったかというと、かの有名な名言「朕は国家なり」から取って「朕は項羽なり」、そこから”朕項”となった……らしい。
「久しぶりに来たなー」
俺は朕項の外壁を見上げて、思わずそう呟いた。
久しぶりというのも、”A”に入るまでの活動圏はシンジュクを中心にして朕項のある東や、人外系プレイヤー達の拠点である”魔族領域”のある南の方だったので、レムナントよりも朕項の方が知り合いが多い。
というか、レムナントには一切知り合いがいない。
そりゃ、レムナントは有名な連中だから一方的には知っているし、イベント等で姿を見る事もあるが。
俺は隣で同じ様にして城壁を見上げている李に尋ねる。
「で? 誰と待ち合わせなんだ? お前の事だから、少なくとも最前線に出れる奴だとは思うけど」
一見胡散臭い情報屋だが、李は情報屋らしくトッププレイヤー達の多くに伝手を持っている。
当人が高レベルである事は勿論だが、懐に入るのも上手く、また友人になるのも上手いのだ。
コイツに言わせれば、そういうのもまた情報屋にとっては必要なのだそうだが。
「そこら辺は任せるネ。……というか、お前も知り合いだヨ。ま、兎に角中に入るネ」
俺と李は二人で朕項の中へと入国する。
朕項の街並みは、アニメや映画で見る様な中国の唐や魏呉蜀三国時代を再現しており、まるで映画の中の登場人物にでもなったかの様な感覚に陥る。
潜入時に見て回ったレムナントが人族やエルフが多かったのに比べ、この国の街を行く種族は様々だ。
人族・エルフ族・ドワーフ・小人・獣人が多いが、中にはスライムだとかゾンビだとかの人外種プレイヤー達もいる。その中には特に数が少ない妖精族のプレイヤーもいた。
そんなカオスっぷりに相応しく、ピリッっとした雰囲気が漂うレムナントの街並み――レムナントは近代ヨーロッパの様な街並みだ――に比べ賑わってるし、やたらめったらと騒々しい。
というか中国然とした街並みに狩人の恰好やら西洋鎧って似合わないな。
李は漢服だし、俺は着物だから俺達は余り違和感がないけど。
更に、大通りを外れればそっち系の店が並んでいる一角もある。
”そっち”ってのが何を意味するかってのは……言わずとも察せるだろう。未成年には関係のない場所だ。
このゲームは”第二の世界”の名に相応しく、そう言ったところも再現され、そこで働くNPCやプレイヤーもいる。
因みに、そっち系の店が並んでいる一角には俺も成人しているので、入れるっちゃ入れる。
俺は入った事あるどころか、顔見知りも多いんだけどな。
勿論、レーティングは考えられていて、成人認証されていないプレイヤーは入る事が出来ない様になっている。
年齢も詐称出来ない様にプレイヤーの個人情報は国が持つ戸籍情報と照らし合わせているというのだから、どれ程の規模というか、特別な存在であり、世界最先端と言われる技術が使われているかも理解出来るだろう。
正に”世界的ゲーム”である。
……まぁその大き過ぎる規模や、高い技術、各国からも支援を受けているという事から黒い噂が流れてはいるけどな。
さて、李が俺を連れてきた場所は、飲食店だった。
このゲームは味覚も感じる事が出来るから、食もまた一つの醍醐味というか、楽しみである。
料理スキルにしても、国であったりジャンルであったりに細かく分類される為、例えば同じ”料理人”という職業であっても、作る料理の頻度によって”麺専門”とか”中華専門”とか”パン専門”とかに分かれていくのだ。
で、この店はこの国に似合っていない”イタリア料理専門店”。
ピザとかパスタとかがメニューである。内装は完全に中華だが、誰が何と言おうとイタリア料理店である。
李は目的の人物を見つけると、その人物が座っている席へと近付いていく。
……あぁ、なんだお前かよ。
「お、来たか李。……それと久しぶりだなヘキレキ! 手合わせするか?」
筋骨隆々の大男――いや、額に角を生やした赤い肌の大鬼は豪快に笑う。
……一言目でそれかい。
「……相変わらずの戦闘狂だな。月餅」
俺が呆れてそう言うと、プレイヤーネーム”月餅”は、「応よ」と当然だとでも言う様に答えた。
プレイヤーネーム”月餅”。
種族は鬼人。筋骨隆々の赤肌紅髪の大男で、その体格と一緒で豪快で闊達な奴だ。
ここ”朕項”の将軍職の一人であり、レベル190というトッププレイヤーの一人だ。
コイツもまた有名であり、闘技大会のバトルロワイヤルで見せた圧倒的な攻撃力とその目立つ容姿から、ユニーク職業と同名の”赤髪鬼”の二つ名で知られている。
その武力はゲーム内でもトップクラスであり、近接戦闘職のプレイヤーの中ではトップ10に入るだろう。
レベル上げにも積極的で、典型的なゲーマーというか廃人だ。
俺と月餅が知り合ったのはゲーム開始から半年後。
俺も月餅も最前線でレベリングをしていた為、そこで知り合ったのだ。
とはいえ俺は暗殺者でこいつは戦士系。
戦い方は真逆と言って良いだろう。だが、何故か仲良くなった。
俺は月餅が座っている席の反対側に座り、その横に李が座る。
そして、メンバーを見回して、俺は気になった事を言う。
「……このメンバーで行くのか? 前線職しかいないじゃねぇか」
俺は暗殺者、月餅は戦士系、そして李は格闘家……。
見事に前衛職ばかりである。
俺が少し影魔術を使えるとはいっても、李も俺と同程度の土魔術、月餅に至ってはスキルは持っていても魔術は覚えていない。どう見ても偏り過ぎていた。
これから行くのは俺等と同レベルの連中がわんさかいて、しかもそいつ等が日々頑張って広げている攻略最前線である。
魔術師とか僧侶系、狩人等の後衛職が欲しいところだ。
「うむ、確かにな。……だが俺の武力がある。どうにかなるだろう!! ハハハハハ!!」
俺は豪快に笑う月餅に、俺は密かに頭を抱える。
この脳筋、ホントどうしてくれよう。
もし物理攻撃が余り効かない魔物とエンカウントした場合、このパーティーでは逃げるか、時間を掛けて倒すしかなくなる。
「そうネ。……デスペナルティでレベルが下がったりするのは本末転倒ネ。勿論、もう一人も呼んであるヨ。もう少しで来るはずネ」
李はそう言うと、店員を呼んで俺達の分も含めて食事を頼む。
このゲームの料理スキルは、実際に作る工程を再現しなければいけないので、現実同様時間が掛かるのだ。
「これから行くのは攻略最前線の中でもレベル上げに一番効率的な場所ネ。その分レベルが高いけど、四人もいれば、苦戦はしないと思うヨ。……あ、来たネ。おーいこっちだヨ!!」
李の声に反応し、此方に歩いて来たのは知り合いだった。
そいつは俺の前まで歩いてくると、口を開いた。
「やぁ、レムナントにボコられ欠けたそうだな”暗殺者”」
軍師姿の眼鏡をかけた、いかにも秀才そうな雰囲気を漂わせた男、プレイヤーネーム”蟇蛙”が、口の端を歪める様な特徴的な笑みで立っていた。
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